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ゲームのルール

作者: 砂虎

「どうやら今日も俺の勝ちのようだぜ爺さん」


場に血塗られた斧のカードが置かれる。

鳴り響くブザー。青年の対面でうつむく老人の敗北が決まった瞬間だった。


「須藤くん、アンタって人は………昨日私がした話を聞いてなかったんですか!!」


「あのなぁ爺さん。1週間もこのゲームに参加していてまだルールが分からないのかい」


ここは四方をコンクリートで囲まれた監獄のような部屋。

勝者の席に出現した豪勢な食事を頬張りながら須藤は右腕を怒りで震わせる老人に呆れ返る。

二人が先ほどまで行っていたのは『サバイバル』と呼ばれる闇のゲームだ。


架空の無人島を舞台にプレイヤーは手札を駆使して勝利条件の達成を目指す。

勝利条件は二つ。プレイヤー全員が協力してイカダを作り島からの脱出に成功する『協力勝利』

もう一つは自分以外のプレイヤーを殺害し島の支配者となる『生存勝利』

老人の言う昨日の話とは今日のゲームで二人で助け合い協力勝利を目指そうというものだった。


「ルールですって?分かってますよ。分かってるから協力勝利を目指そうとお願いしたんじゃありませんか」


「いやいや爺さん。俺が言ってるのはそういう表面的な話じゃない。このゲームの根本的な構造についてのことさ」


確かにサバイバルには二つの勝利条件が用意されている。

しかし協力勝利は生存勝利に比べて極めて達成するのが困難なのだ。

そして設定された期限内に協力勝利、生存勝利どちらの条件も満たせなければプレイヤーは全員敗北となり罰が与えられる。


「このゲームでは、いやこの世の中では全員が助かるなんて都合のいい話はないんだよ。

 二人して電気ショックの拷問を受けて食事を抜かれるか片方だけでも美味い飯にありつけるか。

 どちらを選択するのがいいかなんて明白じゃないか」


「それじゃあ……後生だ須藤くん。明日のゲームは私に勝たせて下さい。もう何日も食事を食べてないんだ」


この1週間ゲームに負け続け水しか与えられていない老人は唇を歪ませる。


「はは騙そうたってダメだよ爺さん。俺がアンタに王冠を渡すほどマヌケな見えるかい?」


サバイバルにはもう一つ大きな特徴がある。

それは前回の勝利者には次のゲームでも最初から有利な条件が『王冠』として与えられるのだ。

大富豪と似ているが与えられるアドバンテージはそれより遙かに大きい。

特に今のように1対1の勝負になってしまえば逆転は不可能に近い。


「騙すだなんて!!私は最初からみんなで協力して生き残ろうと主張してきたじゃないですか!!」


「そうして誰からも相手にされず負け続けた。いや爺さん、俺はアンタに感謝してるんだぜ。

 もしもアンタがいなければ最後に負け残ったのは俺だったんだからな」


ゲームの参加者は5回勝利することで勝ち抜けとなり参加報酬として100万円が支払われる。

同時に早く抜けた参加者には別途順位報酬が用意され1位は何と1億円のボーナス。

老人が協力を訴えても無視されたのはこの順位報酬が大きく影響していた。


「いやだ……死にたくない、私はまだ死にたくない!!お願いだ須藤くん、協力しましょう!!

 私が明日から4回勝ち、最後に二人で協力勝利をすれば二人とも助かります!!それでいいじゃないですか!!」


「いいやダメだ爺さん。主催者は最後に残ったプレイヤーを殺すと言っていた。

 その方法じゃ俺とアンタの二人が殺されるかもしれないじゃないか。大人しく一人で死んでくれ」


「いやだ………何で私はこんな所にいるんだ……若い頃から真面目に働いて生きてきたっていうのに」


「でもリストラされたんだろ?自己責任ってヤツさ。この世は所詮弱肉強食。

 弱いヤツが理屈を唱えたところで無駄なのさ。何が正しいのかは強いヤツが決めるんだ」


「須藤くん………君だって弱い方の人間じゃあないですか」


「明日からは違う。俺はアンタと違ってまだ若い。100万も軍資金があればいくらでも勝ち組に成り上がれるさ」




―――そして翌日。


宣言通り、須藤は危なげなくゲームに勝利しギリギリのところで勝ち抜けを決めた。

須藤は死刑宣告を受け呆然とする老人の愚かさに感謝する。

実際のところ老人の頭の回転は決して悪くはなかった。

協力勝利なんて訴えず普通にゲームに参加していれば死ぬのは自分の方だったろう。


「あばよ爺さん。―――俺のテーブルに出てきた食事は好きに食べてくれていいぜ。最後の晩餐ってヤツを楽しみなよ」


声に鳴らない嗚咽が反響する廊下を突き進むとやがてエレベーターが見えてきた。

運営者の一人であろう黒服の男が薄い笑みを浮かべて一礼する。


「お疲れ様でした須藤様。こちらが報酬の100万円となります」


これが100万。見たこともない金額の札束に須藤の心が震える。


「――ですが須藤様。オプションとしてこちらを受け取らないという選択肢もございます」


「はぁ?そんな馬鹿な真似する訳ないだろ」


「参加報酬を返却された場合、あの老人、横田秀夫は解放されます」


「あぁそういうことか。勝手にしてくれ。俺には関係ないね」


「よろしいのですか?」


「そりゃあ同情はするけどそこまでする義理はねぇよ。

 美雪ちゃんだったら100万と引き替えに一生俺の奴隷にして風俗で稼がせるとかも出来るけど

 爺さんの年齢じゃ就職出来るかどうかも怪しいじゃん」


ゲームに参加していた母子家庭の女子高生の白い肌が脳裏に浮かぶ。

苦労して得た報酬。景気良く半分くらいは女遊びに使うのも悪くない。


「―――ありがとうございます。それではエレベーターにお乗り下さい」


黒服の男は安堵の吐息を吐くと須藤が乗ったエレベーターの扉を閉め、催眠ガスのボタンを押した。





――――。


須藤は自分を取り囲む異形の集団に震えながら必死に声を振り絞る。


「いっ、たい、なんなんだよお前ら」


「何だ分からんのか。ワシらは貴様ら地球人が言うところのエイリアンというヤツじゃよ。

 しかし若い割に美味そうには見えんの。食用ではなく労働用に回すとしよう」


「しょっくっ!?っざけんな!!そんなことしていいと思ってんのか!!」


「いいに決まっておるじゃろう。その為のゲームが『サバイバル』なのだから」


長い触手で須藤の顔を撫でながらエイリアンは頬袋を膨らませる。


「地球などワシらの科学技術をもってすれば1日で征服出来るのじゃがな。

 高度な文明を発達させたワシらの星では貴様らのような下等生物にも生きる権利があるとか抜かす

 自然保護団体の連中が色々とうるさいのじゃよ。

 だからワシらが自由に出来るのはワシらのルールに同意した生物に限られるんじゃよ。

 弱肉強食。弱いヤツが負けるのは当然だし自己責任。助けてやる必要などない。

 貴様はその全てに同意してくれた。やはり日本種はいいのぉ。

 宗教勢力の強い地域はなかなか罠にかかってくれん。………おやおや」


失禁する須藤の姿を見てエイリアンも哀れみを覚えたのだろうか。

輸送用コンテナに入れる前に彼はこう付け加えた。


「安心せい。ワシはしがない奴隷商だが仁義はちゃんと心得ておる。

 老人に最後の晩餐をプレゼントした心意気に免じてちゃんとお前さんにも最後に美味い飯を食わせてやるわい」

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