エリアスの夢②
今日、父から「次なる家の礎を築くための婚約」の話が持ち込まれた。
「エリアス、お前は相応しい伴侶を見つけ、家の未来を支えなくてはいけない。」
父の厳かな口調は、家の伝統と重責を象徴していた。しかし、エリアスにとって、婚約の話は決して明るい未来を意味するものではなかった。
それに加えてエリアスはふざけるなと内心思っていた。女性の姿を痛みとともにさせられ、これまで自分を偽ってきた。
それが今、男性としてのエリアスとしての伴侶を見つけろという。
彼は静かに自分の胸を撫で下ろしながら、心の中で問いかける。
(この仮面――『エイラ』としての自分が、果たして本当の意味で自分自身と言えるのか?)
幼い頃から、彼は姉の代わりに社交界へと送り出され、家の名誉と期待に応えるため、女性として振る舞わなければならなかった。
勝手きままで夢の実現のために家出をし、ほとんど帰らない姉の代わりに社交界で淑女を演じる。
自分でも誰でもない、存在しない人間という違和感が常に付き纏い、彼の自由はその秘密の重みによって縛られていた。
婚約という新たな絆は、さらなる責任とともに、彼の秘めたる真実をも曝す恐れがあった。
もし、相手の家族や社交界にその事実が知られれば、家の評判だけでなく、姉の存在さえも危うくなるだろう。それでも、エリアスにはエイラのふりをしなくてはいけない理由があった。