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第四章 Ⅷ


 空は雲一つない快晴だった。燦々と陽光の降り注ぐなか、しかし風竜の背に掴まる者達には、吹き過ぎる風が冷たかった。

「うう、これはなかなかに厳しい…」

フード付きマントにくるまりながらも、グラッススは少々歯の根が合わない様だった。

「高度を少し下げようか?」

フラッパが訊ねてくるが。

「いや、高度を下げれば、我々に気付かれかねない」

ネアラは平然と言ってのけた。今、男女三人ずつが二列になり、肩を寄せ合っていた。前方のネアラ達は魔法で風除けしていたが、後方のグラッスス達は、そうはいかなかった。

「だって」

「うう、厳しい…」

グラッススはアポロスとアラドに体を擦られながら、首を縮こまらせた。

「ところでさ、本当にこの付近なの?」

地上を見下ろす。そこは火山地帯だった。小規模な噴煙が遠くに見える。地面は黒みがかった土に覆われ、岩石が散乱している。その中を、一本の道が曲がりくねりながら走っていた。ここに火竜は居ない、という事だったが。

「間違いない。ナシゴラ苔の採取に入った王国軍が襲撃されたのだ。しかも、一人は弓の名手で、長距離から狙い撃ちされたという」

「エアリア、なのだな?」

カレンが念を押す。

「ご明察。全ては間もなく明白となりましょう」

風竜は火山帯目掛け、飛翔した。

 大小様々な噴火口には、未だ噴煙の立ち上っているものも散見されたが、中にはカルデラ湖状になっているものもあった。さすがに水竜は棲息していないだろうが。その一つ、一際高い噴火口に建物があるのを発見し、近付く。標高は六百メートルほど。断崖に寄り添う様に建てられ、下からは発見出来ないだろう。

「あれかな?」

フラッパは、打ち合わせ通りその上で旋回し始めた。そうしていれば、何らかのリアクションがある筈だった。

「早く、降りたいものだな」

グラッススがぼやく。と、不意にけたたましい呼び子の音が、下方から近付いてくるのが聴こえてきた。安堵した表情になる。

「見つけてくれたのだな」

その矢は、フラッパの脇を通り抜け、今度は落下していった。建物からは、優に九十メートルはあるだろう。

「ふむ、腕は衰えていないな」

感心げにネアラは呟いた。

「降りるよ」

フラッパは降下を開始した。

 建物は、平屋で結構な広さがあった。岩壁を上がる為の簡素な階段が設けられ、地上との往来はさほど困難ではないだろう。大きな岩棚の上に林立する支柱の上に丸太を並べた土台を設け、その上に平屋は建てられており、降下して行くと岩棚の上に、十数人の男女が一行を待ち構えていた。その中の一人が進み出る。矢籠を背に強弓を携えた、女性としては長身の部類に入る狩人。革鎧の上からでも、筋肉の発達ぶりが窺える。

