第14話 時間が足りなくて死にそう
取り調べが終わった頃、
犯人が逮捕されたと三橋から連絡があった。
やはり、犯人は被害者の秘書だった。
被害者の愛人で、会社の金を横領していた。
横領が発覚しそうになったので、
被害者を殺害して自分だけ逃げようとしていたそうだ。
犯人は見つかった時に大金と裏帳簿を持っていたので、
即逮捕。
殺人についても、
軟膏に混入させた蕎麦の花の蜂蜜の話をしたら自白したそうだ。
ホテルを出ると、外はすっかり深夜。
私は眠そうな四葉をしったしながら、
駐車場のDATへ向かう。
「お前、今日もすごかったな。」
四葉がポロリと呟いた。
「当たり前だ。
二階堂に成りすますために、
事前に調べあげている。」
「……そう言うことじゃなくて、
推理だ。
私には分からなかった。
蜂蜜で人を殺せるとか、
普通分かるわけない。」
「知識量と、観察力、洞察力。
そして、発見した情報を多角的に考察する。
二階堂にできて、天才の私ができないわけがない。」
四葉が何故か睨んできた。
「お前、もうお前自身で探偵やった方がいいだろ。」
「はっ!
探偵なんて、下らない!
誰かのために?
馬鹿馬鹿しい。
私の人生だ。
私のために、私の才能を、
やりたい放題する。
それが私の人生だ。」
四葉がげんこつを作って、
それに息を吐きかける。
「次、先生の悪口を言ったら殴る。」
「……やめろ。
と、言うがな。
怪盗に向かって『探偵が似合ってる』、
なんて言う方がバカにしてるんだ。」
「……犯罪者より、絶対いいだろ。」
私はため息を付きつつ、DATに乗り込む。
四葉はそれに続いて助手席に乗った。
私はキーを回してエンジンを動かす。
「怪盗だぞ?
お前の言う通り、犯罪者だ。
私は私のために、やりたいようにやる。
私が主体で、私のやりたいことを、
やりたい時にやる。
探偵と真逆だろう?
誰かの依頼で、誰かのためにが探偵だ。
主体性ゼロ。完全に受け身だ。」
「……確かに、真逆だ。
だけど、
お前は宝石とかが欲しいんじゃないだろ?
この前のがよく分からなかったが、
ちんどん屋とか、弁士さんみたいに目立ちたいんだろ?」
四葉の理解できるエンターテイメントがそのレベルなのは理解できるが、
ちんどん屋レベルと言われると少し腹が立つ。
「私の名を残し、畏怖の対象となる。
畏怖だ。
お前に分かるように言うなら、
『怖いものとして』私を見てもらう。
分かるか?」
「お前、怖くないぞ?」
あっけらかんと言い放つ四葉。
私はため息を付きつつ
「お前ほどの身体能力なら、そうかもな。
だが、普通のヤツらは違う。
いつ自分の財産が、命が奪われるかも知れない。
それを防ぐことができない。
怖いだろ?」
「やっぱり、アタシにはわからない。
同じだと思うけど。」
四葉が唸りながら頭を抱える。
私はDATを発進させた。
「今回の探偵は、ダメだ。
可能性は感じるが、若すぎた。」
「二人とも二十歳だったっけ?
それで若いの?」
「そう言う年齢的な若さじゃない。
探偵としての、経験が若い。
十年後には二階堂に次ぐくらいにはなれそうだが。
私には時間がない。
十年も二階堂に成りすますなんて、
無理だ。」
四葉が苦い顔で私を見る。
「そうだな。
今も顔も口も動かないのに、
ノーフェイスの声だけするし。
そんなのが、十年も続くなんて気持ちが悪い。」
「気を取り直して、次の探偵だ。
とりあえず、
今日はもう遅い。
事務所へ戻って休むぞ。」
大きなあくびをする四葉を鼻で笑って、
私は続ける。
「お前も今日は働いたしな。」
「そうだ。
アタシのお陰で蜂蜜が分かったんだぞ。」
四葉が胸を張るが、
そこまで大層なことはしてないと思う。
「犬くらいの働きだったな。」
「よし、お前殴る。」
「バカ!
運転中だ!
やめい!」
四葉をなだめすかして、私は話題を変える。
「明日のモーニングはヒポポタマスで食べるぞ。
午後から出掛けて、
次の探偵を見に行く。」
「分かった。
どんなやつだ?」
私は緩やかにカーブしながら話し出す。
「千田 博巳と言う。
探偵歴は長いが、
推理より情報収集が依頼の大部分らしい。
元警官で、あだ名が『千日千田』。
千日以上同じ標的を張り込み続けたとか。
そのお陰で、事件解決の糸口が見つかり、
警察からの信頼はあつい。」
四葉が目を見開く。
「千日?
凄いな。
飽きないのか?」
「千日と言うと、三年くらいだ。
かなりの期間ではあるが、
執念のなせる業だな。
推理力は未知数。
だが、情報収集力は二階堂以上。
体力もあるだろうが、
筋力より持久力だろうな。
助手はいない。
一件の依頼に時間がかかるから、
そんなに儲けてないらしい。」
一応私の考える三か条には当てはまりそうだ。
四葉の二か条には微妙だな。
案の定、苦い顔になる四葉。
「お前、金を貸してやれ。
助手は女で、体力があって、愛嬌があるのだ。」
「そこまでして助手は付けれん。
とりあえず、実際にどんな人物か見て判断しよう。
今日は偶然事件が起きて、推理姿も見れた。
明日はそんな運良く行かないだろう。
最低限人となりが見れれば、完了としよう。」
「本当に、今日は驚いた。
事件から転がってきたもんな。」
四葉が腕を組んで唸る。
確かに、運が良すぎた。
あの軟膏を使うタイミングは、
完全に被害者の任意のタイミングだ。
しかも、食事のときに軟膏の付いた指を舐めて倒れた。
偶然にせよ、あまりにも良いタイミングだ。
だが、こればかりは誰かが操作できない。
本当に偶然。
「被害者は気の毒だが、
私は探偵兄妹の推理がみれて嬉しかったぞ。」
「極悪人め。」
四葉に悪態を付かれて、睨まれた。
だが、事実だ。
「そうとも。
私は怪盗ノーフェイスだぞ?」




