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第三章 Ⅲ


 満面の笑みと共にコールマンはスッ、と立ち上がった。執務机を回り込み、前で跪いている数人の男女の前に屈む。長身で、それでも見下ろす様な格好になった。

「今はただ、生きて戻った事を喜ぼう。他の同胞達は、エンダーの所へ向かったのだな?」

一人の男性の肩に手を掛け問うと。

「アラド殿の指示で。問題なければ、今頃は」

「そうか。アラド達は?向こうへ向かったのか?」

「いえ、それが…」

視線を交す男女に。

「?何なのだ?」

「それが…」

男性は、自分達が脱出出来た経緯について、かいつまんで話した。

「何と!フラッパが!?それではネアラも行動を共に!?」

驚嘆と共に瞠目するコールマンに。

「いえ。風竜のみ確認致しました。ネアラ師は、我々の前に姿を現わさなかったので。そこでアラド殿とエレイン殿は、その後を追って別行動に」

「何っ!?危険な事を!この度は帰還を最優先すべきだった筈だ!」

「はぁ。ですが、ネアラ師と再会出来る可能性があると」

「ネアラなど放っておけば良い!グラッススといい、あの者達はウッズマン閣下を救出すると言いながら逃亡したのだ!口にするのも憚られる裏切者ではないか!?もはや亡き者達と心得よ!」

よほど腹に据えかねていたのか、攻撃的な口調だった。

「はぁ。それと、アラド殿が、我々の中に裏切者の居る可能性があると」

「何!?気でも触れたか!?それが本当ならば、我々はとうの昔に処刑台に立っている筈ではないか!?」

「それは、そうかも知れませんが…」

「所詮は未熟なまま人の上に立つ立場となり、余計な知恵を付けただけの若者よ。その程度の事も理解出来ておらん!」

「しかし」

「ええい、この話はこれで終りだ、良いな!?」

「はっ!」

男女は頭を下げた。頑ななコールマンの態度に、多少の違和感を覚えながらも。

「うむ…ともかく、良く無事に戻って来た。ゆっくりと体を休めるが良い。食事の用意もあろう」

不意に笑顔を作りコールマンが立ち上がると、男女とも立ち上がる。警備の者の後に続き、退室して行った。扉が閉じるまで、コールマンは見送った。

「…」

コールマンの表情が一変した。笑顔から、無表情へ。赤みがかった短髪と同様、短く切り揃えた顎髭を暫く弄び、やがて執務机へとって返す。引き出しから便箋と封筒を取り出す。便箋に何事かを認めると、四つ折りにし封筒に収めた。無紋の蝋封をすると、扉の前に立っている筈の護衛を呼んだのだった。


 数日間、フラッパは夜な夜なネアラと会いに、廃墟から草原にやって来た。ネアラは余り家を空けられないからと、一時間余りで帰って行った。会話が出来る様になったといっても、昔話をポツリポツリ、話す程度だったが、フラッパは彼女達と自分が、消息不明となったウッズマン達の探索救出のため私兵団を離れてからの記憶を思い出した。それは、ネアラにとって痛恨の記憶だった。

 私兵団を離れ、ウッズマン達が向かった地域を目指した一行だったが、敵がまだウッズマン達を捜索している可能性もあり、一旦身を隠し、フラッパの力で鳥と同調、探索する事にした。前フラッパは、餌こそ取ってこさせた事は無くても、同調はしていたのだった。それはともかく。意外と簡単に、ウッズマン達は発見出来た。数人で、岩場に隠れていたのだった。周囲に敵影が無いのを確認すると日没後、接触する事になった。

 フラッパ達の出現を、ウッズマン達は驚き、次には感激して迎えた。数十騎で出立した一行は、数騎にまで減っていた。敵との戦いの激しさに思いを馳せると、ウッズマンは意外な発言をした。自分達は、味方から攻撃を受けたのだ、と。王国軍現地部隊の前線司令部へ向かう途中、その一部隊と遭遇したが、彼らは様子が変で、自分達を別の場所へ誘導しようとした。ウッズマンが、ともかく現在の司令官と話をしなければならないというと、彼らは豹変した。面倒臭いと、武器を向けてきたのだった。自分達が罠に掛けられた事を、ウッズマン達は悟った。戦闘状態になり、窮地を脱出する事には成功したが、土地勘のない地域で執拗な捜索を受け、発見されては戦い、逃げるという事を繰り返していたと。一行はひとまず一夜をこの地で明かし、夜明け早々に出立する事にした。脱出経路を確認したネアラ達は、オイラントを見張り役として、安息の一夜を過ごした。彼は自らその役を買って出たのだった。

