紅1点
会場の中は青紐のIDカードケースを下げた人しかいなかった。道中考え事をしていたため途中の様子はわからないがおそらくは会場が違うのだろう。青い紐の自分は地図に青色で示されていた。ならば赤い紐の人は赤色で示されているのだろうか。人数の関係かはたまた別の理由があるのか。
そうえいばさっきの親切な人はどちらの色だったのだろう。そんなことが一瞬頭をよぎったがすぐに気にならなくなった。どうせ何百万何千万といるうちの一人だ。向こう方もすぐに忘れるだろう。
「ただいまより契約者説明会を行います。」
そんな御大層な名前だったのか。アステの言葉はほとんど日本語と同じため理解できるが、読むのは少しわからない部分もある。特に公的機関から送られてくる文章は堅苦しい用語がつらつらと書いてあるため読めない。当然読めなければ調べることもできない。
だから楓は今回の招集目的はなんとなくわかったが細かいことまではわかっていなかった。
「まず質問のある方はいらっしゃいますか?」
普通質問は全体の最後にしめとしてやるものではないだろうか。アステの文化がそういうものなのか、それともこの先は質問禁止なのか。
「では前列の47042の方」
「先ほどからリングにいくら話掛けても応答がないのですが。」
「次。47652の方」
一問一答ではなくまとめて返すつもりなのだろうか
「このIDは何か意味があるのでしょうか。」
「他に質問がある方は?」
「それでは質問の時間は以上とさせていただきます。」
「まずリングに関してですかこちらの施設の中では使用することができません。緊急の場合は係員にお声掛けください。次に皆様のIDにつていは私の一存では説明することができません。詳しく知りたい方は政府機関のほうへ直接お問い合わせください。」
意外だ。もっと下でに出るものだと思っていたがこれが普通なのだろうか。日本人が無駄に腰が低いだけか。それにしてもこの先質問ができないということはよっぽどの極秘事項かこのまま検査でもするのか。
「では電子機器をお持ちの方はこれからまわってくる係員に電源が切ってあることを御呈示いただくか電子機器を係員に直接預けてください。」
楓は現状使える電子機器はタブレットしか持っていない。
預けると何をされるかわからないから電源を切る。ついでに心臓となるところを取り外して(もちろん楓がかってに改造した)係員に見せる。
見た目で不審な顔をされてもいいように封筒はわざとわかりやすく出しておく。
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身体検査と運動、その他諸々の測定を終わらせた後、楓は会場に戻ってきた。
他の人は先に帰っているため広い会場には楓しかいない。
いかにも偉い人が入ってくる。
いつでも動けるように、自然体ででも足には力をためる。入り口から自分までの距離は10m、偉そうな人との距離は7m。横をすり抜けるのはできなくても逃げれるだろう。もしつかまれても傘を広げれば多少の時価稼ぎと目くらましにはなるはずだ。リュックも持ち手が長くショルダー型である上に見た目より重量があるため振り回せばそれなりの被害は出る。
どんな状況で自分が危険な状態になってもいいように常に武器になりそうなもの、少なくとも逃げ出せるだけのものは携帯している。
日本では治安の悪さに定評がある場所に住んでいた。自分の身は自分で守らなければならない。いざとなったとき他人は自分を助けてくれない。自分自身を守るだけで精一杯なのだから。
「そんなに構えなくてもいい。楽にしてくれるとこちらも話がしやすいのだが。なにも君を取って食べるわけではない。」
案外砕けた口調だ。敵意も感じられない。
「私に用ですか?他の方々ならもうここにはいませんが。」
頼むから厄介事に巻き込まないでくれ。
「うん。君は西本楓、高校2年生。日本からの留学生で合っているかな?」
「はい。」
「じゃあいまから別の部屋に移動するからスマートフォンとリングを持ってきてくれないかな。」
「わかりました。」
偉い人なら"お付きの人"がいてもおかしくはないがこの人は1人で来た。警戒心を解くためかそれともそこに割く人員がないのか。
「今から行く部屋ではそのリングに関する説明をするからね。他の人にはもうしてあるんだけど君には直接言ったほうがいいと思ってね。係がする説明は難しい言葉や用語だらけだから。アステにしかない言葉もあるし。」
「なぜ.....。いえ、何でもありません。」
父親が娘に話しかけるような口調だった。柔らかくて、落ち着く。
アステに来てからの会話でこんなに優しい話し方があっただろうか?
見た目でも少しわかる"外国"
少しばかり日本語なまりのイントネーション
無柄かワンポイント程度が好まれるアステでは生産していないような持ち物
どこへ行ってもどれもが人目を引いた。常に好奇な目で見られた。
「私も娘が留学していてね、こんな状況だから戻ってこれないんだよ。」
自分とまるっきり一緒だ。ただ、向こうは
「だから君のことも少しは理解しているつもりでね。ささいなことでもかわない。私的な用事だっていい。何かあったら私を頼ってほしい。」
無理だ。あってすぐの人を信用できるわけがない。容易に人を信じてはいけない。
結局人間なんて利己的な生物だ。
「今はまだ無理かもしれないが。その警戒心が少しでも消えたらで構わないから。」
「...わかりました。」
少しだけ、哀愁を感じた。
日本の機械は基本アステでも使えます。




