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7 御嬢様の依頼

 御嬢様の名前はリーザロッテ・ディ・ハロルド。


 辺境伯家の御嬢様で御年15歳。


 今回の旅は目的地が王都で、王都で開かれる王家主催のパーティーに出席する予定だったとか。


 そんな御嬢様は何とこの国の王子殿下の婚約者候補になっているらしく、今回のパーティーもそれに関わるパーティーとのことだ。


 この王子の婚約者の座を巡っては水面下で貴族間のバチバチがあるとかないだとか。


 で、その婚約者候補の中でも有力な一人が目の前の御嬢様というわけで、その絡みで不穏な動きがあるのではと心配しているらしい。


 まあ、だからといって一冒険者に過ぎない俺にできることはない。


「それでアドゥル様にお願いがあるのです?」


 お願い?


 申し訳ないがお金は貸せるほどないんだけどな……


「王都までわたくしの護衛をしていただけませんか?」


「はい?」


 頼まれたのは俺が予想もしないことだった。





「ええっと、それは……」


 俺はそう言い淀んだ。


 俺は御嬢様にはしっかりとDランクの冒険者だと自己紹介している。


 そんな低ランクの冒険者に護衛を頼むということは通常あり得ない。


 いや、そもそもの話として高位貴族が冒険者に護衛の依頼を出すこと自体が珍しい話だ。


「王都でのパーティーに間に合わせるには直ぐにでも出発しなければなりません。しかし、代わりの護衛騎士の手配をするだけの時間はないのです」


 元の護衛騎士たとは直ぐに治療をしたとはいえ、しばらくは休養が必要な状態だという。


 かといって領地から辺境伯家の代わりの騎士を連れてくるだけの時間はない。


 この街の騎士たちもあくまでもこの街の所属なので王都までの護衛は難しいそうだ。


 というよりも責任問題になりかねないことは引き受けたくないというのが本音だろう。


「冒険者に依頼をするとしても私のような低ランクの冒険者ではなく、高ランク冒険者に依頼を出されてはいかがですか?」


 通常、護衛依頼のクエストを受けることができるのはCランクからだ。


 指名依頼となればその制限は外れるとはいえそういう問題ではない。


 辺境伯家という上位貴族なら冒険者に依頼するのであればAランク冒険者に依頼するべきだろう。


 所詮俺はDランク冒険者。


 本来貴族様の護衛ができるような立場ではない。


「わたくしは肩書よりも本当に力があって信用できる方にお願いしたいと思っています」


 御嬢様はそう言って俺の目をぐっと見つめる。


 迷いのない決断した者の揺るぎのないいい目だ。


 恐らく昨日、俺が戦うところを客車の窓から見たのだろう。


 普段は俺が実力の一端を発揮するようなときにはあらかじめ変装魔法を使うようにしている。


 しかし今回はジーナが一緒で普段とは勝手が違ったこともあってうっかり素の俺のまま戦ってしまった。


 ふむ。


 しかし、その失敗を逆手に取れないだろうか?


 最近王都にも行っていないし、ここ最近のクエストもマンネリ化している。


 それに……。


 俺はチラっとジーナの姿を盗み見た。


 年相応というべきかもぐもぐと口を動かして美味しそうに食べている。


 こうしてみると大陸会議が使役する隠密とは到底思えないが彼女は職務に忠実だ。


 ここ最近、ジーナに付きまとわれている。このままこの街にいると今後も同じように付きまとわれ続けることになりそうだ。


 俺は黒い笑みを浮かべた。


「わかりました。そこまでおっしゃっていただけるのであれば冒険者冥利に尽きます。ご指名、受けさせていただきましょう」


 俺は御令嬢にそう言って申し入れを受けることを伝えた。


「ということですまないなジーナ。今後お前に付き合ってやることはできなくなった。そういうわけで達者で暮らしてくれ」


「!?」


 ジーナは一瞬目を見開いた。


 いつも変わらない表情が一瞬といえども変わったことに俺は満足だ。


 くくっ。


 まさかこうなるとは思っていなかったんだろう。


 お前には何の恨みもないが俺は俺の生活の平穏のためここでお別れさせてもらうぞ。


「えっ、ジーナさんも勿論一緒ですよ?」

「はいっ?」「えっ?」


 御嬢様の言葉に俺とジーナはお互いに顔を見合わせた。


「お二人は同じパーティーなのでしょう?」


「ちょっ、ちがうっ、こいつは違うっ、同じパーティーじゃないっ!」


 想像もしていなかった御嬢様の言葉に俺は思わず言葉を荒げた。


「あら? ひょっとして親子でしたか? でもお顔が……」


「親子でもないっ! 違うだろっ、顔面の、顔の造りのレベルが天と地ほど違うだろっ!」


「それは確かに……」


 くぅ~、自分で言っといて精神的ダメージがスゲーぜ。


 しかし、この御嬢様も根が素直といえばそれまでだが結構酷いな。


 貴族ならオブラートに包んで原型がないほどにできないと俺は知らんぞっ!


「アドゥルさんはわたくしと王都まで二人っきりの旅をしたいのですか?」


「う゛っ!?」


 そうだ、それを忘れていた。


 ジーナ抜きなら俺は年頃の御嬢様と二人っきり。


 絶対に手は出さないと誓えるが事はそう単純な話ではない。


「それにわたくしは自分と歳の近い同性の子がいた方が嬉しいですし」


「あー、だったらジーナだけに護衛を依頼するとか?」


「冒険者になられたばかりのEランクの冒険者お1人に頼めるわけないじゃないですか」


 ですよねー。


「おじさん、諦めて」

「ううっ……」


 くそっ、一度引き受けると言った以上、それを反故にするのは俺の主義に反することだ。


「仕方ないか……」


 こうして俺はジーナと一緒に御嬢様の護衛として王都まで行くことになった。

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