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百夜庚申待  作者: 恒河沙
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口寄巫女血

 勝手に動く口に驚いていた。誰かが近くで喋っているのかと思ったが、私の近くには誰もいない。私の中に誰かがいて、勝手に口を動かされている感覚だ。口を動かす命令はしていないのに、口が動く感覚だけが後から伝わってくる。


 誰かが私の体に寄生しているのだろうか? だとしたら、私の体にいる寄生者は、分かりきっている。さっき死んだ彼女だろう。私の意思に反して、手に持った矢を捨てた後、手を穴から抜いた。そして、私の首が動く。私は周りを見渡している。そして、私の視線は彼女の死体で目が止まる。


「地獄にしては景色が変わらないから、生き延びたのかと思ったら、私はやっぱり死んでいる……。


 ……この手は誰だ?」

 私は手を見ていた。私は私の体が私のものなのか確認するために、一度、口を動かしてみた。


「あ、あのー、私の体なんだけど……。」

「あれ、口が勝手に動いた!?」

 同じ口から違う人間と会話するというとても不思議な状況が出来上がっていた。私の体は意に反して、腰を抜かしていた。


「落ち着いて、私の体で暴れないで。」

「そんなこと言ったって、色々と不思議なことが起こり過ぎて、意味が分からない。」

「本当に落ち着いて。落ち着いてくれないと、弓矢の分身にやられる。あなたがいないと、矢を掴み取りできない。」

「……分かった。」

 私の体は体勢を立て直して、立ち上がり、壁から離れた。


「よし、これで大丈夫。」

 私は落ち着いた自分の中の彼女を確認して、手を動かしてみる。すると、少し動いた所で、手が止まる。


「気持ち悪ッ、勝手に手が動いた。」

 どうやら、私と彼女で私の体を共有しているので、操作は二人ともができるようだ。しかし、私の体の主導権は、彼女にあるようだ。私にも私の体を動かす力はあるが、彼女の力には及ばないみたいだ。


「……やっぱり、私は死んだのか?」

「……そう。」

「でも、生きている。つまりは、体は死んだけれども、魂はこの体の中で生きているってことか?」

「詳しいことは分からないけれど、そうみたい。」

 そうやって、自分の体の中の彼女と会話をしていると、また矢の音が聞こえてきた。私の体は勝手に動いて、飛んでくる矢を掴み取る。


 矢を掴み取った手は、矢を折って、矢を地面に捨てた。そして、左手に持った銃を足のガンホルダーにしまった。


 そして、私の体は彼女の死体に近づいた。私の目は彼女の死体をまじまじと見つめていた。私は彼女と体を共有しているが、頭は共有していないので、自分の死体を見る彼女の気持ちを覗き見ることはできなかったが、なんとなく推し量ることはできた。


 私の体はしばらく彼女の死体を見つめた後、彼女の死体から右手に握られた日本刀と腰に巻き付いた鞘を取った。その鞘を慣れた手つきで体に身に付けた。そして、右手で日本刀を握りしめた。自分が出したことのない程の握力が伝わってきた。


「まあ、細かいことは後にするとして、私の仇討ちを先に片付けようか。」


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