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闘争学園  作者: ゆきつき
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1話 転校生

「はい、じゃあ、転校生を紹介するぞ」


 この日、この学園『シュテン学園』で開校初の、転校生がやってきた。


「クリミナです。名前は、憶えてないです。ただクリミナと、そう呼ばれてたので、そう呼んでくれたら十分です。これからよろしくお願いします」


 変わった名前だな、だとか、なんでこんなひ弱そうな奴が転校なんて、だとか。クラスは小さなざわめきが起きた。


 この転校生、纏める事を知らないのか、髪の毛は乱雑に跳ね散らかっている。紫色の髪の毛のはずなのだが、どういう訳か黒っぽく見える。

 体つきも、男と言うには少々以上に、貧弱。それも闘争を目的としたこの学園には、とても不相応だと言えるだろう。ちょっとこけたら骨折するんじゃないかと思うぐらいには、体が細い。

 それに、この場所で勝ち抜く、生き抜く、と言った闘争心どころか、そもそもの精力すら欠けているように思える。本人がそのような事を思っていないにしても、このクラスの皆はそう感じ取った。相手の感情を読み取る事ぐらいできなければ、相手を出し抜く事なんてできるはずない。だから、何となくではあるがわかる。


「はいじゃあ、ホームルームは終わりだ。急いで授業の準備をしろ」

「ホームルームはもっと連絡事項を話すものなんじゃないですか?」


 一人の生徒が、聞いた。クリミナは転校生の為、こういった事は知らないが、その他生徒は違う。一年だとは言え、今はもう初夏。一か月以上経てば、どういう方針かどうかは自ずとわかる。一か月の経験は、案外莫迦にできない。

 だがあえて、今聞いた。転校生の為を想って、そして前々から聞いてみたかった事を、この機会に聞く為。


「その合理にそぐわない質問は受け付けない。それより早く授業の準備をしろ。このまま一限を始めるんだ。切り替えができないのなら、さっさとこの学校を去るのをお勧めする」

「じゃあ先生。転校生の席ってどこなんですか?」

「、、ああ、すまない。俺としたことが。ちょっと待っていてくれ。席を持ってくる」

「そこからかよ」


 先生、テイトは、他人に合理を求めるのに、自身が合理的に動く事ができない。無論他人に強要するだけあって自身もそのつもりで居ようとしてるが、その忘れっぽい性格のせいで、どうにも合理的に話を進める事ができない。


「じゃあクリミナは、適当に自分の席にしたい場所でも選んでいてくれ。この教室は広いからな。好きな場所を選んで大丈夫だ」

「あ、はい」


 先生が教室を出る。先生が教室からいなくなると言う事は、つまりは生徒達が騒ぎ出すと言う事。そして都合の良い事に、生徒達の非日常の出来事、転校生がやってきたのだ。どうなるかは、誰にでも想像できるだろう。


「なあなあ、お前どっから来たの」

「お前は何ができるんだ?そんな体でよ。いや、悪い意味じゃなくて、興味本位での質問だから、気を悪くしたなら謝る」

「今まで何してたんだよ。そんな人って恰好から外れた感じで」

「ねえねえ、彼女持ちだったりするの?髪の毛さえ整えれば、結構イケメン、と言うか可愛いと思うんだよ」


 転校生は、人気者。それは闘争が目的である学園でも同様だ。男女問わず、誰からだろうと人気者になる。強いて違いをあげるとするならば、普通の学園だとあり得ない、いつかは倒すライバルになりえる、と言う事だ。だがそれ以外は、普通の学園生活と大差ない。

 だから普通の転校生の対応と言えば、これの対応にテンションが上がる、と言った事になるはずだ。だが今回の転校生、クリミナは十人に聞いたら十人が変人だと答えるぐらいには、変人だ。


「僕は、誰とも繋がりが無い。何もできない。何もしてない。気が付けば、ここに居ただけだよ」


 これは、別に悪意や邪気から来た物言いではない。ただ、彼の心の底から出た本音。


「ああ、まあ、そういう事もある、よな?」

「他人の事だし、俺が知るはず無いけど」

「なんか、感じ悪い?」


 彼は本音以外に何を伝えれば良いのか知らない。それまで、人と関わると言う事が無かった。だから、何を伝えるのが正しいのか知らない。他人がどう思ってるのかわからない。他人にどう思われようが、彼には関係ない。


「気分を悪くしたのなら、謝るよ。けどもう、話しかけないで」

「おいクリミナ。どの席が良いか決めたか?決めてないなら、窓際の一番後ろの特等席をやろう」

「それでいいです」

「じゃあ決まりだ。   よっと。じゃ、授業を始めるぞ。さっさと教科書を出せ。なんで準備をしていない」

「先生が言えた事じゃないと思います」

「今日はちゃんと準備してきてる。お前達はどうだ?いつも準備してないだろう。たまには行儀よく授業の準備をして席に着き、授業を待っておく事ができないのか」

「ぶーぶー」


 やはり、どの学園でも先生は好かれ嫌われると言う、奇妙な立ち位置に居る事になる。


「じゃ、始めるぞ」


 だが、授業が始まれば、皆良い子になり、ちゃんと静かに授業を受ける。やはり出来の良い生徒達だからか、単にクラスの人数が少ないから纏めやすと言うだけなのか。結論だけを言えば、その両方が良い具合に噛み合っている結果だが。





