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第01話 名探偵が死んだ

 私は人生で過ちを犯したことがない、と自負している。

現に、百十一の犯罪を犯しても未だ逮捕されず。

正体もバレていない。

 更に、七十一の犯罪を計画して他者に売り付けた。

これらの内、過半数は実行犯が捕まった。

だが、私と一部の実行犯は逮捕されていない。


 完璧な、私。

完璧な怪盗。

それが、私。

怪盗ノーフェイス。


 とは言えど、失敗しない人間はいない。

私も人間だ。

だが、私は天才なので、

バックアッププランも用意がある。

例外も事前に潰せば、予定通りだ。


 だが、本当に本当の予定外は起きるもの。

と、言うか起きてしまった。


 いつものように、

颯爽とターゲットのある家に忍び込み。

ターゲットの宝石を盗み出した。

 そこで、いつもの『名探偵』が現れた。

彼は出来が良い私の『引き立て役』で、

長年利用させてもらっている。

 名前は、二階堂明。

自称助手の少女は、

今深夜と言うこともあって連れていなかった。


 まず予定外だったのは、

逃走経路の脇に数時間前までなかった解体工事用の足場があったこと。


 全く予定してなかった。

むしろ、下調べは念入りにしており、

そんなもの(足場)を付ける予定がないことも調べた上で、

逃走経路として計画していた。

 なのに、当日逃げてみれば、足場があった。

その時一瞬、逃走プランの変更も視野に再考したが、

逃走経路自体に障害物も何もなかったのでそのまま予定通り逃げた。


 次の予定外は、

探偵がその足場を使いやがったこと。


 逃げる私を探偵か追いかけるのは必須。

私はつかず、離さずを心がけて逃げる。

いつもなら、それで私と同じ道を通って追ってくれる。

 だが、今日は何故か例の足場を使いやがった。

その瞬間、嫌な予感がして私は立ち止まった。

だが、遅かった。


 最後の予定外は、

その足場を組んだヤツがボンクラだったことだ。


 探偵が足場に乗った直後、

その足場が崩れ落ちた。

一瞬の出来事だった。

私も少し遠くにいたため反応しきれなかった。


 そして、名探偵が死んだ。


「うわぁ、心肺停止じゃねぇか。

即死?

 受け身は……。

スボンの裾が足場の金具に引っ掛かってたのか。」


 人生初の失敗が、とんでもない大失敗だった。

私は共犯者に無線をいれた。


「名探偵が死んだ。」

「え? は?

何言ってんの?」


 彼女のその反応は正しい。

私は買い摘まんで説明した。


「いや、そのままでいいんじゃない?」

「ダメだ!

探偵役は必要だ!

 お前、知ってるだろ?

コイツがいないと誰も俺の犯行に気付かなくって、

とんでもなく虚しいんだぞ?」


 私が犯した百十一の犯罪の内、

誰にも気付かれなかったものは四十二ある。

 すんごい虚しいかった。

完璧すぎるのも問題だ、と真剣に悩んだ。

誰にも、何も気付かれないなんて。

犯罪を犯す意味がない。


「自己顕示欲の権化か。

もう、面倒だから逃げといでよ。」

「嫌だ!

とりあえず、

この死体を隠しに出てこい。」


 無線越しに舌なめずりする気配がする。


「追加報酬は?」

「出す。

二千円だ。」

「まいどありー。」


 共犯者は金さえ積めばなんでもするやつだ。

正直金は腐るほど持っているので、

二千円くらいどうと言うことはない。

なお、大学を卒業した新社会人の月収が五十円だ。


「一分稼ぐ。

連絡はしばらくするな。

回収した死体は腐らんよう保管しろ。」

「あいよー。」


 私は予定を早めて逃げ出す事にした。

その様を警察官たちに見せびらかす必要があるので、

現在地と真逆の方へ移動する。

 予定とかなり異なるが、

その程度で崩れるほどやわなプランじゃない。

月を背に盛大に高笑いをキメめて、

警官のサーチライトを全身に浴びつつ、

私は姿を消した。

 そして、急いで身綺麗にして、

隠していたあの探偵の服を着て顔を変えた。

 ノーフェイスの名は伊達じゃない。

あっという間に探偵、二階堂になりすました。

この探偵の事も隅々まで調べている。

 私の変装は完璧だ。

顔や声のみならず、

動きの癖から本人も気付かないような癖も完璧に記憶して再現できる。

 用意ができた私は、

少し服を着崩して息を切らせてから警官たちに合流した。


「二階堂君!」

「申し訳ありません、三橋警部。

逃がしてしまいました。」

「いや、君のお陰でヤツの犯行を阻止できた。

五十嵐剛蔵さんの命が助かったのだ。

 宝石は、確かに残念だが。

人命には変えられん。」


 このボンクラ警官が三橋。

この探偵二階堂のことを評価しているが、

つまり自分たち警官の無能を隠したいだけだ。

 今日の計画は、

ターゲットの宝石を持ってる悪徳財閥当主を殺してから奪うものだった。

私がほどよく計画の邪魔ができる隙を作っていたので、

二階堂は探偵の仕事を全うして当主殺害は阻止してくれた。

 明日の新聞の一面も、

どうせ名探偵二階堂が財閥の当主を助けた、

とかにするつもりだろう。

そうすれば、警察への風当たりはマイルドになる。


「今日はもう帰って休みなさい。

後は我々、警官の仕事だ。

次は、あの憎き怪盗めを捕らえよう。」


 三橋は慈しみの目で私を見つめた。


「申し訳ない。

そうさせていただくとします。」


 そう言って、肩を落とし現場を去る。

怪盗の私は無事に名探偵に成り代わった。

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