頼み
「もう引退したんだ。今はそこまで強くない」
「うっそだー!この町もメルクがつくったんでしょ?」
「それぐらいは今でもできる」
「町をつくった…?」
「ああ、メルクは大樹の魔法、木を操る魔法が使えるんだ」
町をつくった…?
さすが元13位。
今でも十分強いでしょ。
「それで何しに来たんだ?」
「顔を見に来ただけだよ?元気そうでよかった!」
「冒険者1位がわざわざ顔を、ね。まだ旅をしているのか?」
「しているよ!ユウジたちとね!」
「そうか…。ひとつ、頼みを聞いてくれないか?」
「出来ることなら聞くよ?」
「一緒に連れて行ってやってほしいやつがいるんだ」
おっと新しい仲間ですか?
まあ増えることはうれしいからいいけど。
一体どんな人なんだろう?
エルフってことだけは俺でもわかるぞ。
「僕は構わないけど…」
「俺も構わないよ。人が多い方が楽しいし」
「ありがとう。そいつはこの木の下にある書物庫にいる」
「わかった!じゃあさっそく行ってみよう!」
木の下へ。
キャリアちゃんとアリアちゃんは普通に飛び降りたんだけど。
俺とリリアちゃんはもちろん魔法で。
この高さから落ちたら骨折はするぞ、普通。
「ここ、だよね?」
「そうだと思うけど…」
「苔が生えてますよ?」
木の中を掘ってつくった部屋。
でも周りには苔が生えている。
放置し過ぎじゃない?気にならないのかな?
とりあえず入ってみよう。
「しつれいしまーす…」
「だ、誰ですか…?」
「メルクに頼まれて来たキャリアだよ!きみは?」
「ミミって言います…。パパから…?」
「旅に出るように頼まれたんだ」
「というより、今パパって言った…?」
「うん。メルクリウスは私のパパ、お父さんです」
「あのメルクに子供なんていたんだー!知らなかった!」
いつあったかは分からないけどこの子、俺と同い年ぐらいだ。
文学系の美少女、図書館の天使みたい。
もしかして冒険者をやめた理由ってこの子だったんじゃ…。
「や、やっぱ嫌です!私はここに残ります!!」
「え?メルクリウスさんが言ったからてっきり納得してくれてるかと…」
「どうする?いったん戻る?」
「そうしましょう。無理に連れて行くのも悪いですし」
いったん上に戻ることになった。
旅に行くことになっとくしていると思ったから何も言わなかったけど、しっかり聞いてからにするべきだったな。
「メルク!どういうことなの?」
「やっぱり拒否したか?」
「そうだよ!乗り気かと思ったらだめだったよ!」
「やはり嫌がったか…」
「先に言ってよ!!」
聞かなかった俺たちも悪いけどな。
「それでも娘、ミミを連れて行ってほしい。ここに置いておくにはおしいんだ」
「どういうことなんですか?」
「私の魔法、大樹の魔法についてどれぐらいしっている?」
「いえ、まったく。初めて聞いたぐらい」
「そ、そうか。そもそも知らない人は初めてだ」
仕方ないじゃないか。
きてまだ間もないから。
でもエルフは弓のほうがイメージ強かった。
魔法もあるけど、大体多色多様。
これという魔法のイメージはなかった。
「この魔法はエルフなら大体使える。ただ私のように木、そのものを曲げたり動かしたりするのは修行を重ねないとまずできないんだ」
「普通だとどれぐらい?」
「大体ツルを伸ばして攻撃するぐらいだよ!何回も見たから大体そんなもんだった!」
「そうだ。私のように使えるのもエルフの歴史でも数えられる程度しかいない。そんな魔法を娘は10歳の時に使えている」
「それって…」
「異常すぎる、どころではない。他の魔法の才もあったんだ。ここに置いておくにはもったいなさ過ぎる」
またチート級ですか?
狼倒せていた自分が少し恥ずかしくなってくるよ。
「だから連れて行ってほしいんだ」
「でもすぐには無理そうだよ?」
「それならここにいるといい。もちろんそれなりの用意をする」
「あの!一つ聞きたいんですが」
「なんだ?あまり無理ではない範囲なら答えよう」
「おにぎり、お米はありますか?」
そうだ!
