プロローグ
――轟音だ、猛り狂う龍の叫び声のような轟音。そして、大雨のように高速道路を雪崩込むヘッドライトの大集団。
幾多の有象無象を蹴散らすようにして走り続けるマシンの大軍、それに跨るのは、大量の刺繍が施された赤い特攻服の群れ。
それはまるで檻から出された獣のようであり、この世の何よりも自由にすら見える。
そんな彼らの運転する改造されたバイクや車には、それぞれにステッカーや旗が取り付けられており、そこにはこう書かれている。
“新宿狂走連合 赤龍会”
“新宿狂走連合”構成員総勢5000名の内、赤龍会は構成員その数50程度、それでも連合内では最も武闘派と言われ、最も喧嘩に強いチームと言われる“俺達”の組織……組織の信条は簡単、世の生活の全ての不満や反抗心を走りと喧嘩の、その全てにぶつける。
暴走の青春を生きよと。
「――オラァァァァァァァ!! オメェラァ!! 気合い入れてもっと突っ走るぞォォォォォ!!」
轟音にすら負けぬ声を放ち、俺も含めた49名に気合いを入れるその男、赤龍会総長“二階堂修”。
俺は、その後ろをバイクで走っていた。
「……」
名を、“滝野龍二”。俺はこの赤龍会で特攻隊長、ケツ持ちとも言われる重要な役割を担う構成員の1人だ。
自慢では無いが、この組織で危ない部分を担う存在、それが俺だ。特攻隊長というのは、常に総長の後ろにい続け、抗争となれば先陣を切って暴れる。
即ち、いざという時にプチンとキレちまう人間でなきゃならない。
これも自慢と言う訳では無いが、この組織の為なら一肌脱げるし、何だってできる。
特攻隊長であるという事は、そういった覚悟が如何に決まっているかという事が肝心だ。
そして後ろを振り返れば、その責任が如何に重いかを再認識できる。俺と総長を除いて48騎、それらを率いるだけの気合いを常に入れておかなきゃならない。
総長の後ろを走りながらも、力を鼓舞すべく俺は危険な運転を繰り返す。同時に、この時間は俺にとって、最大の幸福だった。
何度も何度もコールを鳴らしながら、右へ左へと動き回る。
走り屋として看板を背負う赤龍会で最も大事なのは、目立つ事だ。
自由に走り回るという危険、死の恐怖に最も近い場所で恐れを抱かずに走り続ける、命を懸けた根性試しにこそ、走り屋としての本質がある。
「オッシャアア!!!」
「ヒャッホオオオオオオ!!!」
――多くの仲間達の叫び声とコール音がけたたましく鳴り響き、死の恐怖を忘れるくらいにスリリングな自由と、震える程の快感に心は昂り続けた。
最高で仕方無い暴走の時間は1時間程続き、やがて俺達の鳴らす爆音は段々と高速道路から闇へと消えていった。
***********************
――深夜の2時頃、高速道路を出てから、俺は友人と共に新宿に舞い戻っていた。
そして俺もコイツも2人して興奮は冷めぬまま、とあるファミレスの中で、俺達は今日の走りの事について熱く、語り合っている。
「楽しかったなぁ龍二!!」
「あぁ……いい夜だった」
「クゥーッ!! 出来りゃあ今からもう一度走り回りてえ! 俺らだけで行くかぁ!?」
そう言って思いっ切り立ち上がった、情緒が不安定なくらいに興奮しているこの男、俺と同期の16歳であり、赤龍会親衛隊長の“長野大輔”と言う。
独特な金髪のリーゼントが特徴的なこの男、見た目だけで無く、性格もかなり独特な奴で、掴み所が本当に分からないような奴だ。
「落ち着けよ。ポリ公も動き出してたんだから今の時間はもう無理だろうが」
「それでも走りてぇよ!! お前はそう思わねぇえのか! ん!?」
「その売れねぇお笑い芸人みたいな喋り方止めろよ……まぁ、走りたい気持ちも分かるが、流石にもうお開きになったたんだしいいだろうがよ。充分走ったじゃねぇか」
楽しい時間であったのは認めるし、そりゃあもう一度走れるなら走りたいというのは本当だ。
だが、一度走りをしてからもう一度走るというのは危険にも程がある。
ただでさえポリ公……警察にマークされている以上、2人で走るなんて捕まりに行くようなものだ。
特攻隊長や親衛隊長は恐れ知らずでなければならないが、捕まる訳にはいかないのだ。
「俺らはそんな自由に駆け回れる身じゃねえんだ……ちっとは我慢ってモンも覚えなきゃならねえだろうよ」
