仮面の出会い
夜会──それは貴族にとって、ただの社交の場ではない。政略、駆け引き、そしてときには運命を決める男女の出会いの場となる。
この夜、王都の中央にある壮麗な侯爵邸で、一つの舞踏会が開かれていた。華やかなシャンデリアが煌めき、香水の香りが漂う中、貴族たちは仮面のような笑顔を浮かべて会話を交わしている。
この舞踏会は10代以上の未婚の紳士、淑女は必ずといっていいほど参加する。
そのため、会場にいるもは皆、婚約者がいなく、未婚ということになる。
この会はいうなれば、未婚の男女だけが参加する婚活パーティーのようなものだ。軍事国家ということもあるのだろう。ほとんどの男性は燕尾服ではなく軍服を身に纏っている。女性もふんわりしたドレスではなく、体のラインがしっかりでるマーメイドドレスやスレンダードレスが多い。
その中でも、一際目立つ二人がいた。
「まぁ、あそこにいるのは……?」
「ええ、噂のお二人ね!」
「オーケン伯爵令嬢がいるのは珍しいな。」
「アンドレ様!いつ見ても洗練されていて魅力的だわ!」
「お近づきになりたわ!」
「あのお二人は本当に麗しく絵になるわ。」
会場の一角──ひときわ目を引く二人の姿。
一人は、フォルモーネ公爵家の跡継ぎ「アンドレ」。
黒一色に染め上げられた軍服は無駄のない鋭利な細工が施され、着るものによりさらに美しさが際立たせていた。近衛騎士団の漆黒の軍服に身を包み、剣は携えていなかったが銀髪を後ろで一つに結んだ姿は、まるで戦場の剣のような鋭さを持っていた。
アンドレはこの会には乗り気ではなかった。性別を偽っているため、婚約者などできるはずがなかったからだ。
もう一人、乗り気ではない者がいる。
オーケン伯爵家の麗しき令嬢「エイラ」。
オフショルダーの胸元にクロスした黒のリボンが上品さを出し、控えめなマーメドシルエットの淡いピンクのドレスに身を包む令嬢はまるで、一輪の凛とした花のようだ。また、金の髪を丁寧に巻いたその姿は、誰が見ても気品あふれる令嬢そのものだった。
しかし、この二人は互いに、それぞれが「本来の自分」と異なる仮面をかぶっていることを知らずにいた。
また、会場にいるすべての人が、奇麗な二人、どちらともが「本来の自分」とは異なる仮面をかぶっていることを知らずにいた。