4 心配無用
「そうだ。そこから魔石を取り出すんだ」
ゴブリンを退治してその体内から魔石を取り出す。
素材になる部位のある魔物であればそれが討伐の証明になるがそうでないものは魔石か身体の一部を切り取ってそれを証拠とする。
「さて、あと1体か」
ブラブラと街道を歩くがなかなか魔物と出会わない。
「魔物は出て欲しくないときには次々と出てくる癖に、探すとなかなか出会わないんだよな~」
「そうなんですか?」
街の周りは魔素が薄く、元々低レベルの魔物しか現れない。
そして低レベルの魔物は低級冒険者の狩りの格好の対象であるため街の周りほど魔物は少なくなるという寸法だから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
だからこそ人々は安心できるといえばできるのだがこのままではクエストが達成できない。
「ちょっと待ってろ」
俺はそう言うとサーチの魔法で周囲半径数キロメートルに魔物がいないかを確かめる。
ジーナは大陸会議の隠密でそれなりの実力者だろうが対外的には新人冒険者だ。
いきなり高ランクの魔物を倒して悪目立ちさせることもないだろうと手頃な雑魚はいないかと探していく。
「!?」
サーチに反応があった。
しかも、1体や2体ではない。
群れだ。
さらにそこには誰かがいる!
「行くぞ!」
「えっ?」
突然のことで驚くジーナの腕を掴むと俺は転移魔法を発動させた。
転移した先はおよそ3キロ離れた場所。
原野から森に入ってしばらくいったところだった。
転移した俺たちの目の前には馬のいない一台の馬車。
落ち着いたシックな造りではあるがいい素材を使った見る者が見れば高級な馬車だとわかる。
家紋が入っていることから間違いなく貴族の家のものだろう。
それもそこそこ格が高い貴族のものの。
その馬車の周囲にはひいふう、数えるのもメンドクサイ。
10体以上のオークがいた
その足元には御者と思しき男と金属の鎧を身に付けた騎士たちが血を流して倒れていた。
今やオークたちは馬車の客車を囲んで手に持つこん棒で打ち付けている。
外で倒れている騎士だちはが守るべき人物がそこにいるのだろう。
客車は鍵を掛けているのか扉はピッタリと閉じられたままだ。
しかし周囲のオークたちがこん棒を打ち付ける勢いは増すばかり。
このままだと近いうちに扉は打ち破られてしまうだろう。
「そこまでだっ!」
俺は奴らの注意を引くためその距離を詰めると大きな声をあげた。
そして馬車の扉に手を掛けようとした一匹のオークのその手目掛けて無詠唱で魔法の矢を放つ。
魔法の矢がその手に命中するとそのオークがひと際大きな唸り声をあげてこちらを睨み付ける。
突然の闖入者にオークたちは一斉に魔法を放った俺へと振り向いた。
新たな脅威と認識したのだろう。
馬車そっちのけで一斉にこちらに向かって突進してきた。
こん棒を天に掲げて完全にお冠である。
「おじさんっ!」
後ろからジーナの声が聞こえる。
心配してくれているのだろうか。
――誰を?
俺は思わず苦笑いした。
彼女はいったい誰を心配しているのだろうか?
いったい俺を誰だと思っているのだろうか?
そもそもオークごときを相手に心配するのなら魔王なんかと戦わせちゃダメだろ。
「心配するな」
俺は後ろを振り返りニカっと余裕の笑みを浮かべる。
いつもより2割増しのおっさんスマイルだ。
「武器はっ! 武器はどうするのっ!」
馬車が近いので大規模魔法は使えないとでも思っているのだろう。
そして俺のショートソードは彼女に貸しているため俺の手元にはない。
彼女には一見俺が丸腰に見えるのだろう。
「ああ、大丈夫だ。俺にはコレがあるからな」
――ブオン
俺の右手から現れたのは一振りの剣。
魔力で作った即席の魔法剣だ。
「さあ、行くぞ!」
目の前には10体以上のオークの群れ。
ニヒルに構えてはいてもいざ誰かの助けが必要な状況に遭遇するとついつい身体が動いてしまう。
――まったく損な性分だ
こんな調子じゃ長生きできそうもないな。
俺は自分自身に向けた嘲りの笑みを浮かべながら殺到してくるオークの群れに飛び込んだ。
オークたちが俺を目がけて殺到する。
身体強化魔法に頼り過ぎると身体がなまるしこの程度の相手で使うまでもない。
魔法剣を一振りすると3体くらいだろうか?
雑魚の数などいちいち数えてはいられないとばかりに目の前に来たそれらを一気に凪ぎ払った。
血飛沫が飛び、切断された腕や胴体が地面をゴロゴロと転がる。
その光景に驚きの表情を浮かべる他のオークたち。
程度の問題はあるが魔物とはいえ、感情もあるし考えもする。
(隙だらけだ)
俺はオークたちとの距離を一気に詰めると返す剣で一体、また一体とオークを屠っていく。
「終わりだ」
最後の一体を袈裟で斬り捨てると俺は一つ「ふー」っと大きく息を吐いた。