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百夜庚申待  作者: 恒河沙
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循嗣鎮魂歌

 私は膝の上に乗った彼女の亡骸をしばらく見つめていた。自分が今も命を狙われていることを分かりながらも、目を閉じ、手を合わせて、少しの間だけ彼女の死を悼んだ。


 私は膝の上に乗った彼女の頭を膝からずらして、ゆっくりと丁寧に地面に置いた。彼女は死を悟ったかのように目を閉じて死んでいた。そして、安らかな顔だった。


 私は傷が完全に塞がって、回復した体を動かし、立ち上がった。私は綺麗に傷が治り、上手く動く体を実感して、改めて生きなければならないと思った。私の命と彼女の命が重なっているような気がしたからだ。私は私を守ってくれた彼女の命を、今度はこちらが守らねばならない気がした。


 私は一度深呼吸をして、心を落ち着かせた。私は地面に置いた彼女の死体の手に握られた刀を取ろうとした。しかし、死後硬直が始まっているのか、握られた刀を上手く剥がすことができなかった。私は日本刀を取ることを諦めた。


 私は彼女に盗られた銃の存在を思い出した。私は彼女のスカートの腰に挟まれた銃を手に取り、抜き取った。そして、今度は安全装置を外して、引き金に指をかけた。


 やはり、私には弓矢の分身を倒すことはできない。どうにか逃げることを考えなくてはならない。そうなると、先ほどやろうとしていた一か八かの特攻しかない。私は弓矢が開けた穴から周りを見渡した。彼女の言う弓矢の分身がいるであろうマンションの屋上に目を凝らすが、とても人がいるかどうか確認できなかった。


 だが、おそらくそこに弓矢の分身がいるのだろう。私はもう一度深呼吸をしてから、引き金を引かない程度に、指に力を入れた。


 そうして、覚悟を決めて、動き出そうとした時だった。もはや聞き慣れた弓矢の風切り音が聞こえてきた。


 その音を聞いてからでは何もできず、手遅れであると分かった。私は彼女のように弓矢を掴み取ることはできない。私はその音を耳で聞いてから、すぐに死を覚悟した。私は近づいて来る風切り音の中で、自分の命も、彼女の命も守ることのできない無能だったと思った。


 パシッ


 私が効いた音は予想外なものだった。矢が血肉を貫く音でも、壁を壊す音でもなかった。それは彼女が矢を掴みどった時の音と同じような音だった。


 そして、さらに不思議なことは、私の右手に何かを強く握りしめる感触があることだ。私は事後確認として、自分の右手を見てみると、自分の右手は壁の穴から手を出していた。自分でも覚えのない勝手な腕の動きだった。


 私は手が出た壁の穴から自分の手のひらを覗くと、壁に突き刺さる寸前の矢が私の手によって握られていた。


 どうやら、私は彼女のように矢を掴み取りしたらしい。


「二度、同じ手は食わない。」

 そんな言葉が自分の口から勝手に放たれていた。

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