 翌朝、一行は脱出行を開始した。フラッパの先導で、見通しの悪い道を行く。途中、長い吊り橋があった。そこを渡れば、貴族の領地であり、容易に追跡は出来ないと思われた。ウッズマン達は下馬し、ネアラ達に見守られながら橋を渡りだした。フラッパ上からネアラ達が下へ注意を向けている隙に一人、独自の動きをしている者に、その時は誰も気付かなかった。半ばまで来た時、ネアラは魔力の発動を感じたという。しかし、その意味に気付くのに遅れた。まさかフラッパの上で、火系列の攻撃魔法を使おうなどとする者が存在すると、夢想だにしていなかったから。しかし、オイラントの放った火炎弾は吊り橋を直撃、ロープに着火させた。振り返れば、弟子は邪悪な笑みに顔を歪め、二発目を放とうとしていた。しかし、それは吊り橋には届かなかった。イケメンのナイスガイ、レビンがそれを身を挺して阻止したから。炎に包まれ、絶叫しながら、彼は川へと落下していった。それを見届け、オイラントは自らフラッパの背から、高笑いと共に中空へと身を躍らせた。風系列の魔法で飛び去る。それを追うより優先すべきは、レビンやウッズマン達の救出だった。数日間捜索したが、ウッズマン達は発見出来なかった。せめてもの救いは、レビンの遺体を回収出来た事だった。ネアラは彼の遺体を故郷に還す役をグラッスス達仲間に任せ、フラッパと共に、弟子の不始末に決着をつけるべくオイラントの後を追ったが…。

「私は、師として失格だ。あの者が、この危険な旅に同行すると志願した時、その真意も見抜けずに喜んだ。研究室に籠ってばかりいては駄目だと、日頃から諭してきたが、ようやく理解してくれたかと、しかし…」

「お弟子さんは、何を研究してたの?」

何気なく、フラッパが訊ねると。

「…私達は、怪我や病気を癒す薬品を主に研究していた」

「回復魔法とか、無いのかな?」

テレビゲームのRPGのノリで訊ねるフラッパに。

「回復?それは、司祭の行う祝福の様なものか?その恩恵に与れる者など、限られている。私達が研究していた鎮痛剤や止血剤、麻酔薬等は、戦場で活躍した。私は、多くの人々を救う事に満足を感じていたが…あれは違った様だ」

「どういう事?」

「…あれは、次第に、人の意識を低下させ、行動を制御する事に興味を示し始めた。治療にかこつけて薬を与え、意識が低下している所にある行動を吹き込み、元に戻るとその行動を吹き込まれた者は実行する。なかなか上手くはゆかなかったが、繰り返すうち成功率は少しずつ上がっていった様だ。しかし…」

不意に言い淀む。その意味をフラッパは図りかねたが、とりあえず深掘りは止めておいた。

「ともかく、私はその事に気付いた。そして、研究を止めるよう忠告した。あれは、それに従った、否、従った振りをした。実際には、軍事利用出来る動物にも応用出来ないかと、より発展させようとしていたのだ。もちろん言葉は通じないが、特定の刺激を与えると、対応する行動を取る様に」

「へぇ?でも、それだったら馬とかでもうやってたんじゃなかったの?」

「もっと強力なものだ。絶対服従させる様な」

「へぇ?だったら、竜とかに使えたら強力だね」

フラッパとしては、軽い冗談のつもりだったが。ネアラの表情が暗くなる。

「正しくそれ。それを、あれはやってのけた。火竜を薬と魔法で操る方法を、確立した」

「ええっ!?」

あの凶暴な火竜を操る方法を探し出した人がいるというのだ。俄には信じ難い話だった。

「私は知らなかった。あの者を追って、旧市街のある建物に侵入し、資料を目にして初めて知った。あの者は、いつの間にか王都内に研究施設を与えられていたのだ!研究を止めさせて以来、私と距離を取る様にはなっていたが、知らぬ間に…そして、そこで行われていたのは、とても恐ろしい研究だったのだ。どの様な状況下にあってもその行動を制御出来るならばともかく、とうていそこまでの完成度とは思えなかった。もし一旦意識が覚醒してしまえば、それまでの反動から、より凶暴になる可能性が高いのだ」

