六、③
その後、店内でパートやバイトの人達を集めて、ささやかな宴会を開いた。
一足先に会社全体の送別会は終わっていて、山鹿店のメンバーで行う小さな会だ。
早出勤だった十川が買ってきた総菜やお酒を持って来ると、売れ残りのケーキやお菓子を休憩室に運び、テレビで紅白歌合戦を見ながら、しみじみ思い出にふけながら盛りあがる。
ケーキを夢中でパクついていたバイトの女の子が、おもむろに、
「城戸さん、今日までなんですか」
「そうだよ」
「再就職のアテはあるんですか?」
「いや、急だったから・・・まだだけど」
「わぁープー太郎だぁ」
「悪かったな」
隼人はムッスリと紙コップに注がれたビールを飲み干した。
「はい、どうぞ、お疲れさまでした」
十川は微笑みながら、彼の空のコップにビールを注いでくれた。
隼人は酔いが回る前にと、姿勢を正し正座になると、彼女に頭をさげた。
「店長。今まで、ありがとうございました」
本当に感謝を込めて言う。
女の子は「店長、年下なのに~」と茶化すが、瞬間、十川が大粒の涙を流しはじめると、パートの末崎もつられて泣いてしまい、女の子まで泣きはじめる。
その場はしんみりとなってしまった。
やがて紅白が終わると宴会を切り上げ、皆は名残惜しそうに店を後にした。
隼人も最後となる店の閉締まりを確認すると、鍵を十川に手渡した。
「じゃあ、後、頼みます」
十川はぐっと右腕を曲げて見せると、
「まかせといて、私もあと数日だけど、最後まで頑張るわ」
そう言うと、十川は右手を隼人の前に差し出す。
彼は、はにかみながら彼女と力強い握手を交わし別れた。