7話 場所取り
学園エリアの駅から闘技場のあるトレーニングエリアの駅まで、約30分。リニアは時速270kmで突き進んでいた。
「ん?着いた?」
「うん、着いたよ」
5分前、クリミナはようやくレイラ達の拘束から逃れる事ができた。そして自分の座席に戻っていた。
いや、正確に言うのならば、リンカがクリミナの席で寝ていた為、リンカの座席に座っていた。先ほどまではリサとお喋りを楽しんでいた。
「あいつは?」
「先に行ったよ。君が起きるのを待っていられないだって。レイラ達と行った」
「じゃ、行くか」
眠っていた者が多いため、リニアにはまだ人が残っている。そしてこれは例年通りの為、リニアはしばらく出発する事はない。
「早く良い場所を取っとかないとな。折角こんな早起きしたのに微妙だと、いたたまれないからな」
「そうだね」
わかっていると思うが、クリミナは転校生だ。勿論この場所に来た事も初めてだ。
他の者達は最初に軽くではあるが、学園の敷地を一通り案内され、場所は教えられている。が、殆どクリミナと同じく、初めて来たのと同じだ。一回だけ来た程度では、覚えていられない。それほど広大な敷地がこの学園にはある。
ここだけの話だが、三年であろうが、この場所に来るのは10回もない。そのため三年だろうと、この場所で迷子になる事もある。
◇
それにしても、学園の敷地に在って良いような規模の闘技場ではない。いくら外から観客を入れるからと言えども、勿体ないぐらいの闘技場だと言えるだろう。
「ちょっと、広すぎなんじゃねえの?どのあたりが良いとかさっぱりだな」
「ここは、どのぐらい人が集まるの?」
「さあな。でもこの学園だけじゃなくて、この国全体の一大イベントだと言えるからな。少なくともここには一万人ぐらいは集まるんじゃねえか?更に言えば、一部ケーブルテレビで生放送するからな。優勝者は号外で知らされたり新聞のトップを飾ったりニュースで生い立ちが語られたりするかもな」
「ちょっと、僕には縁のない言葉ばかりで、よくわからないよ」
「そっちでもわかるように言えば、そうだな。ラジオで試合状況を中継するってこった。新聞とかはそっちにもあるだろ?あとはまあ、結局はラジオで有名人になれるって事だな」
そして彼等二人は丁度観覧席に居た。そこから試合を行う場所を見下ろしながら、よさそうな場所を探していた。
「最悪ちゃんと試合を見れれば俺は良いんだけども。レイブンの野郎に頼まれてるからなぁ。もうちょっとオーダーを聞いとけばよかった。最前列で良いのかすらわからん」
「僕は戦いを観戦する事なんて無いから、どこが良いかなんてわからない。そもそもどこが良いかなんてあるの?」
「まあ、遠くから観戦するのは、見えにくいけど。まあ、近ければ良いかな。レイブンには、てめえでやらないのが悪いって言えば良いだろ」
実を言えば、遠くの席であろうとも、ホログラムを用いて試合を見る事ができる為、場所取りはとても重要と言う訳でもない。ただ自らの眼で戦場を見たいと思っているのなら、しっかりと場所取りをする必要がある。
「それにしても、リサのパーカーはそのまま借りてるんだな」
「ちゃんと返そうとはしたんだけどね。使えば良いって言ってくれて。半ば押し付けられた感じもしたけど」
「ま、あいつが良いって言ったなら、ありがたく使わせてもらえ。お前だけ体操着が別物なんだし」
結局、クリミナ達は、最前列の席にした。
◇
「ここですか?」
「なんだよ。文句あるのか?」
「いえ、そういう訳では無いですがね。と言うより、良い場所ですよ。ですがどうせなら、もう少し正面が良かったと言う話です」
「そればっかりは、しょうがない。そもそもあの戦場、俺達が来て少ししてから完成させてたんだ。何処が正面か分かってない状況だったんだ。一番前ってだけでも感謝してほしいぐらいだ」
