二、心、乱れる①
その日は、西の言葉の影響をモロに受け、仕事は散々だった。
接客中には、お客様に態度がなってないと、お叱りを受け、ケーキを箱詰めしているとモンブランを落っことしてしまった。
電話に出れば詰め物のお菓子の一部が賞味期限切れになっていたと、ヒステリックな声でクレームを受け、菓子折りを持っていけば「あんたじゃ、話にならん。社長を呼べ」と理不尽な恐怖を味わった。
極めつけは配達にでたものの、家が分からず、一時間以上、道に間違った挙句、中のバースデーケーキが陽気でクリームがすっかり溶けてしまったのに気づかず、お渡しして、ようやく戻ると、まず十川に「遅い!」と怒られ、次の瞬間には電話が鳴って、「ケーキ楽しみにしていたのに!もう、おたくのところでは何も買いません!」と強烈に叱責されてしまう始末だった。
その時の十川の恐ろしい顔・・・久しぶりに仕事を辞めたいと思った一日だった。
隼人は仕事が溜まっていたが、残業する気にはなれず、21時に店が終わると同時に飛び出し、愛車を走らせて、国道三号線を南下させた。
四十分ほどで熊本市内に着くと、立体駐車場に車を停め夜の街を歩いた。