第1話 特攻隊長の役目
――午前10時、太陽の眩い光が輝く新宿の街にて。
俺は1人、街のある場所を求めて歩いていた。
理由としては、長野に呼ばれたのだが、なんでも活きのいいヤツらがいて、そいつらが赤龍会に入りたいと言っているらしく、それの見定めをして欲しいと俺に頼んできたからだ。
そうとなれば特攻隊長として、そいつらがどんなものかを確認しないといけない。
「ここか」
着いた場所は、とある喫茶店。
俺はなんの躊躇いも無くドアを開け、周りを見渡した。
洒落た雰囲気の店だ、ドカジャンで来なけりゃぁ良かったと少し後悔するが、まぁいい。
「おーい、ここだここ」
「ん」
聞き覚えのある声がした方に、俺は体ごと傾かせた。
そこには、テーブル席に座っている長野と2人の男がいた。2人は学ランを着ていて、顔は見えないがどこか緊張しているかのように見えた。
「遅かったじゃねえかぁ、龍二ィ」
「仕方ないだろ、初めてなんだからよ」
そう言いながら、俺は長野と2人が座っているテーブル席の方にまで歩いて行き、長野の隣に体を腰掛けた。
そして、2人の顔を見る。
気合いの入った顔付きではある。だが、緊張しているのかどこか強ばっているようにも見える。
生の暴走族ってヤツはどうも、中坊からすれば新鮮なヤツって訳らしい。確か最初は俺もそうだったか、二階堂さんを見た時はかなりビビって声も出せなかったな……まぁいい。
「……んで、この2人が?」
「おう、赤龍会に入りってえっつってるヤツらよ」
「ふーん」
緊張はしているものの、面構えはいい。相当気合いの入った顔付きをしている。
内に眠る熱さや根性といったものは、実際に確かめないと分からないものだが、どうだろう、この2人なら中々にいい感じがする。
……まぁ、とにかく自己紹介してもらおうか。
「そうだな、まずは名前と中学を言ってくれ」
俺がそう言うと、2人は勢い良く立ち上がった。
「押忍! 山陽中学で番張ってます! 山中真司です!」
「押忍! 三島中学で番張ってます! 竹村裕二です!」
姿勢良く立ち上がり、手を後ろに組んでさながら応援団のように2人は挨拶した。
自己紹介の時から気合い丸出し、中々の有望株だなと感じる。
それに、番を張っているというのも点としては高い。
その中学での最強。喧嘩の面で見れば、武闘派として名を馳せる赤龍会のメンバーとしては申し分無くも思う。
が、まだ見定めは終わってはいない。番を張っているのであれば、大事な事をコイツらに聞かなければならない。
「なるほど、番張ってんのは凄いじゃねぇか、感心感心。って事はアレか? 前の番とはタイマンでケリをつけたのか? それとも、仲の良い奴と組んでリンチした……なんてのは無いよな?」
仮にリンチして倒した、などと言うのであれば、赤龍会に入れる事はまず無い。
そんな卑怯な事を仮にしたのであれば、硬派を看板とする赤龍会の名前に傷が付いてしまう。
ここはちゃんと見定めなければならない。
「いえ! 俺達2人は自分達の力で番を取りました!」
「俺達は決して卑怯な事はしてません! 俺達は己の拳だけで番を取ってやったんです!」
「ふむ」
大声を出しながら、確固たる強さをアピールするこの2人、間違い無くリンチはしていないのだなと俺も理解する。
動揺している様子も無いし、期待の新人として赤龍会に入れる事を二階堂さんと相談してもいいくらいの人材である事は納得出来た。
――が、ここからはまた別だ。
「リンチはしていない、か。なるほどな、そこまで言うんだったら俺もこの長野も、まぁそこは認めるよ」
「ッ! なら、俺たちを赤龍会に……」
「それはちょっと待て」
山陽中の山中が言葉を言い終える前に、俺は掌を前に出して黙らせる。
「……店を出るぞ、“最終試験”だ」
***********************
――店から少し離れた、とある場所の裏路地。
俺と長野、そして、山中と竹村の4人はその場に立っている。
山中と竹村は、何が起きるのかと先程よりも緊張している風に見えた。
(懐かしいな)
去年、俺もまた二階堂さんに同じ方式で最終試験を受けた事がある。故に、この2人が緊張してその場をキョロキョロとしていたりするこの光景が、なんだか過去の俺と長野をみているみたいでなんとも言えない懐かしさを感じてならなかった。
だが、思い出に浸っている場合なんかでは無い。
「よし、ここが最終試験を行う場所だ」
「……最終試験、と言われても、何をするんですか?」
竹村はどこか険しい目付きをしながら、俺にそう聞いてきた。
確かに、ここまで来て濁す必要は無いだろう。
「ここに来てもらったのは、お前ら2人を試す為だ」
ポケットに突っ込んだ手を出し……拳をゆっくりと握り締めていく。
その意図に少し気付いたのか、2人は互いにハッとして身構える。
なんとも言えないような重苦しい雰囲気に漂うこの場所は、今や普通のヤツらには入り込めない領域と化している。
俺は睨まず、だが、無表情にもならない程度に2人の顔を見続ける。
2人の顔には僅かながらの恐ろしさが感じられたが、それでも尚突き進もうとする気概のようなものが感じられた。
――それだけでも、中坊にしては大したものだろう。
だが、それだけでは認められい。
