炸爆摩天楼
毒の存在を言及された目の前の私の分身の顔には、図星であると書いていた。それでも、彼女は誤魔化そうとする。
「そ、そんなわけないじゃないですか?」
「じゃあ、お前が先に食え。」
私の体は、目の前の出されたカレーの乗った皿を彼女の方へと動かした。彼女はついに追い詰められた。しばらく、沈黙が流れた後、彼女はいきなり自分の作ったカレーの皿をこちらに向かって投げてきた。
私の体はその投げられたカレーをヒョイとよけた。その隙に、彼女は部屋の出口へと逃げ出した。私の体は刀を抜き、へと向かって刀を投げた。すると、刀は彼女の肩の服を突き、玄関の扉に刺さった。彼女は服は、服が刀に邪魔されて、動けなくなっていた。
「毒だな。
料理を振る舞うという口実で、毒入りカレーを食わせて殺す。香辛料で毒の香りを誤魔化しているつもりだっただろうが、私には誤魔化しは効かないぞ。しかし、食べさせるまでの手つきが随分慣れていたな。
何人この方法で殺したんだ?」
私の体は、彼女に刺さった刀を引き抜き、即座に彼女の首元へと刃を当てた。彼女の恐怖する息遣いと脈が刃先から伝わってくる。
「まあ、お前が何人殺そうとどうでもいい。私に言うことを一つ答えれば、見逃してやる。」
私は何を聞くのか身構えた。
「食べ物はどこにあった?」
「……へ?」
私は拍子抜けな質問に驚いてしまった。
「コンビニとか、スーパーとか、このマンションの冷蔵庫とかにもたくさんあります。」
「よし、許す。」
そう言って、私の体は刀を彼女の首元から外し、彼女を開放した。
「ちょっと、ちょっと。何そのしょうもない質問。あんたが殺されたコンビニにあった商品見てなかったの? 食料がどこにあるかなんて聞かなくても分かるでしょ。」
「あっ、確かに。」
私の体はポンと手を叩いて、納得した。そんなことを言っていると、解放した彼女は、玄関の扉を開けて、逃げだしていた。
「ちょっと、何か聞けるかもしれないから捕まえましょう。」
「かと言っても、あいつにこれ以上することはないだろう。別に血を飲む必要もないし、料理の才能なんて戦闘に不向きなもんいらないだろう。」
「そうだけど……。」
そんなことを言っていると、逃げ出した彼女は、階段を降り、もう少しで見えなくなる所だった。私の体は彼女を追うことはしなかった。
しかし、彼女が踊り場を走り、別の階段に足をかけようとした瞬間だった。その時、踊り場の端に何かちかちかと光るものが見えた。私の体は即座に玄関の扉を閉めた。私は何が起きたのか分からないままだったが、すぐにこの行動の意味を理解した。
爆発したのだ。
鼓膜を突き刺すような爆音と玄関の扉がぐにゃりと折れ曲がる光景を見て、爆発を理解した。それと同時に、火薬の匂いと焦げ臭い肉の匂いが扉の外からする。私は鼻の奥に入り込むその匂いに吐き気がした。しかし、胃の中に吐くものが残っていなかった。
「美味そうな匂いだな。あいつ、食ってみるか?」
「止めてよ、冗談言っている暇ないでしょ! この爆発は料理の私が巻き込まれたってことは、彼女以外の誰かがこのマンションにいるかもしれないのよ。」
「分かっているさ。おそらく、このマンションに爆弾の才能持った奴がいるってことだろうな。そうなると、かなり不利だな。爆弾の威力も数もまだ分からない。それにも関わらず、相手はどこにいるかも分からないから、この刀も役に立たないな。」
「そんなこともないさ!」
急にそんな声が部屋中に響き渡った。私の体はその声の方向へと走っていった。すると、部屋のテレビが点いていて、そこには私の姿が映し出されていた。
「こんばんは! 私!」
画面の前の私はニコニコと笑顔を浮かべ、こちらに手を振っている。
「どうやら、あんたが爆弾魔のようだな。このまま私のいる部屋を爆破せずに、会話しようとしているということは、交渉の余地があると言うことか?」
「そうだねえ。交渉の余地はないかな。だけど、君を問答無用で殺すつもりは毛頭ない。だって、それじゃつまらないだろう。」
「その割には、問答無用で一人爆殺してるじゃねえか?」
「いや、それは事故だよ。君達の逃げ道を防ごうとしたら、巻き込まれただけさ。それに、この程度の爆弾を避けられないようじゃ、僕のゲームに参加する資格はないからね。」
「じゃあ、私は資格をもらえたのか。そのゲームとやらに。」
「そうだね、爆弾を見つけてからの判断速度は素晴らしいね。良い対戦相手になりそうだよ。まあ、負けるつもりはないけどね。」
「そうか、じゃあ、その自慢げな顔に土を付けてやるから、ゲームのルールを教えろよ。」
「強気だね。だけど、この段階でゲームのルールを理解していない初心者が僕に勝てるとは思えないけどね。」
「何?」
「ビルと爆弾のゲームに覚えはないかかい?」
「あっ、ボンバービル?」
私は思わず口を開いてしまった。
「ほう、知っているんじゃないか?」
「なんだそれ?」
私の中の彼女は、小声で私に聞く。
「テレビゲームよ。爆弾魔と警察官に分かれてやる対戦ゲーム。ビルの屋上にいる爆弾魔を警察官が捕まえるの。でも、ビルには爆弾魔が仕掛けた時限爆弾と遠隔爆弾が仕掛けられていて、その爆発に巻き込まれないようにしなきゃいけないの。」
「その通り、知っているじゃないか。
レギュレーションは一番スタンダードなものだ。爆弾魔が時限爆弾5個と遠隔爆弾10個をビルのどこかに仕掛けている。そして、警察官の君は、手榴弾3個をあげよう。このテレビの裏に隠してあるから、後で取ると良い。
そして、遠隔爆弾の威力はさっきの通りで、時限爆弾の威力は大体この部屋の床と壁、天井をすべて破壊するほどの威力だ。まあ、イメージが付かないだろうから、試してみよう。そろそろ君と話して、3分だな。
一度やってみたかったんだ。スパイ映画のお決まりを。」
テレビの中の私はそう言って、にやりと口角を上げた。私の体は何かを察したように、テレビを持ち上げて、窓の外に放り投げた。すると、割れる窓ガラスの奥で、放り投げたテレビの裏に貼りつけられたデジタル式の時刻が表示された爆弾が見えた。その時刻は0:01となっていた。
0:00
そして、テレビの投げ捨てた窓の外には、闇夜を照らす爆炎が大きく上がった。