一、③
四畳のたたみ部屋に座ると、西は二人をじっと見つめ、やがて目を閉じた。
それから、ふーと息を吐くと沈黙した。
十川の表情も固い。
末崎がそっとお茶を運び置くと、そそくさと去って行った。
「おっ、気が利くね」
西は目を開け、後姿の彼女に一声かけると、お茶を一気にがぶ飲みした。
「十川には、さっき言った事なんだが・・・」
西はぐぐっと上半身を前のめりにさせ、
「会社がヤバい・・・」
と、小さく呟いた。
「えっ!」
寝耳に水の隼人は絶句した。
西は頭を掻くと、
「お前たちも、うちの売り上げ業績が下がっているのは分かるだろう。まぁ、最近のお客様の少なさは、身近に感じるところだろうが・・・」
確かに長く続く不況の煽りを受け、お菓子を買いに来る客足は鈍い。
毎日の売上伝票を見ても、ほとんどノルマが達成されない日がほとんどだ。
それでも、二人は他店に比べればこの山鹿店は、お客様の減少は最小減に抑えている店だということを自負している。
「下手すりゃ、倒産・・・業務縮小、助けてくれるところがあれば合併といったところだ・・・おい、城戸」
「はい」
西は心を鬼にして言う。
「お前は、今、かなりヤバい立場にある、何故か分かるな?」
「・・・はい」
(大卒で実力に見合わず、高給取りってとこか・・・)
隼人はそう判断した。
西は、つとめて明るい口調で、
「そこで・・・チャンスがある。一発逆転の企画を考えろ、結果を残せば未来は開ける・・・駄目な場合は」
後ろの方は重い口調となる。
「・・・ク、クビですか」
「まぁ、そういう事もありえるということだ」
「・・・・・・」
顔面蒼白となった隼人に、西は背中をバンと叩くと、
「お前は顔に似合わず努力家だ。為せば成る。雨粒でも石を穿つんだ」
「雨粒で石を割るほど困難なことなんですか?」
隼人は西の言葉から、かなりの状況下に置かれていることを感じた。
コホンと咳払いをした西は、
「それはお前のがんばり次第だ。十川、城戸のサポート頼むな!」
と言い残し、西はお茶を濁すかのように、そそくさと山鹿店を後にした。