第15話 生死の確認
翌日、午後過ぎに事務所を出てDATに乗り込む。
もちろん、四葉を連れて行く。
「あ、二階堂さん。
お出掛け?」
ハツに呼び止められた。
私は二階堂として、
挨拶をしつつ世間話をする。
「えぇ。
ハツさんは、お掃除ですか?」
「えぇ。
お昼が終わって一段落したので。」
華が開くような笑顔だ。
「少し、調べものに。」
「そうですか。
四葉ちゃんも一緒に?」
「はい。
行ってきます!」
四葉は笑顔でハツに応えた。
「いってらっしゃい。」
私たちはハツに見送られてDATを発進させた。
「さて、千田の事務所へ行くぞ。」
「突然行って、どうするんだ?」
「実は、突然ではない。
二階堂が前に千田に依頼をしていた。」
「……先生が、他の探偵に?」
四葉がいぶかしげに私を睨む。
「お前の家族を探して欲しいと依頼をしていたようだ。」
私のその一言で、
四葉は目を見開いて止まってしまう。
「お前の顔を見たいと千田から連絡があったんだ。
丁度良いだろ?」
「……家、族?」
私は四葉を横目で見る。
放心したような、夢うつつなような、
心ここにあらずと言った様子だ。
「二階堂は一年前から依頼していた。
その調査報告も兼ねて、今から千田に会いに行く。」
「み、見つかったの?」
「落ち着け。
それを聞きに行くんだよ。」
四葉は予想通り、狼狽している。
しばらくDATが進むが、
四葉はほとんど話さなかった。
しばらく進むと、
ボロい商業ビルが見えた。
窓ガラスは段ボールで目張りされて、
廃墟にも見える。
だが、『千田探偵事務所』と言う看板はしっかりかけられていた。
駐車場に車を停めて、
DATから降りる。
四葉はぼんやりした様子のまま、
助手席から降りてきた。
「おい。
しっかりしろ。」
「え。あぁ。」
絵に描いたような生返事だ。
私はため息を付いて、二階堂の声に変える。
「さぁ、行きますよ。」
「う! え!
はい!」
四葉に無理をしているのはみえみえだが、
今さらだ。
私は千田の事務所へ向かった。
「四葉君、辛いなら帰りますか?」
あえて二階堂の声で私の意見を言う。
四葉はそれに気付いてかどうか、
両頬を自分で叩いて私の顔を見た。
「行きたい。」
意思は固いようだ。
なら、行こう。
私は事務所のドアをノックした。
「はぁいよ。」
そう言って出てきたのは、
よれよれのコートを着た男性。
無精髭に延び散らかった髪の毛。
身なりはみすぼらしいが、
身のこなしはしゃんとしている。
コイツが千田か。
「お。
名探偵さんだ。
約束通りだな。」
「えぇ。
こちらが、四葉シロさん。
四葉君、こちらが千田さん。
車で話した通り、
君の家族を探してくれています。」
四葉の顔を見てアゴを撫でる千田。
四葉は千田をまっすぐ見て、声を出す。
「かぁさんと、とぉさんは、いましたか?」
千田が目を丸くして、私の方を見る。
「聞いていたより、
しゃんと話すお嬢ちゃんじゃねぇの。
とりあえず、あがりな。
詳しい話しは奥でしようや。」
私たちは千田に連れられて、事務所へ入った。
事務所内は小綺麗だが、
建物がボロいためそこいらに土ぼこりが見受けられる。
二階堂の事務所も土足で入るが、厚い絨毯を敷いていた。
ここはコンクリート丸出し。
しかも、所々欠けている。
「足元、気を付けてな。
穴は空いてねぇけど、
嬢ちゃんの力ならぶち抜けるだろうから。」
「が、頑張ります。」
四葉はそう言って、そろそろ歩く。
頑張る必要があるのかよ。
「そこのソファーはキレイだと思うから、
座ってくれ。」
言われた通り、私たちはソファーに座る。
確かに、これは磨かれたようにキレイだ。
「コーヒーしかねぇんだわ。
嬢ちゃんは飲めるか?」
「お砂糖と牛乳があれば。」
「すまねぇ。
砂糖はあるけど、牛乳切らしてるわ。
白湯でいいか?」
四葉はうなずく。
本当に借りてきた猫状態だ。
出されたコーヒーは案外良い豆で、
味も良い。