「久し振り、フラッパ」

どことなくぎこちない口振りだった。着地したフラッパから、ネアラが降り立つ。

「久しいな、エアリア」

「そう?」

エアリアは、複雑な表情をした。単なる懐かしさでなく、何処か恨めしげな。素っ気ない返答にも、それが表れている様だった。

「ふむ、久し振りだ」

後に続くカレンに声を掛けられ。

「?…ああ、アインリヒトの娘」

「もう少し、物言いというものを考えては貰えないか?」

降りて来るなり、グラッススが顔を顰めた。

「出来うれば、カレンと呼んで欲しいのだが」

カレンが苦笑する。

「そうか、気を付ける」

あっけらかんとした返答。

「お久し振りです、お元気でしたか?」

アポロスも、フラッパから降りるや声を掛けてきた。

「お互い様。ところで、そっちは?」

朧気に記憶がある様な兄妹を指さし、エアリアがネアラに訊ねると。

「余り、接点がなかったか」

「アラドです」

「エレインです」

二人と順に握手をしながら、必死に思い出そうとしている様子のエアリアだった。

「まぁ、ともかく。これで役者は揃った」

「?」

ネアラの言葉の意味が判らないエアリアに代わり、ネアラより十は若いだろう男性が進み出た。

「なぁ、あんた達は、エアリアさんの元仲間だろ?」

「そうだが?」

視線を上下に走らせながら答えるネアラに。

「俺はクーガーって言う。ここの、一応リーダーだ。三年以上、エアリアさんとここで王国軍相手に戦ってきたんだ。あんたら、今更、何しに来たんだ?」

男性の目には、敵意すら宿っていた。

「ああ、心配しなくて良い。我々は、貴方達と合流する為に来たのではない」

ネアラは最初、リーダーの地位を脅かされる事を懸念しているのかと考えていたが。

「違う!あんたら、エアリアさんを連れ出すつもりだろ!?」

「そうだが?」

もちろん、と一つ頷くネアラ。

「待て。私を、ここから連れ出すのか?」

「出来れば。動くべき時が来たのだ、付いて来て欲しいのだが」

エアリアの表情が一変した。双眸に、殺意が宿る。

「…それは、オイラントを殺す為か?」

豹変の理由を知るネアラが、どう返答すべきか迷っていると。

「待ってくれ!エアリアさんは俺達にとって、重要な人なんだ!それを連れて行かれたら」

「うるさい」

決して大きくも、厳しくもないエアリアの一言に、クーガーは狼狽した様に口を閉じた。

「どう?」

「…全て、上手くゆけば、いずれそうなるだろう」

「私は、奴をこの弓で射殺せるのか、と訊ねている」

弓を突き出し、詰め寄るエアリア。

「エアリアさん、それは」

間に割って入ろうとしたアポロスを、ネアラは制止した。

「…少し、話がしたい。この場を借りたいが、どうか?」

クーガーへと視線を向けると。

「ああ、こちらにも言いたい事が」

「エアリアと、私達だけで、話がしたいのだが」

言葉を被せる様に、ネアラは言った。

「いや、ちょっと待ってくれ!何で我々が」

「お願い」

エアリアのその一言で、クーガーは不承不承、という風に引き下がった。彼女がこうして言葉を口にしているうちに引き下がった方が身の為、という事を、彼らは身をもって知っていたから。彼女が無言のまま、どれ程の敵を射貫いてきた事か。酒に酔い、絡んできた仲間を、無言で投げ飛ばした事もあった。クーガーは振り返り、仲間達に建物へ戻るよう仕草で示す。ネアラ達を残して梯子を登り、建物の中へ姿を消していった。

「さぁ、答えを」

「その前に、皆で車座にならぬか?皆で話をしたいのだ」

ネアラの意図を計りかねながらも、きっと重要な意味があるのだろうと動き出した。

「ああ、フラッパはそこに」

自分は無関係だろうと、飛び立とうとした風竜に、ネアラは湖面側を指定した。

「え、僕も?」

「もちろんだ。大切な仲間なのだから」

「ふぅん…」

フラッパはその場に留まったのだった。

 一行が岩棚の上に車座になると、ネアラは一同を見回し話し出した。

「まず、これまで私は、自分が何を成そうとしているか、明確に説明しては来なかった。こうして全員が揃うまで、控えていたのだ。もちろん、各自が推察していた事だろうが、ここで明確にしておこうと思う。私は、王国の現体制を打倒しようと考えている。より正確に言うなら、火竜兵団とやらをもって連合との決戦に臨もうとする、摂政以下主戦派の面々の排除、及び牢に繋がれたかつての同胞、主君に近き方達の救出だ。非常な困難が伴うと思われるが、かつての仲間達より助力を得れば、不可能ではないと思うが?」

ゆっくり周囲を見回す。皆が一様に頷き返してくる。

「結構。では、具体的な作戦行動に触れる前に一つ、しておかねばならぬ事がある」

「何ですか、それは?」

アポロスが興味深げに訊ねてくる。

「うむ。各々が胸に抱えているものを、全て吐き出して欲しい」

「なぜ、それを?」

今度はグラッスス。

「我々が大事に臨む為には、意志を合一させる必要がある。その障害となる様な胸のつかえ、しこり等を排除したい。各々が抱える思い、考え、疑問等を、この場で共有し、話し合い、共に考えたいのだ」

どうか、と再び周囲を見回すが、困惑した様に視線を彷徨わせる者多数、だった。こんな事を口にして良いのか、批判、否定されるのではないか、といった様な。ネアラは小さく溜息をついた。

