エリアスの夢
薄明かりの夜、伯爵邸の一室。高い窓から差し込む月光が、静かな室内に淡い影を落としていた。
その影の中で、エリアス・オーケンは深い憂鬱に沈んでいた。
外見はいつもの病弱ながらも凛とした上品なオーケン伯爵家の令嬢「エイラ」としての装い――柔らかな絹のドレスと、丁寧に整えられた髪型。
しかし、その体を注意深く見ると、病弱なのか、手足はとても細く華奢な体つきだった。エリアスは男性としての体格を隠すため、成長を遅らせる薬を飲んでいた。噂では姿と声を変える魔法のようなものがあるらしいが、伯爵家には、とてもじゃないがそんな上等な代物は用意などできなかった。
薬を飲むことで成長を遅らせることできる。着替えるときだけ注意することで男だと漏洩することはなかった。そんな薬には副作用があった。成長を強制的に止めているのである。そのため全身が燃えるように痛く、関節が痛みがあることも度々あり、病弱ということもあながち間違えではなかった。
そんなエリアスの瞳の奥に潜む哀しみは、誰にも気づかれることはなかった。
エリアスはどんなに体調が悪くても勉強だけは欠かさず毎日していた。そこには子供の頃、もう顔も思い出せない自分よりも小さな可愛らしい少女の何気ない一言があった。
幼い頃、エリアスがまだ男の子として生活していたとき、姉に連れられて街に遊びに出かけたことがある。
姉は初めてではないのか、先へさきへと進んでいく。気がついたときには姉の姿を見失っていた。
そんなエリアスに少女が話しかけてきた。
「迷子?」
「誰?」
「内緒。でも、将来、この国を守る最高にかっこい騎士団長になる女よ。覚えておくといいわ。」
エリアスはそんな幼い少女の真剣に話す夢に笑った。
「教えてあげるよ。女の子は騎士団長になれないんだよ。」
そんな風に諭すエリアスに少女は怒った。
「そんなのおかしいわ。私はしたいことをする。やる前に諦めることは意気地無しのすることよ。私は騎士団長になるの!あなたには夢はないの?」
「僕の夢?考えたことなかったな……。勉強は得意だけど体を動かすのは苦手なんだよね。」
「そうなの!?じゃあ、私が騎士団長になるからそのとき私の軍師になってよ!私、考えて行動するの苦手なのよね。」
少女は何気なく言った言葉かもしれない、それでも、エリアスにとってはその瞬間、彼女の軍師になることが自分の夢になった。