表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/33

第18話 探偵と怪盗が死にそう

 目か覚めた私は、

一旦目は開けずに集められる情報を集める。

 鉄の匂い。

目ぶた越しに光が見える。

音は、足音が二人分。

肌に触れる風は冷たい。

 後は、身体を拘束具のようなもので固定され、

床ではなくベッドか布団に寝かされている。


「おや、寝たふりもお上手だとは。

流石のノーフェイスだねぇ。」


 気付かれたか。

しかし、聞き覚えがない声だ。

しかも、私を『ノーフェイス』と呼ぶ。

私を捕らえたのは、例の宗教団体ではないようだ。

 私は観念して目を開く。

そこには、二人の人物がいた。


「共犯者はどうやら、

『私の共犯者』ではなかったようだな。」


 私は開口一番に、

目についた共犯者に向けて悪態を付く。


「金さえ出せば、とか言っておきながら、

これだ。

なるほど、がめつい上に金にすら不義理だ。

今後の付き合いを考えねばな。」


 私の台詞に、

険しい顔をする彼女はなぜか言い返さない。

 そして、もう一人の人物は、

二階堂明(にかいどう あきら)だった。

だが、声が違う。

私のように声を変えていたのか?

どちらが地声かはさておき、

そんなことをする訳が思い付かない。


「そちらには、

『初めまして』、と言おうか。

二階堂殿。」

「あっはっはっ。

そう来るか。

 いや、君は頭が良い。

これは確かに、

共犯者を押さえてもなかなか捕まえられなかった訳だ。」


 楽しげに笑う顔は、

二階堂そっくりだが。

私の知る二階堂なら、しない顔だ。


「不思議なのは私が生きてる理由だな。

何故殺さない?」


 私はそう言って二人を見つつ、

自分の身体を確認する。

力が入らない。

拘束具だけでなく、

薬品で動けなくされているようだ。


「ここまで快活とされると、

捕まえた気にならないな。

こんなのと共犯してたの?」

「はい。

ただ、ひとつ言えば。

今までノーフェイスから受け取っていた金は、

さっき全額返却しましたよ。」


 律儀なことだな。

だが、この女が敵になったことに変わりはない。


「領収書がないんでね。

それ、間違いなく全額かい?」

「くどいよ。

本当に、アンタ嫌いだ。」


 いまいましげに見つめる共犯者。

それを楽しげに見つめる二階堂の偽物。


「君、何で怪盗なんてやってるのか、

不思議なくらいの切れ者だねぇ。」

「そちらこそ、切れ者だろう?

探偵、二階堂明。」


 私はこっちの二階堂を知らない。

何者なのか。


「そうだねぇ。

時間もあるし、

ネタばらしをしようか。」


 二階堂の偽物が私に歩みより、

私が横たわるベッドに腰かける。


「自己紹介からかな?

初めまして、私は二階堂明。

本物だよ。

 ただ、普段君や四葉が『二階堂明』だと、

思っていた方が偽物なんだ。」


 この男は、さも楽しげに話す。

横で私をにらみ続ける共犯者とは違って、

心底楽しいらしい。


「僕らは一卵性双生児。

双子だよ。

 でもね、名前も戸籍も一人分なんだ。

生まれた村の風習でね。

双子は縁起が悪い、と。」


 因習と呼べる習慣を今も続ける村は多い。

乳母捨ても、夜這いも、生け贄すら、今なお行われている。

双子うんぬんも、

この中では少し劣るがよくある因習だ。


「僕は、ずっと予備として育てられた。

同じ顔、同じ教育、同じ服装。

『同じ身体』。

 ただ、僕は少し頭が良かった。」


 私の顔を覗き込む二階堂の顔は、

似ているもののやっぱり知っている二階堂ではない。

彼の言うことが正しいとして、

双子なら声も似ると思うのだが。

妙な違和感がある。


「それでね。

僕は一人で町に逃げて、

探偵を始めたんだ。

それが『二階堂探偵事務所』。」


 二階堂探偵事務所は、今から十年前設立された。

当時は事務所はなく、

彼の住むアパートが事務所代わりだったらしい。


「それが調子が良くてね。

それが、悪かったんだよ。」


 声質が変わる。

さっきからずっと感じていた違和感の原因がわかったぞ。

彼は、否、彼女は女性か。

 顔も体格も男性のものだが、

良く観察するとちがう。

十中八九、女性だ。

 気になるのは、

さっきの『同じ身体』と言うのはどういう意味か。

性別を変える手術についての海外の医学書を見たことはあるが、

まだ実用的な段階じゃないとあった。

なら、単に女性器や子宮を摘出している?