「…そうか。では、フラッパ。お前に一言、言いたい事があるのだが」

「え、僕!?」

突然の振りに、フラッパはギョッ、となった風だった。

「ふむ。ランスルでの救出作戦の際、突入の時機が遅れたな?私が魔法で防いだから良かったが、最悪の場合、二人は死んでいたぞ?」

「いや、そう言うけどさ。あの火炎の中に飛び込んでくの、恐いよ」

「説明した筈だが?お前の纏う風ならば、数瞬は火炎に耐えられる筈と」

「筈じゃ、無理だよ。火竜の怖さを、目の当たりにした事あるし…」

「そうです、ネアラ師。彼は、火の魔法でも痛い目に遭いました」

「どうか、責めないであげて下さい」

アラドとエレインが援護に回ると。急にネアラは愉快そうに笑い出した。

「はははは、それで良いのだ!ようやく話に加わったな!?」

「何なの?僕、この為に責められたの?」

ふて腐れた様にフラッパが言う。

「いや、済まぬ。こうして、色々と話し合おうではないか!?」

ただこれだけの遣り取りで、一気に空気が変わる。岩棚の上に、微笑の花冠が現れた。しかし、ただ一人、その流れに逆行したのはエアリアだった。

「まず私の質問に答えるべき!オイラントをどうする!?」

「…済まないが、彼には裁きを受けて貰わねばならない。我らが主君を謀殺した罪を、明らかにせねば」

「ならば、裁きの後なら良い!?」

「死罪となれば、な」

「待てない!貴女の弟子だから、助けるつもり!?」

「我が不肖の弟子なればこそ、これを行うのだ。不始末の処理は、師である私の務め」

「信じられない!」

「信じて欲しい」

二人の様子を眺めていたフラッパは、不意に右隣のアポロスへ顔を寄せた。

「あの、何で、エアリアさんて、あんなにオイラントさんを殺したがってるの?知ってます?」

「ええ…レビンさんを、ご存知ですね?」

「はい。オイラントさんの魔法で…まさか」

「二人は、将来を誓い合った仲でした。レビンさんの故郷で暮らす話も、していたそうです」

アポロスの横顔に陰が差す。なるほど、とフラッパは前に向き直った。

「あくまで我々は公明正大でなければならない。そうでなければ、政変による混乱」

「ネアラさん、良いですか?」

アポロスに言葉を遮られ、ネアラが鋭い視線を向ける。

「何か?」

しかしアポロスは答えずに。

「まずはエアリアさん、謝らせて下さい。あの時、私は彼を守る事ができなかったのですから。ウッズマンさんも守れず、オイラントさんを逃し、全く良い所無しでした。今思い返しても、自分の不甲斐なさに腹が立ちますが、まずは。本当に、申し訳ありませんでした!」

居住まいを正し、深々と頭を下げる。エアリアの頭に上った血が、見る間に引いていった。

「いや、貴方の責任などと、思った事はない…」

少し戸惑っていると。頃合いを見計らってか、頭を上げた。

「彼、オイラントさんが何をしたか、私達は知っています。ですが、なぜしたのかは知りません。知りたいと、思いませんか?」

優しい口調で訴えかけ続ける。エアリアは言葉を失った。

「私達はあの時、アインリヒト領には戻らない、と誓い合いました。それは何故だったでしょうか?伯爵の一団が、味方に攻撃された事実を知る私達が戻れば、必ず私兵団の仲間や領民に迷惑が掛かる、と判っていたからです。しかしやっと、戻るべき時がやって来ました。私達は全て話し、全て知って貰うべき時が来たのだと思いますよ。そうだとは、思いませんか?」

もはやエアリアには、静かに頷くより選択肢は無かった。彼の圧勝だった。

「そうですか、何よりです」

「そうだったの、ですか…」

アラドが、溜息の様に呟く。ウッズマン達がどうなったかの概要は聞かされていたが、彼らが戻らなかった理由を、兄妹は今初めて知ったのだった。どうぞ、とばかりにアポロスはネアラを見た。