「ええ、そうですね。ぼくの代わりに場所を取ってくださり、ありがとうございました」
「お前の口調も相まって、丁寧すぎる感謝なんだけど。そこまでじゃないだろ」
レイブンは二陣の、いわゆる試合は全部見る組。そしてその生徒達が来たと言う事は、一般の客も同じく全試合見る為にやってくる。
闘技場は賑わっていた。
「じゃ、俺は一試合目なんで、準備してくら」
「頑張って」
そして客が集まってきたと言う事は、もうすぐ試合が始まると言う事。正確には試合がもうすぐ始まる為、観客が集まってきた訳だが。
「えっと、改めて。僕はクリミナ。君は?」
「ぼくはレイブンです。見ての通り力は無く、戦略を練る方が得意です。と言うより、機械いじりなどの方が好きですが。どうぞよろしく」
「よろしく」
軽く自己紹介をし、二人は握手を交わした。
「それでです。ぼくは君の事を知らない。ですが、ええ。聞くつもりはありません。他人の過去に興味は無いですから。ぼくが興味あるのは、君は政府側に就くのかどうかです」
「僕は誰の下にも降らない。それは絶対だ」
クリミナは語気を強めてそう言った。今までの口調とはかけ離れていた為、別の誰かの言葉のようにすら思える。
「……なるほど、そうですか。ならば害はないと思って大丈夫そうですね」
だが、わざわざそれを指摘して、蛇を出すほど無能ではない。
そもそもレイブンは知将だ。たった一人に執着するのではなく、大局を眺める事ができる男だ。確かにたった一人でその大局を動かせる人物も居るが、作戦と知恵で乗り切る事も可能だ。そのため、個人に執着せず、作戦を遂行する。
そしてレイブンの中では、クリミナは注目するほどの危険度ではないと、そう考えている。いや、この危険度を確かめる為に、今回のトーナメントをじっくりと観戦すると決めた。
「では、リンカの試合を眺めるとしましょうか」
「そうだね」
◇
この学園、一学年二クラスであり、一クラス16人と言う少数で構成されている。
それでもトーナメント戦と言う事もあり、試合は二日かけて行われる。一試合は最大で30分。試合と試合の間は観客の事も考え約10分。これが一試合の流れになる。最大限生徒達が活躍できるよう、30分と言う制限時間が設けられている。本来ならばちゃんと決着をつけるまで試合を続けさせたいのだが、それでは逃げに徹する事ができ、試合にならないと言う事態になりかねない為、こうして制限時間が設けられた。
そして二日かけて行われる試合、その第一試合。その注目度は高く、例年期待度が高い生徒が第一試合に選ばれている。
そしてこの場合、リンカがその期待度の高い生徒と言いたいのだが、決してそうではない。どちらかと言えば、彼はやられ役。引き立て役だ。弱すぎず、かといって強すぎない生徒。それがリンカに求められている役割。でなければ、その注目されている生徒の力を十分に発揮してもらえない。
『それでは第一試合。ベネット君対リンカ君の試合を開始する』
事務的な口調でそう告げられた。人の声ではなく、機械音。
「ところで、相手はどのぐらい強いの?」
「彼はB組のベネット。いわゆる、期待の超新星、その一人。同じクラスではない為詳しく知っている訳ではありませんが、とても強いらしいですよ。B組には既に彼の相手をできる者はいないらしいです」
「じゃあ、リンカは」
「僕からはどうとも。彼は惜しいところまで戦うんじゃないですか?そして負ける。いつもの事です」
リンカの話になればレイブンは興味なさげに答えた。
「そうですね。言い直すべきですかね。とても試合を盛り上げる負け役、と言ったところです。彼は闘争訓練の時は必ず負けていますから。それも相手が気持ちよく勝てる負け方をしますから。まあ見た方が早いですよ」
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