3 転生しました
「う……まぶし……」
チカチカと視界がくらむ。
あまりの眩しさに目が覚めた。
手をかざしながら薄目で覗くと、太陽がちろりと見えた。
空は快晴だった。
「ありゃ?」
ここはどこだろう。
むくりと起き上がる。
俺は草原のちょっとだけ高くなった丘の上で寝ていた。
なんだ、こんなところで寝るとかあるか?
いや違う、そうじゃない。
「そう言えば転生、したんだっけ……」
頭が冴えてくると、例の場所での会話を思い出した。
マジかよ、あれってやっぱり夢じゃなかったんだ。ホントに転生しちゃったってことか俺。てことはここは異世界? えー、こんなに適当に放り出されることある? まぁ説明を受けただけありがたいと言えばありがたいのか……?
仮に神様からの説明がなければ訳わからなすぎて失神してる自信がある。
とはいえこりゃないだろ流石にさ。どこだよここ。
辺りは一面草原地帯で、遠くの方にちょっと木が見えるくらいだった。
「まぁ文句言っても仕方ないか……」
何はどうあれ俺はこの世界で生きていかなければならないのだ。
不安しかないがもうこれは決定事項、駄々をこねたってどうしようもならない。
「とにかく勇者くんを討伐しなきゃなんだよな。なんで勇者なんだよ、魔王だろふつう」
今更ながらにツッコんだ。
俺のこの世界での使命は調子に乗ってるらしい勇者とやらを討伐することだ。
でも今思えば魔王ならまだあれにしても勇者討伐となると普通に人殺しじゃないか?
……だがそればっかりはもう仕方ない、その辺は色々割り切っていくしかないだろう。
あんな神様の指令とはいえ、それこそが俺が転生してきた意義だ。
それに別にもう地球に戻れないというわけではない。
勇者とやらを討伐した暁には、何でも願いを叶えてくれると言っていた。
一応家族のこともあるし、元の世界には帰りたい。
なんか癪だが、こうなればもうその目標だけを見据えてやっていくとしよう。雑多なことを考え始めてはキリがなくなる気がするし。
「となると勇者の居場所だけど……なんとか大陸の魔王城に住んでるんだっけ」
そんなことを言っていた気がする。
だがそれがどこなのか、異世界転生二分後の俺が知ってるわけもない。
行くにしても調べる必要があるだろう。
地図か何かあれば話は早いのだが。
「となるとまずは図書館か。流石に地図くらいあるだろ」
人間の街にいって図書館に入る。これをひとまずの目標にしよう。
でもどうやって街まで移動するのか。
そう言えば俺勇者だったよな、なんかすごい力を使えたりとかしないものだろうか。
「ん?」
俺はふと自分のいる付近に影が差したのを感じた。
何かと思い空を見てみる。
そこには何かの飛行生物がゆうゆうと空を旅していた。
なるほど、あの生物が太陽を遮ったのか。鳥か何かかな、見た感じ結構大きいように見えるけど……
「丁度いい、試しにあれを撃ち落としてみよう」
まだ勇者の力について何も知らないし、本当にそんな力があるのかすらもよく分からないが、黙っていたってなにも始まらない。失敗したとしてもとにかく実践あるのみだ。
そう思い俺は手をその生き物に向けた。
手の平に力が集まっていくのが分かる。
ああ、なんか凄い不思議な感覚。自分の体を思い通り操れているかのような。こんなの地球じゃ感じたことなかった。これが勇者の力? 分からない。でも今ならなんでもできる気がするぞ。
「いけ! スペシャルビーム!」
なるようになれと思い俺はその力を解き放った。
すると、俺の言葉に呼応するように俺の手から極太の光線が放出された。
ぎゅおおおおおおと物凄い破壊力がありそうな音が響き、俺の周囲の草原がめくれあがって強烈な風が吹いてもう凄いことになっている。
「いけええええええッ!」
俺は調子に乗って叫ぶ。
きゅいいいいいいいいいいいいい、じゅごごごごごごごごごご!!
俺の放ったビームは目標に向かって真っ直ぐ飛んでいき、見事着弾。
天で大爆発が巻き起こった。
さながら兵器のようだと他人事のように思った。
「……おー……これが勇者の力……」
撃ったら撃ったであまりのヤバさにちょっと引いてしまった。
一体全体俺の体のどこにこんな力が宿っていたのか。
勇者とかいう次元の話ではない気がする。しかも全然本気を出したというわけでもないんだけど……
「……まぁいいか」
考えちゃダメなやつだ。
まぁとりあえず俺に凄い戦闘能力があることは分かった。
後は街に行って図書館に行ってマップをゲットして――
――ボト。
なんだ? 今空から何か降ってきたか?
歩き出そうとした瞬間視界の端に何か見えたような。
「まぁ気のせいか」
「……グォ」
「……ぐお?」
「……グォ、グォ、グオオオ、グオオオオオオオオオオオオオッ!」
突如、大きな咆哮が響き渡った。
流石に音がした方向を見てみる。
そこには煙を上げてる黒い石が転がっていた。
あれ、こんな石あったか?
そう思った瞬間、その石から強烈な赤い光がほとばしり始めた。
もう流石に目が離せなくなり見ていると、その石は段々と巨大化していった。
そして赤い閃光を放ちながらみるみると形を変えていき、やがてそいつはドラゴンになった。
全長は十メートルはくだらないだろうか。
太い脚に、小さな手、巨大な翼、凶悪な牙。
赤く燃える鱗を備えた西洋風の竜。
万物を黙らせるが如く絶対的な迫力を醸し出すその王者は、瞳に確かなる激情をはらませ俺を睨んできていた。
俺にはドラゴンの表情なんてよく分からない。
でも何故かそいつが完璧に怒っているというのは理解できた。
「えーと、こんにちは」
一応、挨拶してみる。
ドラゴンは顔を上空に向けると、口に炎を咥え、そのまま俺の方に振り下ろしてきた。
灼熱のドラゴンブレスが俺を襲った。
うん、死んだな。