「じゃ、ホームルームを終わる。自主練なり休息なり、それぞれちゃんと目的を持って過ごすんだ。何も考えないで過ごす事だけはしないように」


 いくら闘争が目的の学園だとしても、他の学校でも教わる授業を受けない訳にはいかない。ここは何があったとしても、教育機関。子供たちに闘争と言う争いの道具だけを持たせる訳にはいかない。ちゃんとした教育を、子供たちに受けさせる義理が、この学園にはある。なにせ教育機関なのだから。


「おっ、言い忘れるところだった。クリミナ、お前の部屋な、この紙に書いてるから。荷物も既に届いてるはずだが、もし足りない物があったら報告してくれ。最悪、こちらで弁償する」

「わかりました」


 クリミナは、それ以上言わない。

 荷物なんてないと言う事は、テイトは勿論知っている。なにせ自分が担当する生徒。寮に入れる手続きなどは、基本的に彼が担当としていた。その過程で、クリミナが自分の部屋に置いておく荷物が無いと言う事ぐらい、理解している。

 だが、テイトは何も言わない。わざわざ藪をつつくような真似はしない。それに生徒のプライベートに一定以上立ち入るのは、先生のやる事ではない。その辺りをテイトは弁えている。そのため、事務的口調で淡々と告げるのに終わる。

 クリミナは、他人にどう接するのが正解なのか知らない。そのため、口答えや反論をしていい物かどうか知らない。そもそも他人と関りを持つ事を嫌っている。そのため、最低限の言葉しか発しない。そういう人間だ。


「じゃ、お前達も、転校生に優しくしてやれよ」

「そんなので優しくされて嬉しい転校生はいないと思いますけど」

「じゃあまた明日」

「「「さよなら」」」


 テイトは忘れっぽいと言うところ以外は、まさに理想的な先生と言えるだろう。無暗に規則だなんだを押し付ける事もないが、最低限先生らしく道徳なども教えている。ただ道徳を教えると言うよりは、少し真面目に授業をしているぐらいだが。授業以外では、案外ユーモアのある面白い先生なのだ。好かれないはずがないだろう。


「なあクリミナはさ。何か得意な事ってあるの?さっきも聞いたんだけどよ。いやなんかさっきより機嫌がよさそうと言うか、ちょっとだけだろうけど打ち解けた感じでもあるしさ。改めて聞きたいんだけどよ。お前は何ができるんだ?」

「別に、大した事ないよ」

「やっぱり、ちょっとはマシになってんな」


 さっきも冷たくされたにも関わらず、改めて声をかけて来たのは、このクラスのリーダー的存在、ラウル。金と茶の間ぐらいの髪色で、ストレートとは言えないが、癖っ毛と言うには癖が少ない頭髪。顔も整っており、男女問わず、惚れ惚れするぐらいイケメンだと言える。そして何より、ここまで良い要素が揃って、嫌われない程度にこの事をネタにして、そして誰からも好かれるような性格をしている。一緒に居て楽しくさせてくれるような、とても良い雰囲気がある。


「ま、答えは変わってないんだけども」

「それは問題じゃない。重要なのは、これから一緒にやっていくって仲間が、自分からふさぎ込むなんてさせたくないだろ?こっちも寂しくなるじゃんか、そんなのだと」

「はいはい」


 だけど、クリミナは必要以上に喋ろうとしない。求められなければ、それ以上に情報を開示しない。だから、クリミナは自分から喋る事はない。


「それじゃ、僕は帰る」


 訂正。自分の事を、自分から話すような事はあり得ない。


「まだ聞きたい事とかあるん、だけど」

「いやあいつ、どんな速さで帰ったんだよ。家大好きっ子か」

「言っても転校初日だぜ?あそこは自分の家だとは思えないだろ。色々違いすぎるだろ?」

「いやぁ。洗礼を受けるだろうなぁ」





「部屋は、」


 テイトから受け取った紙を見ながら、自分の部屋になる場所に向かう。


「おい、あんたが転校生か?」

「はい」


 …逆に、クリミナは聞かれた事は基本隠す事なく答える。例え相手が、こちらに喧嘩を売るような態度であったとしても、怯む事なく、普通に答える。


「おう、正直は良いな。だがその正直さは、お前自身を傷つける」

「??」

「おらッ!」


 気が付けばクリミナの周りには三人の鈍器を持った男が居た。そして抵抗を一切しないクリミナを、ただ殴り続ける。

 そしてクリミナも、痛いも待ったも悲鳴もあげず、ただ殴られ続ける。何故抵抗しないのかわからないぐらいには、一方的に殴られている。




 骨折していそうなぐらいに腫れあがり青あざを作っている腕に、普通だと折れ曲がらない方向に向いている右足。顔も酷く、あざができた場所を何度も殴られたのか、青あざと呼ぶには、内出血が酷く殴られた箇所が真っ黒になっている。鈍器で殴られていたはずだが、切り傷もついている。


「なんだこいつ、気持ち悪」

「聞いてた化け物と、話が違うな」


 更に言えば、体中に砂と石がまばらに散ってる。通路だったはずの壁が半壊している。何回もぶつけられた証拠だ。


「チッ、餓鬼が。オレの体に傷つけてんじゃねえよ」

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