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8 妨害

「やっぱりか……」


 王都への出発を明日に控え、俺は御嬢様が襲撃された馬車を確認していた。


 馬車の底には魔物を引き寄せると言われる邪香袋という道具が使われた痕跡がわずかに残されていた。


 おそらくはどこかで御嬢様の乗るこの馬車に仕掛けられたのだろう。


「きな臭いな……」


 御嬢様から聞いた婚約者候補同士の争い。


 どうやらそれに首を突っ込むことになりそうだ。


 しかし、一度受けた依頼は最後までやり遂げる。


 それが冒険者としての俺の矜持だ。


 たとえ底辺と言われようと冒険者としてそれだけは絶対に譲ることはできない。



 翌日。


 早朝に街を出発した俺たちは一路王都を目指した。


 御嬢様が乗っていた箱型客車はオークにぼこぼこにされて修繕が必要だったため、御者席と客車とがつながっているタイプで一番高級そうなタイプの馬車を用意した。


 出発のときに勿論何か細工がされていないかを入念に確認済みだ。


「う~ん、やっぱり外は気持ちがいいですね」


 俺とジーナが御者席にいると客車から御嬢様が御者席へとやってきた。


「御嬢様、外の風は身体に触ります。客車にお戻り下さい」


「あら、わたくしは辺境領の領主の娘。そこらの御令嬢と一緒にしてもらっては困りますわ」


 ジーナの言葉に御嬢様は頬を膨らませる。


 この御嬢様の領地は辺境と名の付くとおり、緑豊かな田舎で領都といえど一歩外に出れば自然の多い場所だったそうだ。


 そんなところで生まれ育った彼女は幼いときから外で遊ぶのが好きな活発な女の子だったらしい。


 そんな彼女は外套を身に纏い、十分な風よけをしてから俺の隣に座っているジーナとは反対側の俺の隣、御者席に腰を下ろした。


「本当はわたくし、冒険者になりたかったのです」


「えっ!?」


 隣からジーナの驚く声が聞こえる。


 それはそうだろう。


 どこからどう見ても貴族の御嬢様からそんな言葉を聞くとは普通思わない。


「しかし、冒険者は過酷な仕事ですよ。命の危険はありますし、生活の保証はない。夏は暑いし冬は寒い」


「あら? 貴族の世界も甘いものではありませんわよ。それにこの世界、絶対に安全で安定ということはあり得ませんわ」


 ジーナはピンとこない顔をしているが俺にはよくわかる。


 貴族の世界で生きていくのも並大抵ではない。


 俺もかつて大陸会議のお偉方と関わっていたときにはそれを嫌というほど感じたことだ。


「それにわたくし、自分の腕一本でやっていくというのにやはり憧れがありますの」


 冒険者がドラゴンを退治するとか、攫われたお姫様を助けるという物語は数多く存在する。


 そういったものから冒険者に憧れる子供たちがいるというのもまた事実だ。


「だからわたくしは……」

「んっ、ちょっと待て!」


 原野から森へと差し掛かろうとしたところで俺は何か違和感を覚えた。


 誰かが潜んでいる?


 いや、数は多くはない。


 斥候か?


 俺は御嬢様とジーナの二人を客車の中へと移動させる。


 御嬢様は最初は抵抗していたが冒険者に護衛を依頼するのであれば冒険者の指示に従うのがルールだと話すとすんなり身を引いてくれた。


 恐らく俺が危険を感じたことを察してくれたのだろう。


 俺は周囲を警戒しながら馬車を走らせる。


 今のところは目立った動きはない。


 着かず離れずといった感じで気配だけがする。



(俺の気にし過ぎか?)



 そう思ったのも束の間。


 森を抜けて谷になっている辺りで俺は連中の意図を察した。



(待ち伏せ!)



 見えるその影は人のもの。


 恐らくは盗賊、いや、これまでの経緯からすれば盗賊のフリをした連中か。


 狙いは勿論この御嬢様だろう。



「へっへっへっ……。おっさん、ここから先は通行止めだぜ、通りたいなら通行料を払ってもらおうか」


 馬車の行く手を遮るように7、8人ほどの野郎たちが道を塞いでいる。


 そのうちの親玉だろう。


 大柄で筋肉質なスキンヘッドの男が斧を片手にニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。


 他の手下どもも薄汚れた革製のくたびれた防具を身に纏い、その手にはさまざまな武器を持っている。


「ほう、いつからこんなところに関所ができたんだ?」


「へへっ、おっさん、この人数を見てそんな軽口をよく叩けるな。悪いことはいわねぇ、その馬車の中身を置いていきな」


「すまないが俺たちは商人じゃないから金も荷物もないぞ。いるのは人だけだ」


 スキンヘッドの手下だろう男に俺がそう言うと『そんなことは知っている』とばかりに親玉が口を挟んだ。


「俺たちはそちらの御方に用があるんだ。お前らには用はねぇ、とっとと女を置いて立ち去りな、ああ、ついでに金は全部置いていけ。お前みたいなくたびれたおっさんでも少しは持っているだろうからよ」


「ひゃはは」という声を上げて三下どもが笑い声をあげる。


 まったくどいつもこいつも俺のことを軽く見やがって。


「……嫌だ、と言ったら?」


 俺がそう言うと男どもは一瞬キョトンとした表情を浮かべる。


 そして一斉に笑い始めた。


「ぎゃははっ、おっさん一人で何ができるんだよ」

「まったくだ。ほんとうに馬鹿な野郎だぜ、せっかく命だけは助けてやるって言ってるのに、よっ!」


 手下1はそう言って俺に斬りかかってくる。


「ジーナ、御嬢様を頼むぞ!」


 俺は御者席から飛び降りると腰に提げていた鉄の剣を抜いた。

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