「……喧嘩、しようぜ」
その一言で、場は更にピリついていく。
2人の中にあった恐れは段々と姿を消していき、表情には相手を狩ろうとする獰猛さと、必ず何かをやり遂げてやるのだという気合いに満ちたソレへと変化している。
長野もそれに気付いたのか、声を出しながら感心していた。
「ほぉ〜」
俺は構えてはいない。が、2人は完全に臨戦態勢に入っている。
そして、俺は最後に言葉を交わす。
「2人でかかってこいよ、そっちの方が1発は当たるだろ?」
「……あんまし、舐めないでもらえますか?」
「なんならブッ倒したりますよ」
最早口調まで、倒すという感情に支配されている。相手にはとことん牙を向け、赤龍会の信条をまるでその一身に浴び切っているようだ。
尚更、楽しみだ。
「……始めるか!!」
――先に飛び出したのは、山中と竹村の2人ではなく、俺だった。
喧嘩の醍醐味とは何か? と聞かれればそれはきっと様々な事を思い浮かべるだろう。
体格差や格闘技経験者にも勝てる可能性のあるリアルファイト、それが喧嘩の醍醐味と感じるヤツらは多い。
「ッ!?」
つまり、先手必勝。
先に拳を顔面に打ち込んだ者勝ちの、最高クラスのギャンブルにある。
「フンッ!!」
俺は体を前に傾けたまま、左拳だけを山中の顔面に目掛けて突き出していく。
それはテレビで見たボクサーのような、そんなパンチの仕方だったが、まだまだ下手くそな見真似。
だが、喧嘩であればそれだけでも効果はあるし、なんなら……
確実に当たる。
「ウッ!?」
ドスッ! と嫌な音を立てて、山中の顔面に拳が突き刺さるようにして打ち込まれ、壁にまで吹き飛ぶ。
だがそれだけでは終わらせない。すぐさま俺は体勢を立て直して、山中に詰め寄っていく。
「ガァァァ!!」
そこから更に腹を目掛けて、拳を打ち込む。1発、2発、3発、何度も何度も左と右の拳をブチ込んでいく。
「ガッ! ゲハッ!!」
「ッ!? この野郎!!」
すると、後ろから叫び声が聞こえてくる。
「!!」
それは竹村だった。仲間がやられている怒りから来る叫び、それに対して俺は思わず振り向いて、動きを止めてしまう。
「ウオラァァ!」
振り向いた時にはもう、竹村はジャンプしながら右足を突き出し、俺の顔面にまで迫っていた。
避けきれない! 既にスレスレの距離、となると、選択肢は1つしかない。
「ッ!」
咄嗟に俺は腕をクロスにして、竹村の飛び蹴りを防御した。のだが、その衝撃はかなりのモノで、俺は壁際にまで飛ばされる。
だが、竹村の攻勢はまだまだ収まらない。火が付いちまった竹村の勢いは強く、そのまま俺に迫り込んで殴り、蹴り続けた。
俺はそれに対して、ガードをし続けるという選択肢しか取れなかった。
「この! オラァッ!!」
「チッ……!」
実力だけで成り上がってきた男の力は半端では無く、中学生とは思えない程にまでの迫力があった。
現に今、場所が場所とは言え、俺はかなり押されている、しかも1人にだ。
これは、俺としてもとても素晴らしい事だ。
「……フンッ!!」
「!? ウグゥッ!!」
だからと言って、はいそうですかとやられっぱなしな訳にはいかない。
俺は竹村の両腕を無理矢理掴み、思いっ切り額に向けて頭突きをかました。
「まだまだ……!」
更に、今度は竹村の右腕を左腕で掴み、残った右腕で腹に目掛けてパンチを食らわした。所謂、ボディーブローだ。
「グアッ……!」
「まずは1人だ」
そう言って、俺はトドメに右の裏拳を竹村の顎に食らわした。
これで脳震盪かなんかが起きて、確実に相手を倒す事ができる。俺の知る技術の中で1、2を争う程最高クラスの喧嘩技だ。
「ウ……ガッ……」
そうして竹村は横に倒れていき、そのままノックアウト。
これでまずは1人、結果としては負けたが……いや、とにかく後は山中だ。
「竹村!」
腹を押えながら、山中は倒れ込む竹村の元へと急ぐ。
負けた仲間を思いやるのも、これまた高得点といったところか。
「どうする、ギブするか?」
「……いや、まだ、まだまだだ!」
山中はそう叫びながら、構えを取り直した。
腹をやられた気持ち悪さが残っているのだろう、呼吸がかなり乱れている。それに、足もどこか覚束無い感じだ。
それでも尚、立ち向かおうとする姿勢、これまた高得点な行為だ。認めざるを得ない。
「いいじゃねえか、そんくらい気合い入ってる方が俺としてもいいからな」
自然と、笑みが零れる。
ただ純粋に楽しんでいた。この男たちがどう戦うのか、戦いの中でどう動くのか、単純な強さと気合いを推し量る為の試験であったが、気持ちが少しづつ変わってきている。
今の赤龍会でもあまり見ない、とてつもなく気合いの入ったヤツら、既にこの年代でこれ程の気合いのあるヤツなんてそうそういないし、ここまでとことん抗おうとするこの根性も、尋常じゃない。
それは暗い存在とは程遠い、明るい炎、いや、燃え盛る炎を見ているようだ。
もう試験とは関係無く、純粋にこの喧嘩の行く末を知りたい。純粋にコイツらと拳を持って語り合いたい。そうとなれば……
「――さぁ、来いよ」
この喧嘩を、とことん楽しむしかない。
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