「うわぁ、そういう場面に居合わせたくないなぁ」

「全くだな。そもそも、無理に従わせようとすればそうなる。心を通わせ、対等な立場で信頼関係を築けたなら、そうはならんだろう」

言って、ネアラはジッ、とフラッパの顔を見詰めてくる。視線が交錯した。

「…何?」

人としての意識で言うなら、美人に見詰められ思わず赤面していた事だろう。もっとも、たとえ風竜が頬に当る部位を紅潮させえたとしても、羽根で見える事はないだろうが。

「…フラッパよ。お前は、何をしたら良いか判らないから、私を探しに来た、と言っていたな?」

「そうだね」

「そうか。ならば、私の提案に乗ってみる気はないか?」

「提案?それは、内容次第だけど?」

「もちろんだ…実は、私の手助けをして欲しい」

「手助け?もしかして…危険な事?」

人が風竜に助力を請うというのが、穏便に済むような事とはとても思えなかった。

「そうだな…正直に白状しよう。かなり危険だ」

「かなり、ねぇ…まぁ、危険な目には何度か遭ったけど、それよりもかな?」

「ほう、どの様な?」

「うん。火竜に追いかけられたのが一回と、人に攻撃されたのが一回、かな?まぁ、後者の方は、僕も悪かったけど」

「何をしたのだ?」

「うん、まぁ、ちょっと、ね…ああ、でもそれで、出会えた人達もいたよ」

後半は、とってつけた様な早口になっていた。

「ほう、それは良かったではないか?」

少し意地の悪そうな微笑を浮かべるネアラに。

「うん。だから貴女を捜そうと思った訳だよ。アラドとエレインて兄妹、知ってるよね?」

「ほう、懐かしいな。余り親しく接する機会もなかったが」

「そうなんだ?お兄さんの方は、貴女に特別な感情を持ってたみたいだけど?」

フラッパが笑顔を作った、様な気がした。

「そうなのか?さて、話を元に戻そう。私が行おうとしているのは危険な事だ。四年前に果たせなかった事を、今度こそ成し遂げる」

「それって…」

フラッパには、その意味が即座に理解出来た。ネアラが一つ頷く。

「私は、今の王国を危惧している。摂政ゾルダンスや、我が不肖の弟子オイラントをはじめとする今の王国の支配者達は、目先の私利私欲の為に、政治を恣にしようとしているのだ。火竜の群れなどという、一度制御を失えば恐ろしい惨禍を招きかねない手段に頼り!」

「つまり、政変でも起こすって事?」

「有り体に言えば。しかし、問題がある」

「それは?やろうとしてるのが僕達だけとか?」

「いや、協力者の当てはある。それより大きな問題は、ウッズマン閣下の妻子や盟友が、王城の地下に幽閉されている、という事だ」

「人質取られてるんだ?」

「そうだ。これを救出するのが困難なのだ。かつて一度、かつての仲間達が試み失敗して以来、警戒が更に強化された」

「じゃあ、その協力者が居れば救出出来るの?」

「いや、普通の方法では困難だろう。たとえ、力押しで地下牢に突入出来たとしても、殺害されてしまえば無意味だ。だから、これまで別の方法を考えてきた」

ネアラはその方法を、かいつまんで説明した。

「…ええと、それって、リスク高すぎない?」

大胆と言うべきか、破れかぶれと言うべきか、判断の難しい内容に、ようやくそれだけ答える。

「危険?そうか?ごく普通の発想だと思うが?」

「その、相手の出方がこちらの想定とずれたら、台無しになると思うけど?」

「確かに。お前は本当に賢いな。しかし、その為の工作は進めている。信頼出来る協力者が居れば、成功の可能性は飛躍的に上がるだろう」

「その、その中に、僕は…」

「もちろん含まれるとも。いや、この計画を成功させる鍵は、お前だと言って過言ではないのだ」

「そうなの!?」

「そうだ。済まないが、非常に危ない橋を渡って貰う事になるだろう。だから、一つ良い物を与えよう」

立ち上がると、ネアラはバッグから一つ、金属のメダルを取り出した。表面に、図形と文字らしきものが刻まれている。轡の上顎の革バンドには、小さなカバー付きのポケットが付いており、そこに入れると呪文を低く唱えた。と、フラッパの背筋を、電流が突き抜けた様な感覚があり、仰け反る。

「うわっ、何か来た!?」

「ふむ。それは、お前が新たな力を得た、という事の証しだ」

頭を数度軽く叩くと、後じさる。

「お前の翼は、今や自分の意志で自由に風を生み出せる。翼を広げたまま、自分が浮かび上がる様を思い浮かべるのだ」

両手を広げてみせると、フラッパも主翼と尾翼を広げてみせる。そのまま少し経つと。

「うわっ!」

羽根が風をはらみ、膨らんだ。羽ばたく事なく、あっ、と言う間にフラッパは上昇し始めた。

「お前は今、魔法を使っているのだ。四枚の翼には全ての方向に風を生み出せる。これまでより速く飛ぶ事も可能だ」

「へぇー、うわぁー!」

ネアラの言葉を聞いているのか、フラッパはピッチングやヨーンング、ローリング等を確認し始めた。新たな玩具を与えられた子供の様に嬌声を上げながら。

「魔力はお前の体力を元にしている。余り乱用すれば、疲労してしまうぞ。それくらいにしておいた方が良い」

「そうなんだ」

一度も羽ばたく事なく、フラッパは降りてきた。

「凄いや!これを使えば、空中戦も出来そう!」

「空で…戦う?まぁ、そうだな」

ネアラは苦笑したのだった。


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