「ふむ…エアリア、良いかな?」

「…」

渋々、頷く。ネアラも頷き返す。

「ところで、ふと思ったのですが。私が何故ランスルに居ると、判ったのでしょうか?」

本当に、不意に思い付いた様にアポロスはネアラに訊ねた。

「簡単な事。教団本部に赴き問い合わせたところ、ランスルに向かった、と言われた。処刑の儀礼を執り行う為に。そこでフラッパで先回りし、小鳥で見張っていた、という訳だ」

「なるほど。では、私を連れ出す為に処刑を利用したと?」

「それもある。が、第一は処刑を大失敗させる事にあった」

「ネアラ師は、私達が処刑されるとご存知だったのでしょうか?」

エレノアの問いに。

「それを知ったのは、処刑場でだが。誰であろうと救出するのは計画のうちだったのだ。大失敗は噂となって、広く人々の口に上る事となるだろうからな」

「噂が重要なのでしょうか?」

「ふむ。少なくとも、私の計画に役立つ筈だ。火竜兵団など、所詮は張り子の虎だ、とな」

「ふ。未だ顕著な活動実績もなく、安全圏内でさえ、あの体たらくではな」

グラッススが呟くと。

「だからこそ、摂政達は国民の前で誇示せねばならぬ。火竜兵団の威容を、恐ろしさを」

「それが狙い、という事ですね?」

「そうだ、エレノア。重要な、な」

ネアラの瞳が煌めいた様な気がした。

「…ところで、この場ですから申し上げますが。気に掛かる事が…」

「ほう、何か?」

「実は、兄が、仲間の中に裏切者が居るのでは、と」

「そうなのです。考えたくはないのですが、私達が捕縛された経緯を思い返せば、その可能性が高い、としか」

アラドが身を乗り出してくる。

「ほう?その根拠は?」

「はい。二年ほど前から、私達は若手と共に十名余りで、とある農場に匿われていました。農場主はもちろん、家族の方々も事情を承知の上で、本当に良くして頂きました。エンダー様の旧知という事で、そこで力を蓄え、時が来れば決起に合流すべし、というお考えでした。農夫として働きながら武技や戦術を鍛錬、研究する、という日々が続きました。穏やかながらも、私達は警戒を怠りはしませんでした。街からはそれなりに離れており、通信手段は限られます。周囲を誰か探っていたとしても、直ぐに気付くでしょう。街に農場の者が誰か出るとしても、私達の誰かが同行するので、万が一、不審な行動を取っても気付く筈です」

「ふむ、それで?」

「私達はたゆまぬ努力を怠りませんでした。しかし…ゴーン率いる王室特務隊の一支隊から急襲を受け、全員が捕縛されてしまったのです!心苦しいのですが、私には、仲間に裏切者が居るとしか…」

唇を噛むアラド。エレインがそっとその左手を両手で包み込む。アラドは握り返した。

「なるほど…それは、確認せねばならんな、事を起こす前に。我らの事も漏れてはかなわぬ」

「…貴君らは二年間、その農場に留まっていた訳だな?」

考え深げに、グラッススが問いを発した。

「そうですが?」

「つまり、二年間、君達の居場所は漏れなかったと考えて良い。そうなると…ところで、確か、今はコールマン殿とエンダー殿の陣営に分かれて活動していると?」

「そうです。伝令の往来等はありますが」

「となると。情報が漏れたのは、コールマン殿の陣営、という事になるか。何らかの理由で、エンダー側が二年間、情報を漏らすのを控えた可能性は…まぁ、低いだろう。その理由が判らん」

「コールマンか…ふむ…フラッパよ」

ネアラに急に呼ばれ、フラッパは首をもたげた。

「何?」

「もしかすると、お前の力が必要となるかも知れぬ。手伝ってくれるか?」

「僕に出来る事ならね」

「お前以外、出来ぬ事だ。後で説明する。他に、何か話しておきたい者は?」

「あの、私の立場なのですが…」

アポロスがおずおず、と切り出した。

「何か、気掛かりでも?」

「いえ、私は今、ランスルから消息不明、という事になっているのですが。この一件には同行致しますが、その後はどうすれば良いのでしょうか?」

「計画が成功し、生きていたら説明に本部なり何なりへ同行するつもりでいるが。失敗しても、逃げ延びられたならば、申し開きは可能な筈。人波に呑まれ、場所を見失った、とでも」

