三、プレゼン①
熊本市内にある肥後製菓堂本社の会議室で、隼人と十川は上司達が来るのを緊張して待っていた。
六月に入り、うっとおしい梅雨時のジメジメが続いている。
今日も空一面には、鉛色のどんよりとした空が広がり、横殴りの雨が続いている。
隼人は机に置いた企画書を手に取り、見直ししようとするが、すぐに机に投げ置いた。
腕組みをし、パイプ椅子にもたれかかると、貧乏ゆすりをはじめた。
「城戸さん、大丈夫」
十川は、心配そうに隼人の顔を覗き込んで言う。
「ああ、ごめん」
隼人は、貧乏ゆすりを止めると、軽く右手を上げ十川に謝った。
その直後、会社の上役達がやって来た。
販売部門責任者である西、菓子製造部門の責任者、セクハラおやぢこと後藤チーフ、宣伝部責任者兼副社長の江崎が二人と向かい合わせに座った。
「さてと、待たせたね。じゃ、早速、城戸君の企画内容を聞かせてもらおうか」
江崎は貫禄ある風貌で、ゆっくりと両肘を机に置き両手を重ねながら言った。
「場合によっては、城戸に引導を渡すかもしれんからな」
後藤は花見の一件を根に持ってか、嫌みたらしく苦笑しながら言う。
隼人が見えないように机の下で拳を震わせていると、西が後藤に、
「後藤チーフ、わざわざ、プレッシャーをかけなくてもいいでしょう。それでなくても、城戸には負担がかかってるのに」
「しかしな、こんなヒョッコ若造に、肥後製菓堂の危機的状況の最中に、大切な企画を考えさせるとはね・・・なんとも」
後藤のパワハラまがいの陰湿さは筋金入りだと、夏菜から聞いてはいたが、たて続けの口撃に城戸は天井を仰いだ。
江崎は険悪になりそうな空気に、パチンと両手で叩くと、
「さ、本題に入ろう。なっ後藤君、さっ城戸君、はじめたまえ」