四葉は白湯を飲み干して、千田だけを見ている。
「あー……。
そんなに見つめられると、調子狂うんだが。
まぁ、内容が内容だな。」
千田はそう言って向かいの段ボールに腰かけた。
「調査報告の前に、
四葉君を連れてきて欲しいと言う理由を伺っても?」
「妥当だな。
写真では髪の色とか、
眼の色とか分からねぇから確認したかったんだ。」
そう言って、千田は二枚の写真をコートからとりだし、
私たちの前のローテーブルに置いた。
片方は二階堂が渡した四葉の写真。
もう一枚は知らない写真だが、
四葉に似た女性が写っている。
それを見た四葉は目を見開いて、動かなくなる。
「北海道に住んでた娘さんの写真と、
嬢ちゃんの写真がすんごい似てんのよ。
ちなみに、この娘さんも行方知れずだ。
これを持ってたのは、娘さんのご両親。」
「……他人の空似、と言いきれないほど似てますね。」
私は二枚の写真を持ち上げて見比べても、
他人とは思えないほど似ている。
「娘さんの十五の時の写真らしい。
ただ、行方不明になったのは十五年前。
嫌な予想だけどよ、
この娘さんも例の宗教団体に拉致られてた被害者、
ってぇ俺は見てる。」
確かに、例の宗教団体は十代の少年少女を誘拐して、
恐ろしい実験台にしていた。
目的は不明だが、
残されたおぞましい資料が彼ら彼女らの凄惨な最後を記録している。
四葉の顔の血の気が引く。
私が千田の話を促す。
「警察で押収できた一部の資料には、
載っていない被害者、と?」
「あぁ。
アンタらには気の毒だが。
例の宗教団体、
完全に制圧できてねぇかも知れん。
どっかに生き残りがいて、
ソイツらがなんかしてる。
いんや、逃げて隠れてるんじゃねぇかな。」
宗教団体の全貌は明らかにできず、
教祖とおぼしき男は逮捕後に自殺した。
生き残りの関係者も軒並み自殺していき、
詳しいことが分からずじまい。
私は千田に忠告する。
「そうなら、貴方の身が危ない。」
かなり過激な宗教団体だ。
命を狙われる恐れがある。
「そう言ってくれるなよ、名探偵。
これでも、元だが警察で。
しかも、
その事件の事を警察時代に追っかけてたんだぜ?
既に乗ってる船なんだ。
最後まで連れてってくれよ。」
千田は自嘲する。
その顔は決意と覚悟と、怒りが見える。
「……貴方も、
例の宗教団体に因縁がおありか?」
「……たぁっぷりあるよ。
だから、もう少し調べてぇんだわ。」
千田は、良い探偵だ。
だが、やはり警察で。
そして、二階堂のような探偵と根ざしている場所が違う。
私は懐から封筒を取り出して、
ローテーブルに置いた。
「調査報告の中間報酬と、
追加の調査費です。
後、私から三橋警部に連絡しますね。」
「あぁ、頼む。
俺の連絡が途絶えたら、分かってるな?」
もし、千田との連絡が途絶えたら、
核心に近いところまでたどり着いたと言うこと。
千田は己の命すら、賭けるつもりだ。
私は腕組みをしつつ、
思案する。
「連絡は今後、慎重にしましょう。」
「ちげぇねぇな。
手紙は不味い。
電話もなぁ……。
ハゲに伝言してもらうか。」
千田は三橋と同期なので、
彼のことをハゲと呼ぶ。
「あの、あの……、いき、生きてますか?」
四葉が瞳に涙をためて、千田に訪ねた。
主語は言わずもがな。
「……まだ、調査中だ。
お嬢ちゃん。
少なくとも、
彼女は君を産んだ時には生きてた。
その後、君とどこまで一緒だったか分からない。」
四葉は保護当初、歯の検査をしたところ推定十歳。
二階堂は十一歳と言うことにして戸籍を作り、
今年で十四歳になる。
「お嬢ちゃん、
来年まで待ってくれねぇかな。
君のかぁさん、かもしれない人の写真はあげよう。
もう少し、泣くのは我慢してくれ。」
千田は、四葉頭を優しく撫でてそう言った。
その顔は父親の顔だった。
彼もなし、だな。
ただ、このような素晴らしい探偵はなかなかいない。
別の良い探偵として、リストアップしておこう。




