1 すべてのはじまり
「あぁ、疲れた……」
俺はトボトボと歩きながら思わず呟く。
俺は現在高校からの帰り道。
一応進学校の為、しっかり頭を使ってからの帰宅である。
正直何のために勉強しているのかは自分でもよく分からない。
恐らく将来の為ということなのは分かるが、自分が働いているビジョンも見えないし、ずっと家でダラダラと過ごしていたいという気持ちの方がずっと強い。でも勉強をしないと親もガッカリするし、お小遣いとか漫画とかも買って貰えないので本当に仕方なく学校の成績上位をキープしているのだ。まぁ上位とはいっても上数人は本当にただの化け物なので、実際は上位の中でも二番手グループという位置づけではあるのだが。でも俺はそれでもいいと思っている。周囲から見れば上位の一員なのには変わりないし、親戚や知り合いの人も会うたび褒めてくれるし、漫画やアニメをいくら見たところで文句の一つ言われないからだ。このくらいの成績を維持できている限りは、それなりの自由を手に入れることができる。そう、『自由』というのがやはり一番すばらしい。拘束される生き方も勿論ありだとは思うが、やはり人が人らしく生きるには自由あってこそだと俺は思う。
だからこそ『自由に生きる』ということをコンセプトに、今のところ人生を送っている。まぁ勿論それは暫定的であり、今後の人生イベントによってはコロッと変わる可能性もあるだろうけども。言うてもまだ十六歳なわけだしね。
「ただいまー」
そうこうぼんやりと考えているうちにいつの間にかうちに帰ってきた。うちは本当にありふれた感じの一般家庭で、普通の一軒家だ。
「あら、おかえりなさーい」
そうして俺の母の登場だ。
御年四十二歳。大抵俺が帰るころには夕食の支度をしてくれている。因みに俺は帰宅部なので帰るのは大体五時前くらいである。
「今日はどうだったー?」
台所から顔も見せずに問いかけてくる。
「ふつうだよー」
それだけ返してとっとと二階に上がる。
俺の帰宅後ルーティーンは大抵決まっている。
まずは帰宅後真っ先に自室にこもり学校の宿題に取り掛かる。
すると途中で夕食に呼ばれるので、休憩がてら食事をとり、お風呂の番が回ってくるまで再び宿題。そしてお風呂に入るころにはほぼほぼ片付いているので、余裕を持ってゆっくり風呂に浸かり、上がった後でちょちょっと残りを終われせれば完了だ。あとは寝る前までの時間は何をしてもいい自由タイム。好き勝手自室で過ごすというわけだ。
やはりめんどい事は早めに終わらせるに限る。そうすると変に不安がよぎることなく心置きなく遊ぶことができるためだ。どうせ同じ時間使うのだ、すっきりした気持ちで遊んだ方がリラックスできるし、絶対楽しいに決まってる。俺のおすすめルーティーンだ。
ということで早速俺はカバンから学習グッズを取り出し宿題に取り掛かる。宿題はあくまでも真面目に取り組むというのがポイントだ。ちゃんと理解することで、それ以上はほとんど勉強する必要がなくなるからな。
そんなこんなで宿題に励み続ける俺。
ちょっとした拍子に、あぁ、今日は積本してた小説でも消化しようかなぁなどと考え、はりきってセカセカ問題を解いていく。
そんなごく当たり前のいつも通りの日常だった。
しかしこの日に限っては異常だった。
まさかこんなイレギュラーが発生するなんて思いもしなかった。
「……ん?」
それは唐突だった。
机に向かっていたのだが、ふとどこか足元が明るいなと思い、床を見てみた。
そこには不思議な紋様が広がっていた。
「え?」
訳が分からなかった。
紫やら緑やらの光が明滅しており、よく分からない文字なんかも沢山羅列されている。それはさながら魔法陣かなにかのようだった。
夢かとも思ったが、勉強中に居眠りなんて一度たりともしたことない。となればこれは現実――
そこまで考えたところで光が急激に強まった。
俺の意識は光に呑まれるようにして途絶えていった。
「うぅ……あれ?」
俺は気づけば知らない場所にいた。
まず目に入ったのは煌めく満点の星々だ。
様々な光の点が上空いっぱい……だけでなく横や後ろ、全方位に散りばめられている。
要するに俺は宇宙に囲まれていた。
謎の半透明の足場があり、周囲は完全なる宇宙空間。
あまりのダイナックさに圧倒され、もの凄い寂しさを感じた。
「これは……きっとアレだな。プラネタリウムか何かだな。ほへー、綺麗なもんだなー」
「何を寝ぼけたことを言っておるのじゃ」
すると突如背後から声が聞こえた。
そこには年老いた一人の男がいた。
「え、どなた……?」
「うむ、もう少し取り乱すものかと思うたが予想よりもずっと肝が据わっておるようだな。やはりこの儂が選んだというだけある」
白ひげをさすりなにやら納得顔の男。
なんなんだ……? 新手のイタズラとかか? ここまで手の込んだイタズラなら逆に許せるまであるけど。
「あの、ここはどこなんです? 警察には通報しませんから僕を家に返してくれませんか?」
「ここはまぁ見ての通り宇宙空間じゃな。因みにお主のおった『地球』とは四つほど次元を跨いでおるからどんな最新機器を使っても電波は届かんとおもうぞ?」
次元? 何を言っているんだこの人は。その言いぐさだとここがまるで地球ではない場所みたいじゃないか。
「まぁそう慌てんでいい。まずはこれを見るんじゃな」
男がそう言うと宙にホログラムの画面が浮かび上がった。
よく映画やアニメなどで出てくる近未来的なアレだ。
その画面がスライドして俺の前までやってくる。なんだと思い見てみると、そこには机に突っ伏せ寝ている俺がいた。
「え? 俺?」
「まぁお主が信じるには視覚で訴えるのが一番かと思うての。ここは宇宙空間に適当に作った休憩所とでもいう場所じゃ。ここに地球にいたお主の魂を召喚したのじゃ。画面に映っておるのはお主の抜け殻じゃな」
「えー」
物凄い現実感のない説明をされてしまった。これにどうリアクションすればいいというのだろうか。でももしそれが本当で、俺の魂とやらが肉体から抜き取られてしまったというのなら大問題だ。なんとかして取り返す必要がある。うん、自分で言っててもよく分からないが。
「僕に一体どうしろと言うんですか?」
「話を聞くに気なったかの。まぁ最初に一つ言っておくと儂はお主に危害等を加えるつもりは一切ない。寧ろ頼み事をしたい立場なんじゃよ」
「頼みごと? 僕にですか?」
「うむ」
神は一旦姿勢を正すと言い放つ。
「実はじゃな……お主には真勇者として勇者を討伐して貰いたいのじゃ」
「…………」
……な、なんだって!!