だとしても、かなり酷い話だ。


「村にいるはずの二階堂明が突然事務所にやってきて、

僕の事務所を乗っ取ってしまってね。

 僕は訳あって、彼に強く出られず。

そのまま有名になって、君たちに会った。

 その間の僕は、

言わばゴーストライターだ。

二階堂の推理や頭脳に携わる部分は僕がやっていた。

現場を走り回って脚光を浴びるのは、

あっちの二階堂だった。」


 不服そうな声色。

納得してそうなった訳じゃないんだろうな。


「それでね、

二階堂を殺すことにした。

 怪盗ノーフェイスの共犯者と協力をして、

ほどよく犯行を重ねて有名にし。

この前のノーフェイスとの追いかけっこで。

工事現場の足場が崩れて。

下敷きになって。」


 ……今までの私の犯行は、全て工作されていたのか。

だから、二階堂が死んだ日に私の知らない足場があり。

それが崩れるよう細工されていて。

私を追ってきた二階堂がそれを使って、

崩れた足場に巻き込まれた。

全てコイツらが仕込んだシナリオがあったのか。

 共犯者が向こう側なら、

さもありなんとも思えるが。

私は基本的に、

共犯者には事前の周辺や人物の調査しか依頼してない。

犯行プランは私の頭の中だけ。

なにかに書き出したりはしない。

おそらく、

同じ情報を見て二階堂が私のプランを予測していたのだろう。


「でもね、君が二階堂の死体の回収を命じた。

予想外だったんだよ。

君は見捨てて逃げると思ってた。」


 私は二人を見てため息を付く。

やはり、『怪盗には探偵が必要』と言う理屈は、

理解して貰えないらしい。


「探偵を道連れに、

ノーフェイスも死ぬ。

そんな脚本だったんだけどね。

全部台無しだよ。」


 あの時、

アドリブで色々したことが運良く命拾いに繋がったらしい。

 今までこの女たちに手玉に取られていたことに、

腸が煮えくり返るほどムカつくが。

無意識と言えど、

最後にどんでん返ししてやったと思えばいくらか溜飲が下がる。

あわせて、私は言ってやった。


「失敗だな。

様あ見ろ、だ。」


 突然、二階堂が私の顔面を殴り付けた。

拘束されて受け身も取れず、

まともに鼻面に食らってしまった。

 私は痛みに悶えながらも、

二人を見下した目を止めない。

追加で二、三発殴られたが、

痛みより優越感が勝つ。

 苦しみながらも、笑ってやった。


「ごほっ!

……殴らないと黙らせることもできないのか?

名探偵殿?」


 さらに激しく殴られる。

意識こそ失わなかったが、

朦朧として視点が定まらない。

私の鼻の骨が折れて、顔が血塗れだ。


 だが、私は笑う。


 これほど愉快なことはない。

現場にも出ず、

机に向かって計画し、

他人を使って自分だけ安地で嫌らしく笑うヤツの計画をぶち壊したと思うと、

腹の底から笑いが込み上げてくる。

痛みより、苦しみより、何より愉快だ。


「がふっ!

……四葉を呼びたまへ。

か弱い君に代って……、

私を殴ってもらうどいい。」


 更に、私は気づいた二階堂の性別のことを匂わせて嘲笑う。


「コイツっ……!」


 二階堂の顔が怒りに歪む。

二階堂は枕元かどこかから取り出した空の尿瓶で私を殴る。

流石に私は意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