お米を目指していたのに寄り道をしてしまっている。
「ああ、米ならあるぞ。この町でも人気でつくっている。たまに商人に売ったりもしている。米が好きなのか?」
「はい!!」
「なら存分に用意しよう」
よっしゃああ!!
これで一つ目の目標達成だ!
ようやくお米を、食べれる!
俺たちはメルクリウスさんの提案に了承し、しばらく滞在することに。
部屋を出て、何をしようか迷っていた。
「それじゃあどうしようか?」
「もう1回会ってみる?打ち明け合ったほうがよさそうだけど」
「うーん、そもそも嫌がるのを無理やり連れて行くのもなあ…」
そう、無理矢理連れて行くのはどうも気が引ける。
本人が嫌ならやめておきたいんだけど。
「さっき旅の本を読んでいた」
「旅の本?アリアちゃん、もっと詳しく」
「あれは『ララリアの冒険』昔からある物語」
「私も知っています。お父様に昔、読んでもらったことあります」
「僕は聞いたことがある程度だね」
「それじゃあもしかしたら…?」
「うん、旅に出たいけど何かあるのかも」
それなら誘ってみてもいいかもしれない。
何か心残りがあるなら解決させればいいんだし。
「がんばってみよう。それでも無理なら諦めるってことで」
「そうですね。何か悩みがあるなら聞いてあげましょう」
「……怒らない?」
「はい。もうあきらめがつきました」
「あ、あははは…」
笑っているけど笑っていないように見えた。
目は確実に笑っていなかったけど。
「……あ」
「ミミちゃん!何しているの?」
「ちょっと、魔法の練習を…」
てっきりあの部屋から出てこないのかと思ってた。
さっきは座っていたから分からなかったけどでかいな…。
約170の俺と目線が同じって、モデル?
モデルですって言われても信じちゃう美人系なんだけど。
いや、童顔だから美少女のほうかな?
「一緒に行っていい?」
「か、構いませんけど…」
「あ!いたいた。キャリアさーん!」
「ん?誰だろう?」
エルフの青年がこちらに走ってきた。
「メルクリウスさんがお部屋の案内をしろと言われまして、皆さんもどうぞ」
「えっと…どうする?」
「じゃあ私たちが行きます」
「ユウジだけで大丈夫なの?」
「ええ。みんなと一緒に旅をできたのもユウジのおかげでしょ?」
「うん。適任だと思う」
「そうだね、わかった!じゃあ頼んだよ!」
そして置いて行かれる俺。
俺は別に構わないけど、権力が下の方な気がする。
一応リーダーのはずなんだけどなあ。
「あ、あの…」
「ごめんごめん、行こうか」
向かった先は俺たちがこの大陸に来た時の崖。
でもなんでこんなところに?
「なんでここまで?」
「えっと、元々森の中で練習していたんですが、森を壊してしまうと怒られてしまって…」
「あぁ、だから海なのか」
「はい。えっと、見ているだけなんですか?」
「最初はそうしているよ。後で俺もやってみる」
せっかくだし試してみよう。
動物相手に練習もどうかと思ったしかと言って人相手だと黒魔術だから怖い。
ここでならそこまで影響は少ないと思うし。
「じゃ、じゃあ。『爆炎連弾』!」
火の球が手のひらからポンと出ると海の上で爆発。
炎と同時にすごい爆発。
これだけですごい威力なのにここからが本番。
爆発したら別の火種が飛び、さらに爆発。
これを繰り返していき、やがて広範囲と広がっていった。
「……わぁ」
「ど、どうでした?やっぱりこれだと弱いですか…?」
「真逆!強すぎるよ!!」
なんで俺の周りはこう、外れているんだ!
それで弱かったらこの世界終わってる!!
