第11話 コネがあると死にそう
私は夜中に二階堂探偵事務所に入った。
もちろん、二階堂に変装している。
「遅いぞ、ノーフェイス。」
四葉が泣き腫らした目で私を睨み付ける。
彼女は事務所のソファーで寝そべっていた。
「先に寝ていろと言ったが?」
私は顔と声をノーフェイスにして、
ドアを閉めて鍵をかけた。
そして、ため息混じりに四葉をにらみ返す。
よく見ると事務所は散らかり放題だ。
「好き放題したみたいだな?」
「……先生が死んだって聞いて。
むしゃくしゃして……。
まだ一時間に一回は先生が生きてるかもって、
思うんだ。」
「……そう考えると、
お前かなり抑えたんだな。」
四葉の身体能力で、
全身全霊の駄々をこねられると町が半壊する。
それが、破壊範囲はこの事務所内にとどまり。
しかも、家具は無事なのは彼女なりの努力だろう。
「ここには先生との思いでもある。
壊したくない。
……でも、暴れたい。」
「……どうする?
本当に私と一緒に次の探偵を探せるのか?」
私は念を押す。
四葉は涙を瞳いっぱいに溜めながら、
歯を食い縛り大きく頷く。
「分かった。
次の探偵を見に行くぞ。
明日の予定だ。」
「……わがっだ。」
膝を抱えてうずくまり、
すすり泣く四葉。
私はそれにかわまず、話を続ける。
「私のコネを使って明日、
ホテルで開催されるとあるパーティーへ向かう。
そこに候補の探偵が来るそうだ。
欲を言うなら、
そこで事件が起きれば推理姿も見られて完璧なのだが。
今ノーフェイスとしてそこへ出ていくのは愚策だ。」
四葉が顔を上げてこちらを見る。
「なんて人?」
「百里 柳明と言う。
二階堂とも初対面のようだ。
華僑の者で風水を使って依頼を導くと言う。
当たるも八卦、当たらぬも八卦だが。
物事を進める指針として占いを用いることは、
悪手とは言えない。」
私の言葉にいぶかしい顔をする四葉。
「……はっけ、って何?」
「占いのことだ。
風水も占いの一種でな。
統計的な見方もしているため、
当たる可能性が高い。
最近、『血液型ト気質ニ関連アリ』、と新聞で見たが、
それよりは遥かに信用して良いものだと思っている。」
私は事務所の衣紋掛けに二階堂のコートをかけて、
四葉の向かいにあるソファーに腰かける。
「眠れないか?」
「眠れるわけ、ないだろ。
先生が死んだんだぞ?」
私の言葉に噛みつく四葉。
私は頭をかいて話を続ける。
「では、気を紛らわせろ。
適当に私の話を聞き流せ。」
「つまらない話なら聞きたくない。」
「私の探偵の選定基準だ。」
私の言葉に四葉が襟をただした。
「聞きたい。
話せ。」
「乗り気なのは良いが、
眠いなら寝ろ。
また明日聞かせてやる。」
「早くしろ。
殴るぞ?」
「……これだから、獣は。」
私はため息をついて、話し始める。
「一つは私、ノーフェイスと対峙できる頭脳。
そして、巧みに逃げるノーフェイスを追いかける体力。
これは、お前がやってた部分だ。
お前との追いかけっこは骨が折れたが、
いい演出だった。
最後に、これが重要だが、
財閥当主たちや警官との繋がりを持っているものだ。
事件が起きたら捜査協力を打診されるくらい信用されていなければ、
その辺のごろつきと変わらん。」
二階堂には、
四葉の怪しい宗教団体による誘拐殺人事件を解決した実績がある。
この事件は財閥の血縁者にも被害が出て、
警察も長年解決できず苦悩していたものだ。
それを颯爽と現れた二階堂が解決し、
今の彼の地位を確立させたと言っても過言ではない。
「私の考える探偵像は他にもあるが、
最低限必要だとしているのはこの三つだ。
最悪、二階堂とお前のように、
二人か三人で分業していてもいい。」
「体力面はアタシがやってた。
後の二つは先生、ということか?」
四葉は頭を抱えながらそう言った。
私は肯定して、話を続ける。
「この前の十河はダメだ。
まず、頭脳が足りない。
あの程度の推理では、私とやりあえない。
財閥とは繋がりはありそうだが、
警察と敵対的な態度を取っていた。
これもダメだ。
体力面も疑問だ。
お前なら、
あの場でドアを銃で撃つ前にぶち破ったろ?」
「朝飯前だ。」
四葉が曲げて見せた腕には力コブはないが、
一撃で車がひしゃげるほどの腕力だ。
一瞬どころか、
一刹那もあれば木製のドアがおが屑になる。
「あの場にいたのが二階堂だけだったとしても、
絶対銃で撃ってドアを開ける、なんてさせないだろう。
どうにかしてでも、窓から入るはずだ。」
四葉が人差し指を立てる。
「探偵の条件に一つ追加したい。」
「なんだ?」
四葉が真面目な顔で言う。
「先生を尊敬している人がいい。
前のヤツは、先生をバカにした態度だった。
あれはダメだ。
先生の姿をしたノーフェイスだとしても、ダメだ。」
「……なるほど。
それは、一理ある。」
四葉がもう一つ指を立てる。
「後、そこまで重要じゃないが、
私みたいな助手を連れてる人がいい。
先生の横にアタシもいた、と思い出してもらいたい。
ダメか?」
「……一考の余地はある。
ただ、助手を雇えるほど儲けている探偵が少ない。」
「そうなのか。
残念だ。」
四葉が肩を落とした。
私がため息混じりに言う。
「ちなみに、
明日会う百里には助手がいるそうだ。」
「お!
それはいいな!」
四葉が笑顔でそう言った。
「百里の妹と言うことだが、
お前より年上だ。
しかも、普段事務処理を担当していて、
体力面は普通。」
四葉が苦い顔をする。
「アタシ、負けてる。」