六、急転直下 ①
12月の上旬、街中の街路樹の葉も、わずかばかりとなり、クリスマスイルミネーションが輝きはじめるある日、会社は不渡りを起こして倒産した。
今後、肥後製菓堂は、かろうじて創業者の血縁関係と数名の社員で最終的に再出発していくことになった。
菓子製造員、販売員、従業員のほとんどは12月いっぱいまでの勤務、店は本店のみ残して閉店となり、数名が残りの残務処理をすることになっている。
問答無用で、職を失うことになった一部の社員は、退職金もでないとあって社長宅に抗議する者もいた。
が、そんなことをしてもどうにもならず、せめてもの年末のボーナスがいわば退職金がわりという有様だった。
隼人はその一報を聞いたとき、にわかに信じられなかった。
目の前に起きた失職という現実から逃避したい気持ちもあるが、休憩所には「情緒桜城」の宣伝ポスターやPOPが大量に置かれている。
数日前に、バンで宣材を運んできた西が、隼人の首に腕を回し「こいつで、頑張ろうぜっ、なっ!」と言った言葉が、頭に焼き付いている。
山鹿店に倒産の一報が届けられたのは、本社からのFAXだった。
はじめはタチの悪い冗談だろうと十川と話していた。
が、時間が経つにつれて、話が現実味を帯びてくる。
菓子配送トラックのおっちゃんが、どうやら本当らしいという話を聞き、他店からも「本当か?」という電話があり、極めつけは十川と仲の良い本社勤務の事務の女の子が、半ドンで休憩室にやって来て、こと細かに喋り倒したため、事実と認識するしかなかった。
お客もいなくて、店内で一人レジに立つ隼人にも丸聞こえした。
それほど、彼等にとっては寝耳に水な話だった。
会社が不渡りを起こし、倒産したこの日に、西が責任を取って会社を辞めたのを、隼人は西からメールで知った。
「今日、退職しました。力及ばず、すまない。頑張れ!」
そう書かれていた。
隼人は携帯を握りしめ、天井を仰いだ。
慌ただしく短い失職までの日々がはじまった。