「そうですか。ぜひ生還したいものですが。それと同時に、私は人を殺傷する事を好みません。可能な限り避けたいと考えています。宜しいですね?」

「それは…しかし、恐らくは戦いになるだろう」

「たとえ敵であろうと、私は殺生を好みません。自衛程度ならばまだしも。まして今回は、同じ王国民同士ではありませんか」

「そうだが…ならばどうする?治療に専念するか?到底そんな余裕があるとも思えぬが」

「戦いが嫌なら、来なければ良い」

エアリアが斬って捨てる。

「…ならば、祝福を活用するのは?戦意を奪う事が出来ると思うが?」

グラッススが提案する。アポロスは、私兵団内で不安や恐怖心、罪悪感や異様な興奮等といった情緒不安定を示す者達に、祝福によるケアも行っていたのだった。

「容易く祝福を口にしないで下さいませんか?あれは一時、仮初めの幸福感を与えるに過ぎないものです。真の幸福は、当人の意志と努力でのみ得られるもの。出来れば余り使いたくはないのです。まして戦いになど」

「でもさ、仮初めでも幸福感に浸ってるうちに戦いが終わってたのなら、本当の幸福だと思うけど?」

フラッパの発言に、アポロスはギョッ、となった。

「いえ、それは」

「それにさ、そういう戦い方って、僕達の正当性の証明になると思うよ?火竜を使って脅しつけて、一部の人間が得をしようっていうのと、誰も傷付けずに平和の道を探そうとするのと、人はどっちの話を聞くかな?」

「それは」

「大体さ、たとえ仮初めだって、そこから本当の幸福を得るきっかけになりうるでしょ?例えば自殺したいと思ってる人が、祝福を受けて前向きに生きてゆける様になるかも知れないし」

「それは、そうなのですが…」

「本当とか仮初めとか、こう考えれば拘る必要なんかあるのかな?」

「…そう、ですね」

知らず、アポロスの頬を涙が一筋、伝い落ちた。用いるのは司祭としての務めと思いながら、自分の力は、本当は人の為になっていないのではないか、と心の片隅にいつも疑問が蟠っていた。それが今、淡雪の如く消えて行く。

「貴方の戦い方は、貴方に一任しよう。それで良いか?」

涙を拭いながら、アポロスは頷いた。

「他に何か、ある者は?」

ネアラが問うと、カレンが口を開いた。

「実は、皆が揃った所で訊ねておきたい事があったのだが」

「何なりと」

「ふむ。父上は何故、僅かな部下と共に、王国軍の救援に向かったか、という事だ。私は未だ幼く、良く理解出来なかったのだが」

「その事ですか。私達も、閣下よりお聞きした程度の事しか存じ上げないのですが。どうやら、現摂政のゾルダンスが、やはり連合との和睦など不可能、と騒ぎ立てた様でして」

「当時、主戦派の主だった者は中央から遠ざけられておりまして、ゾルダンスが如き、当時決して高い地位にはなかった者が、主戦派としてそれ相応の発言力を持っておりました」

グラッススが補足する。ネアラは彼へと頷き掛けた。

「連合とて盤石な一枚岩、という訳ではなく、当時の風潮に反発する者達の暴発、と閣下は考えておられました。無用の戦いを避けるべく、同行する部下の人数も抑え、閣下は説得されるおつもりだったのでしょう」

「ところが、全ては父上を陥れる為の嘘だった…」

震えるカレンの握り拳が、岩棚を叩く。

「さて、あの王国軍の隊長、何と言ったか…確か…」

「アイスブレイク、だったか?」

と、グラッススとネアラの会話に、アラドが割って入った。

「アイスブレイク!?王室特務隊の総長ですか?」

「ふむ。丁度良い、この者も裁きの場に引き摺り出すとしよう。味方を陥れた罪を問う為にも。さて、これで話は出尽くしたか?」

ネアラは一同を見回したが、誰からも発言はない。

「結構。では、本題に入るとしよう」

そう前置きし、ネアラは胸の中で温めてきた計画を詳らかにすると、意見を求めた。夜が更けるまで、話合いは続いたのだった。


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