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10 王都到着

 それから数日。


 途中の街や村で宿泊や休憩を挟みながら予定どおりに王都へ到着した。


「というわけで王都に到着で~す」


 俺はおっさんらしからぬテンションで馬車から降りてそう叫んだ


 そして俺は一つ伸びをする。


 馬車で何日にも及ぶ移動で身体はバキバキだ。


 周囲からはヒソヒソと囁きながら変なモノを見る視線を感じるが気にしたら負けだ。


 俺がパっと視線を向けるとさっと視線を逸らされた。


 まったく王都の連中は俺が田舎者だからって馬鹿にするのか?


 まあ、いいさ。


 今の俺の心は海よりも広いからそんな無礼も許してやろう。


 さっき入門するのに俺たちの馬車はお貴族様の馬車ということで貴族専用口から待たずに入ることができた。


 城門の外にできた庶民どもの長蛇の列を尻目にこれぞ特権階級というその様をまざまざと見せつけ、城門の兵士どもに「ご苦労」と労いながら進むこの優越感は一度浸ると癖になりそうだ。


 そんな訳で俺は大変気分がいいのだ。



 俺たちは御嬢様に辺境伯家の王都に構える屋敷を案内され馬車を進める。


 そして王都の王城近く、貴族街の一画に大きなお屋敷に到着した。


「リーゼ!」

「お父様!」


 屋敷に到着して直ぐ、俺たち、いや御嬢様を出迎えたのは俺よりも少し年上であろう身なりのいい中年の男。


「心配したぞ! よく無事にここまで……」


「はい、この方たちに助けていただきました」


 御嬢様はそう言うと後ろで所在なさげにしていた俺たちを彼女の父親、辺境伯閣下に紹介してくれた。




「この度は娘を、我が家に使える騎士たちも助けていただき本当にありがとう」


「いえ、困ったときはお互い様ですから」

「ですから」


 応接室へと案内された俺とジーナは向かい合ってソファーに座る辺境伯閣下にそう頭を下げられた。


 いくらかわいい娘を助けたとはいえ、一介の冒険者に高位貴族の当主が頭を下げることができるというのは稀だ。


 御嬢様もそうだが、この辺境伯家の人は貴族だ平民だという括りにあまりこだわりはないようだ。


 話を聞くと辺境にいくほど魔物の動きは活発で、そんな中で貴族だ平民だということにこだわっていては領地を守るのにも支障が出かねないという話だ。


 そんな訳で辺境伯は貴族にしてはフランクで実力主義。


 血統よりも中身という考え方をしている。




「なるほど。今後、王子殿下の婚約者選びが終わるまでは少なくとも気を抜くことはできなさそうですな」


 これまでに俺が気付いたことを話すと辺境伯はそう言って思案顔をする。


 最初の魔物の襲撃。


 それも馬車に細工された跡があったこと。


 さらに盗賊を装った襲撃と御嬢様を狙った何者かの動き。


 立て続けにこういったことが起きれば王都に着いたからといって必ずしも安心はできないだろう。


「よろしければ引き続き我が家にご助力いただけないだろうか? 特にそちらの御嬢さんには協力をいただきたい。今の様子を見ると王城の中も必ずしも安全とまでは思えない。彼女に娘のそばにいてもらえれば安心なのだが……」


「だ、そうだが?」


 俺はそう言ってジーナの顔を見た。


 相変わらず彼女は表情の起伏に乏しい。


 しかし、一拍置いて彼女は俺の顔を見て言った。


「できるのであれば引き受けたいと思います。今の私は冒険者ですから」


 一度受けた依頼は最後まで。


 ここで断ることもできなくはないが乗りかかった船で今さらだ。


 辺境伯に提示された報酬や条件もDランクの冒険者には十分過ぎるものだった。


「いいだろう。俺も久しぶりの王都だし少し羽を伸ばしたいしな」


 こうして俺たちは引き続き御嬢様の護衛を続けることになった。

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