三、②
「あっ、はい」
隼人が企画書を持って立ちあがり、喋りだそうとすると、チッとあからさまに聞こえる後藤の舌打ちが会議室に響いた。
隼人は我慢ならず、後藤を睨みつけた。
「城戸!」
西は一喝する。
隼人は溜息に似た息を深く吐き、空気を吸い込むと、両頬を両手で叩いて、冷静さを戻すように自分の心を落ち着ける。
「すみません、取り乱しました。・・・まず、私にチャンスを与えてくれた我が社、皆様に感謝します。そして、サポートをしてくれた十川店長、山鹿店の皆にも」
隼人は深々と頭を垂れた。
「フン」
明らかに敵対心を剥き出しにする後藤を、隼人は完全無視を決め込む。
「では、はじめます。我が社は、昔からの和菓子の老舗店です。そこで・・・店長すみません」
十川は頷くと、A4のコピーの企画書を配布した。
企画書には「和菓子の核となるメインブランドを確立する」と書かれてある。
「ほー城戸、ウチには肥後饅頭、肥後最中をはじめとした、根強い人気の肥後和菓子シリーズがあるじゃないか、なにを今更・・・」
後藤が企画書のタイトルを見て、真っ先に口撃をはじめた。
「はい、話が前後しますけど、企画書の三頁を見てください。これは、我が社の販売10店舗の、最近半年間の菓子別売り上げです。残念ながら、洋菓子とケーキは良いのですが、和菓子の肥後シリーズの売り上げは下降しています」
「・・・・・・」
「そこで、核になる和菓子を新たに作り出そうと考えました。我が社は、洋菓子やケーキの新製品には意欲的に取り組んでいますが、調べたところによると、和菓子はここ三年の間、一度も新製品の開発がなされていません」
「それはだな、先達が作られた伝統が・・・」
後藤は苦々し気に口にする。