「そ、そうなんですか?」
「ほかにもあるの?」
「はい。ここですと大樹の魔法が使えないので別の魔法になりますが…」
「ミミちゃんの好きなのでいいよ」
「で、でしたらこれなんてどうでしょう!『雷神雷光』!」
今度は海に光を当てた。
特に何も起きていない。
そう思ってミミちゃんのほうを見たら上を指した。
だんだん光が当たった上の雲行きが悪くなった。
その後、雷が落ちてきた。
もちろん海に。
その雷に当たった魚たちがぷかぷかと浮かび上がってきた。
「すげぇ…。でもこの魚たちはどうするの?」
「えっと、いつも持って帰っています。そうすればごはんの仕入れが減るからと」
しっかりと食べると。
これだけあればあの町も困らないでしょ。
あ、でもお米があるならやっぱり魚はほしいな。
ちょうどいいね。
いったん戻り、エルフの人を呼んで魚を回収。
荷台にたくさん積むと、先に帰っていった。
「ねえ、旅に出たくないって言っていたけどどうして?」
「旅には、でたいです…」
「俺たちだとだめってこと?」
「そうじゃないんです…。ただ――」
「ただ?」
「怖いんです…。もし本当に本のような生き物がいたらと思うと…」
君なら心配いらないよ、とも言えないよね。
強い仲間もいる。
ここは少しずつ言っていこう。
それでも怖いなら俺たちが諦めればいい。
「俺たちは君の意志を尊重するよ。旅に行きたくなったら一緒に行こう。怖かったらやめればいいんだし」
「わ、わかった。…でもなんでそこまで?旅が好きだから?」
「うーん、まあ理由はいろいろあるけど」
旅にでたかったのもあるし、リリアちゃんが残れないからってのもあるけど。
まあしいて言うなら。
「見たことが無い世界がある、知らない世界がある。俺は元々別の世界にいたんだ」
「別の世界、ですか?」
「そうそう。俺がいた世界はエルフや獣人はいなくて人間しかいなかったんだ」
「そうなんですか…?全然想像できないです…」
「でしょ?俺から言えばこっちの世界は想像できないんだ」
まあ本やゲームがあったりして想像できたけど。
誰でも漫画やゲームの中に入ってみたいと思ったでしょ?
それにまだ見たこともやったことが無いのがあれば知りたいと思う。
今の俺はその状況だ。
「怖くは、ないんですか?」
「もちろん怖いよ。でも知りたい。見てみたい。そっちの気持ちのほうが大きいだけなんだ」
「…なるほど」
「何か聞きたかったらいつでも聞いてよ!それよりほかの魔法使えるの?」
「あ、はい。他には――」
話したら少しだけど明るくなった気がする。
この後も魔法を見せてもらった。
どれもこれも強くて、森の中では使えなさそうな魔法。
「ユウジはどういう魔法を使うの?」
「見てみる?」
「見たみたいです…。ダメですか?」
「別に大丈夫だよ。じゃあいくよ!『暗黒炎』!」
俺も負けずに大きめに打った。
思った以上に大きくなっていた。
俺ってこんなにでかい魔法使えたんだ…。
「黒い炎…。黒魔術ですか?」
「そうだよ。俺はこの魔法しか使えないみたい」
「そ、そうですね。黒魔術を使うと呪いのように他の魔法が使えなくなりますから」
「知ってたんだ」
「はい。とても有名ですので…。他にもありますか?」
「あるよ、『黒氷化』!」
海を凍らせるとまた魚に被害が出ると思うから海の上にはなった。
薄い黒の氷で凍らせていて上を歩くこともできる。
「ほら、こんな風に乗れるよ」
「す、すごいです…!ちょっと試していいですか?」
「ん?別に構わないけど」
「では、『火種』!」
おいおーい!!
俺はまだ氷の上にいるんだぞ!
その崖と氷のつなぎ目に火を当てたら溶けて落ちてしまう!
「あぶな――」
「やっぱり、溶けません」
「え?」
本当だ、全然溶けていない。
少しどころか無傷。
「あ、あれ?こんなに頑丈なんだ」
「黒魔術はどれにおいても比較的に強いです。何が違うんでしょう?魔力の量?他とは違って色があるから?もしくは」
「えーっと、ミミちゃーん?」
「す、すみません!気になっちゃったら調べちゃう癖があるので…」
「ああ、研究熱心ってことね。よかったら持っていく?」
「いいんですか!?」
「うん。ほら」
「ありがとうございます!!」
今日一番の笑顔だ。
研究家だったのか。
だからずっと本の中にいたのかな。
「では戻りましょう!」
「はいはい、行こうか」
早く調べたいようで待ちきれないみたい。
崖にあった氷は俺の意志で消えてくれた。
俺はウキウキのミミちゃんの後姿を見ながら町に戻った。




