表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感情制御で最強だけど、人類は見捨てられません!  作者: さとりたい
第2章「剣に誓いし忠義」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/21

第8話「幽閉の夜」

――鐘が鳴り響いた。

 石壁を震わせる異様な重さに、王城はざわめきに包まれる。定刻を外れた鐘は、異常事態の証。

「何事だ!?」「非常か!」

 兵士たちが混乱の中で槍を取り、互いの顔を見合わせていた。


 騎士団長カイン・バルドは兵を率い、一直線にリュシアの私室へ。

「姫様は在室しておられるか」

「はっ!」衛兵が答える。

 カインは頷き、低く命じた。

「室内を点検せよ。警戒を怠るな」


 扉が開かれる。中には侍女リーネとエスティナが控えていた。

 カインは廊下を振り返り、声を投げた。

「姫は在室しておられる。……侍女たちよ、謁見の間へ向かえ。王との謁見の支度を確認せよ」

 二人は恭しく頭を下げ、静かに部屋を後にした。



---


 謁見の間。

 フードを深く被った二人が、壁際の文様へと歩み寄る。

 懐から取り出したのは、銀の首飾り――リュシアが首に下げていたはずのものだった。

 かざすと文様が淡く光り、石壁が低く震えた。


「……これで、開くはず」

 その瞬間、背後から低い声が響いた。


「どこに行かれるのかな、リュシア姫、セリア姫」

 宰相ルクレールと顧問リグナートが影から姿を現す。

「王族のみが知る隠し通路……でしたかな」

「我らが知らぬとでも思ったか」


 槍の穂先が突きつけられる。二人は立ち尽くし、ゆっくりとフードを外した。


 現れたのは、姫ではない。ヴァルの仲間の女たちだった。

 女は艶やかに笑みを浮かべる。

「――残念でしたわね。姫様方は、もっと賢いの」


 挑発と共に、懐から小さな球を取り出し床へ叩きつける。

 白煙が爆ぜ、視界が閉ざされた。

「煙だ! 捕らえろ!」

 宰相派の怒号が響く中、影は煙の向こうに消えていた。


 リグナートは目を細め、低く呟く。

「……では姫達はどこに? 偽装か……? いや……何かが足りない」

 視線が壁際を探り、ふと飾り棚に止まった。

「宰相閣下……ここにあったのは、鎧でしたな?」

 ルクレールの顔が険しくなる。

「……! 姫の私室を確認せよ! 正門も閉じるのだ! 顧問殿、共に参られよ!」



---


 リュシアの私室。

 宰相と顧問は荒々しく扉を開け放った。

「リュシア姫! セリア姫! おられるか!」


 カインが既に室前に控えていた。

「何事ですかな。先刻の鐘は誤作動のようでしたが」

「姫はどこだ!」宰相が怒鳴る。

「姫ならお部屋におられますが」カインは冷静に答える。


 半ば強引に入室すると、窓辺に立つリュシアの後ろ姿があった。

 宰相が近づき、肩に手をかける。振り返った顔は――侍女リーネ。

「まあ、宰相閣下ではありませんか。どうなさいました?」

 宰相は言葉を失い、リグナートが怪訝に眉をひそめる。


「姫はどこだ!」

「私も先刻から探しているのです」リーネがとぼける。

「……私も在室されているものとばかり思っておりましたな」カインも芝居に加わる。

「これは一大事だ。探さねば! ご指示を、宰相閣下!」


 宰相は怒りで顔を紅潮させた。

「……っ、セリア姫の私室も検めよ!」



---


 セリアの私室。

 駆け込む兵の前に立っていたのは、確かにセリアの姿。

 だが振り向けば、それは侍女エスティナだった。

「おや……? どうなさいました」

「姫ではない!」兵がどよめく。


 宰相はついに堪え切れず、怒声を轟かせた。

「正門だ! 城門を閉じろ! 姫を逃がすな!」



---


 正門前。

 甲冑をまとった兵士二名が列に紛れて歩いていた。

 ――その正体はリュシアとセリア。

 緊張を隠し、ひたすら城外へと向かう。


 だが、そこには既に宰相ルクレール、リグナート、オルドの姿があった。

「ここまでだ」宰相の冷笑が響く。


 槍が突き出され、姫二人は包囲される。

「……くっ、あと少しなのに」リュシアが小さく吐き捨てた。



---


 その時、剣が火花を散らして兵の列を切り裂いた。

「お逃げください、姫様!」

 割って入ったのは――カイン・バルド。


「無駄だ! オルド、やれ!」

「はっ!」

 抑制刻印の光が迸り、カインを包む。

「これで動けまい!」


 だが次の瞬間、カインの胸元で黒い宝石が輝き、粉々に砕け散った。

 光は掻き消え、剣を握る力が戻る。

「なっ……馬鹿な! レキシオンの秘術が無効化された!?」

 オルドが絶句する。


 カインは短く息を吐き、剣を構え直した。

「……助かったのか。姫、今のうちに!」



---


 その刹那、馬の嘶きが轟いた。

 闇を割ってヴァル・ニールが現れ、手綱を握る。

「姫さん、乗りな! 急げ!」


「カインを置いては行けません!」リュシアが叫ぶ。

「一緒に戦わせて!」セリアも声を張る。


 ヴァルは怒鳴った。

「時間はねえ! 奴の覚悟を無駄にするな!」


 涙に滲む視界の中、姉妹は馬に飛び乗る。

「カイーーン!」

 振り返ったとき、騎士団長の姿は乱戦の渦に呑まれようとしていた。


 宰相が憤怒の声を上げる。

「おのれ、カイン・バルド! 皆の者、奴を捕らえろ! 姫も逃がすな!」

「追わせるかよ……舐めるな!」

 カインの剣が吠え、幾人もの兵を弾き飛ばす。


 だがその影はやがて数十の槍と剣に覆われ、見えなくなった。



---


 夜風を切り裂き、ヴァルの馬に導かれた姫二人は、ついに城門を越える。

 背に残してきたのは、王国の檻と、命を賭した男の覚悟だった。

 涙を拭う間もなく、姉妹はただ前を見据えて走り続けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