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第10話 助手は矜持を殺した

 自宅に戻って三日。

私はそろそろ二階堂探偵事務所に電話をかけてみることにした。

四葉が出掛けているかもしれないが、

最悪カフェー・ヒポポタマスに顔を出して帰れば良い。

 私は怪盗業用に用意している隠れ家に向かう。

屋敷の地下の通路からしか入れない場所。

崖の断崖絶壁の中に作った隠れ家だ。


「……荷物は届いているな。」


 ここには共犯者も来れるように、

別ので入り口も用意している。

私は二階堂の荷物を確認して、

すぐ持ち出せるようにする。

車のキー、手帳と財布。

その他は領収書だ。

 共犯者とは、

名前もなにもお互い聞かない。

怪盗業の共犯者なのだ。

金のやり取りと仕事さえこなせれば、

他は不要。

むしろ、お互いに距離を置きたいほどだ。

 私は隠れ家にある電話をかける。

二階堂探偵事務所は有名なので、

すぐに繋がった。


「……もしもし。」


 四葉の声だ。

何故か弱々しい。

私はノーフェイスの声に変えて話す。


「私だ。

ノーフェイスだ。」

「っ!

お前か……。

知らないヤツからの電話だったら、

どうしようかと思った。」


 四葉がホッと胸を撫で下ろす気配がする。

それくらで、大袈裟な。


「予定どおり、

今日の夜には二階堂の姿で戻る。」

「わかった。

依頼は何も来てないぞ。」


 四葉がぶっきらぼうに言い放つ。

そして、意を決したように訪ねてきた。


「……先生はどうなった?」


 順当な質問だな。

どう答えたものか、私はしゅん巡する。

 二階堂が死んだことを素直に伝えて、

四葉がやけを起こす可能性もある。

だが、嘘をつくにせよこのタイミングは今後の協力体制に響く。


「……残念だが。」


 私は意を決してそう言った。

電話は沈黙してしまう。

 少しすると、鼻をすする音ともに、

四葉が吐き出す。


「もう一度……聞くっ……。

ノーフェイス……!

お前が殺したんじゃないんだな?」


 怒気と悲しみが入り交じった声だ。


「断じて私は殺してない。

以前も言った通り、事故だ。

解体工事用の足場の倒壊に巻き込まれてな。」

「……おば、お前がっ……。

足場を、壊したか?」

「いや、むしろ私は助けようとした。

間に合わなかったがな。」


 すすり泣く声が聞こえる。


「……ど、どうずる?」


 泣きながらも、

四葉は前を向いたようだ。

私はあえて提案する。


「お前が嫌なら、

すぐに適当な事件を起こして二階堂の死を公にしよう。

同時にお前も死んだことにして、

どこかへ逃がしてやる。

 以前言った通り、

新しい家、金、仕事は用意してやろう。」

「おばえ、つ、づぎ、づぎの、探偵っ……を!

さがずんだろ?」


 嗚咽混じりに強がる四葉。

私はため息混じりに言う。


「そんな状態のお前が言うか?」

「言う、言うよ!

だって、先生の最後の事件でしょ?!

それを、雑な感じにはしたくない!」


 ……なるほど。

四葉が言わんとしてることは、分かる。

私、ノーフェイスとしても、

怪盗と言う肩書きをただの人殺しにしたくない。

 次の探偵を見つけて、

次代に思いを託して死ぬ探偵というのは劇的で良い。

私、ノーフェイスも活躍のしがいがある。

 だが、私としてはそれより気になることがあった。


「私が言うのもなんだが。

お前、私を疑わないのか?」

「……研究所で、……悪いヤツらは、

『かぁさんととぉさんが迎えに来てくれるまで、頑張れ』って言った。

でも……、かぁさんもとぉさんもどこにもいなかった。

嘘つきだ。

 お前は『先生は生きてる。迎えに来てくれる。』って

言わなかった。

そう言った方が良いのは、バカのアタシでも分かる。

だから、お前は嘘を言ってない。」


 なかなかに、良い考察だ。

やはり四葉はバカではない。

考えない癖がついてしまっているだけだ。

なんともったいない。


「でも、お前が先生を殺したかどうかは、

まだ信じてない。」


 電話越しでも分かる殺意に、冷や汗が流れる。

これだからコイツは嫌いだ。


「わかった。

私は次の探偵を探す。

お前は次が見つかるまでついてくる。

それで良いのだな?」

「いい。

先生をお前が殺したかどうか、

見極めてやる。」


 気落ちするどころか、

むしろ、決意を新たにした四葉。


「分かった。

香典代わりに、

活動写真へ行く小遣いもやる。」

「ぅっ!

それには、釣られない!」


 私には結構揺らいだように思えるが。


「とにかく、今晩には帰るからな。」

「夕飯はマスターに言うか?」

「言わんでいい。

深夜に帰る。

お前は先に寝ておけ。」


 鼻声で分かったと聞こえた。

私はとりあえずひと安心して、受話器を置いた。

 四葉が二階堂の死を受け入れた。

これは大きな一歩だ。

協力体制を続けるにせよ、解消するにせよ、

ここで心折られては困る。

 私は一息ついて、電話をかけ直す。

電話をかける先は、

この三日でリストアップした探偵の一人だ。


「失礼。

急ぎ、依頼をしたいのですが……。」


 私は声を変えて話し始めた。

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