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第12話 占い師は死にそう

 財閥を含む金持ちはパーティが好きだ。

これは酒や食べ物もそうだが、

人脈を広げるためのパーティだ。


「初めまして。

お噂はかねがね。」

「初めまして、

探偵の二階堂と申します。

この度は、お招きいただき感謝いたします。」


 主催者に頭を下げ、

二階堂の顔で笑顔を作る。

四葉?

どっかで飯を漁ってるはずだ。


「私も美術品をコレクションしておりまして。

かの怪盗が現れましたら是非ご助力いただきたい。」

「その時は微力ですが、お力になれましたら。」


 短い挨拶の予定だったが、

がっしり主催者に肩を掴まれてしまった。

 私の視界の角には、例の探偵もいる。

百里(バイリー)兄妹だ。


「まず、

私が昔から贔屓にさせていただいている先生をご紹介したい。

先生、こっちに。」


 主催者は百里兄妹を手まねいた。

これは好都合。

だが、四葉めはどこにいった?


「こちら、百里柳明(バイリー・リュウミン)さん。

風水師の先生で、

二階堂さんと同じく探偵をされている。

 私の生業は建設関係なので、

風水による知見は大変助かっている。

 先生、こちらは……。」

「存じています。

名探偵と名高い二階堂先生ですね。

お会いできて光栄です。」


 百瀬はそう言いつつ私に右手を差し出した。

私はそれに応えて握手をする。

 力はそこそこ。

百瀬の糸目の奥には心からの尊敬が見える。


「初めまして、

紹介に預かりました探偵の二階堂と申します。

 百里先生に至っても、

お噂を何度も耳にしております。」

「それは光栄です。

私はしがない風水師。

探偵と名乗るのもおこがましい。」


 彼は二階堂を尊敬しており、

人柄は良。

ただ、

その隣の人物は隠す気もない敵意を私に向けている。


「こちらは妹の(レン)です。」

「初めまして。」


 ずいぶんトゲのある物言いだ。

たった一言で私は敵です、と伝わるほどだ。

追い撃つ様に彼女は付け足す。


「私は幼女を囲う変態とは、

仲良くしたくありません。」

「こら、蓮。

失礼しました。」

「いいえ。

そう言う誤解はいつものことです。」


 世知辛いが、

未婚の男性が女児を養子にする理由に良いものは少ない。

よくあるものでも、

手を出した女中を正妻にできず、

できてしまった子供を養子にするとか。

 二階堂は生前、

そう言う目で見られることがままあった。

どうやら今回もそれらしい。


「養子にされた彼女は例の事件の時の、

ですよね。

 私は存じておりますが、

妹がどうにも信じないようでして。

本当に失礼しました。」

「身寄りがないから都合がよかっただけでは?」

「コラ。」


 柳明が蓮の頭を軽く押さえて謝らせる。

間の悪いことに、四葉がどこからか歩いてきた。

彼女はビュッフェの料理を皿いっぱいに積み上げて、

片手に軽々と持っている。

 四葉は私が話している相手を見て、

怪訝な顔をしている。

口の回りが食べかすで大変な事になっているのだが、

気付いてるのか?


「のぉ……。

ゴホン。

先生、何かありましたか?」


 ノーフェイスって呼びそうになったぞ、コイツ。

イラッとしたのをこらえる。

私は意趣返しもかねて、

四葉の口元を指差す。

食べかすに気付いた四葉は慌ててハンカチをとりだし、

口元を拭いた。


「こちらが、四葉女史ですか?」


 柳明がそう言って四葉に挨拶する。

柳明は年下の四葉に対しても、

低姿勢で丁寧な挨拶をした。


「初めまして。

助手の四葉です。」


 だが、そう言って頭を下げる四葉の視線は、

蓮の胸元だった。

確かにそれは大きくたわわに実っている。

だが、同性だからと言って、

そこをそんなに凝視するな愚か者よ。

 柳明と蓮の年齢は十八歳。

同じ両親から産まれ。

双子ではなく、

年子でギリギリ同い年とのことだ。


「は、初めまして。

百里蓮と申します。」


 四葉のちゃんとした身なりと、

丁寧な受け答えを見てたじろぐ蓮。

彼女の中では、

四葉はもっと粗雑に扱われているものだと思っていたようだ。


「先生、このお二人が?」

「そう。

噂の探偵兄妹だよ。」

「主催者の方ですか?」

「いいや。

主催者の方が贔屓にされているそうだ。」


 私と四葉のやり取りを見て、

さらに狼狽する蓮。

 彼女は三文小説の奴隷みたいな扱いを想像してたようだ。

愚か者はこの妹だな。

私は胸の内で減点する。

 主催者の男が、笑顔で入ってきた。


「いやぁ、

百里先生が二階堂先生の事を尊敬していると聞いたので、

今日来ていただけて本当に嬉しい限りだ。

 まぁ、食事もお酒もたくさん用意させたので、

ゆっくりご歓談ください。」


 そう言って主催者は笑顔で立ち去っていった。

微妙な空気が漂う中、

私は二階堂として話を切り出す。


「お二人は風水師としてもご高名ですよね。

私も聞きかじった程度ですが、

建設関係に関わらずどんな依頼も風水でみておられるとか。」

「えぇ。

よくご存知で。

 私たちは本格的な風水師として仕事をしていますが、

最近は探偵としても風水を利用しています。」

「失礼に当たるかもしれませんが、

同業者としてとても興味がありまして。

 私なんかは聞き込み、張り込み。

現場百ぺん、の古い探偵なので。」


 二階堂は警察からも一目置かれるほど現場主義だ。

その洞察力と些細なことも見逃さない執着は、

私も驚愕した。


「失礼なんて、とんでもない。

むしろ、占いなんてもので捜査をするなんて、

と自分でも思ってしまうくらいで。

 初めは、私が本当に追い詰められたときに、

捜査の指針として風水を用いたのがきっかけですし。」

「兄さん、そんなこと言わないの。

お陰でお仕事も増えて、

やっと生活が安定したんだよ?」

「分かってるよ。」


 どうやら、

財布は妹の蓮が握っているようだ。

たじろぐ柳明を蓮がじっとり睨んでいる。


「きゃー!」


 突然、絹を裂くような悲鳴が会場に響いた。

私は百里兄妹と顔を合わせて、悲鳴がした方へ駆け出す。

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