「我慢たってよお、俺たちゃそれができねぇから暴走族になったもんじゃねえか」
「ただ暴れ回るなら誰でもできるさ。けどな、俺達はもうただの構成員なんかじゃなく、特攻隊長と親衛隊長、組織にとって大切な要になっちまったんだ。我慢も覚えなくちゃいけねえよ」
欲を我慢するというのも、組織の為には必要な事だ。
「……まぁ、そうだけどさぁ」
納得できないといった雰囲気で、長野は腕を組みながら言葉を濁らせた。
何かを言おうにも、言えない事実だ。しかしだからと言って長野の気持ちが分からない訳では無い。
「とにかく、今日はもう終いだよ。それにまた夜は来るんだ、楽しみはとっとくもんだぜ」
「……それもそうかねぇ」
「ああ、それよか、折角ファミレス来たんだし何か食わねぇか? 腹減って仕方ねぇや」
俺はそう言って、腹を摩る仕草をしながら長野を見た。
「金持ってきてんのかぁ?」
「あるよ。だから言ってんのさ」
「なら、なんか食うかぁ……何するよ?」
「適当でいいよ、適当」
*********************
――ファミレスで食事をした後、俺と長野は店から出た。
そこからは暴走はせずに、交通のルールに従ってバイクを走らせ、俺と長野はそれぞれの帰路に着いて行った。
飯を食っている時の話を時より思い出しながら、俺は狭い道路をバイクで走っていた。
(将来、か)
暴走族を引退したら、俺達はどうなるんだろうか。
そんな話題になった時、お互いに考え込んだ。柄でも無いが、その時だけは本当にどうなるのだろうと想像を繰り返した。
高校も行っていない俺とアイツが社会に出たらどうなるのか? 考え付くのはどれも酷い未来で、高学歴のヤツらに顎で使われる仕事に就くのか、それともヤクザとなって成り上がる事もできずに鉄砲玉にされて地獄に墜ちるか?
どれもこれも最悪な未来だ。
(……まぁ、当たり前の事か)
この身に吹く風に揺られて、どことなく悟った気分になっていたのだろう、そんな未来を想像しても何故か寂しくなる事は無かった。
なんとなく理解している。ロクな未来は待っていない、だがそれでもこの道を突き進むしか無いのだ。
選択肢なんて、とっくにどれも消えて無くなっている。
そしてそれが、自分の運命だと言う事も理解していた。生まれた時から決まっている、カスのような人生だ。
「……」
寂しく閑静な住宅街には、バイクのエンジン音だけが鳴り響いている。
(あと2年と数ヶ月、それだけありゃあ色々と踏ん切りだって付けれる、腹を括らないといけねぇんだ)
そんな事を思いながらもバイクを走らせている内に、我が家に着いた事に気付いた。
ふと右側に視線を向ければ、そこはいつの間にか家だった。かなり疲れていた事もあって、本当に気が付かなかった。
「かなり気張ってたんだな」
独り言を呟いてから、俺はバイクのエンジンを切る。
そして、バイクから降りようとしたその時だった――
「……ん?」
ふと、後ろから視線を感じた俺は、ゆっくりと体の向きを後ろに向けた。
後ろにいたのは、女だった。
今時流行りのようなショートの髪型をした、赤いジャケットにスカートを履いた、歳で言えば俺と同じくらいの、ここらじゃ見た事の無いヤツだった。
……視線が合う、何を考えているのだろう。女の目からは、まるで感情といったようなものを感じない。
不気味なくらいにまで、ただ静かで暗い感覚。感じた事の無い嫌な感情が、俺の頭の中で響いている。
あまりに、異様だ。
「……なんだよ」
「……」
「なんか、言えよ」
言葉が詰まり、冷や汗が流れる。
尋常じゃない何かがこの場を支配している……それは偽りなんかでは無く、直感的に分かる。何かが、ヤバい。
「……」
女は何も言わず、後ろを向いてどこかへと歩いて行った。
先程までの不気味な感覚は段々と消えていき、不思議と安心感が湧くまでに至った。
初めての、いや、知らないような、知りたくない何かが俺の精神に巣食っていたのだと、改めて感じる。
「なんだよ、アイツ」
――その日の夜、俺という人間が初めて見た、“高位の存在”。
――俺はまだ、何も知らない傍観者であった。
「面白い! 最高だ!」
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