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第六十九話 その後と別れの朝

「それじゃあ、もう行くわね」


 荷物をまとめたエリスさんが、玄関で僕へ振り返った。


「もう少しゆっくりしていけばいいのに」

「ふふっ、そう言ってくれるだけで嬉しいわね」


 そう言った彼女は、先にドアを開けて外へ出た。

 僕も続いて玄関を出て鍵を閉める。


 月曜日の朝、少し早い時間に家を出た僕たちは、並んで人通りのない通学路を歩いていく。


「……不思議ね、姿を消さずに歩くって、こんな感じだったんだ」

「違いがあるの?」

「えぇ」


 僕にはわからないけれど、エリスさんはなんだかんだ言って、少し楽しそうだ。


「それに、あのうるさいのがいないと、ちょっと調子が狂っちゃうわ」


 寂しそうに笑ったその横顔は、ずっと遠くを見ているようだった。


「せめて、私が帰るまでこっちにいなさいっての」

「うん」


 やがて、ラウラさんとオーエンさんが道路の端っこで佇んでいるのが見えた。


「あら、おはよう。二人とも、どうしたの?」

「貴女、今日帰るんでしょぅ?」


 手をひらひらとして挨拶するエリスさんへ、オーエンさんは腰に手を当ててため息をわざとらしくついてみせた。


「え、見送りに来てくれたの?」

「一応同盟の仲間ですから~」


 オーエンさんはそう言ってそっぽを向いてしまった。

 その隣では、ラウラさんが口元を軽く握った右手で隠しながら笑っている。


「リーシェ、エリスさんの見送りのために学校を休もうとまでしていたんだよ?」

「ラウラぁ?!」


 振り返って取り乱したオーエンさんの顔は紅かった。

 そして、それを見ていたエリスさんは、


「……ふぅん?」


 すっごくいい笑顔を浮かべていた。

 滅茶苦茶嬉しいんだろう。

 カフカや僕とゲームをしている時や、アニメ、漫画を見ている時にこんな笑顔を浮かべる時があった。


「何ですか、何ですかぁその顔はぁ?」

「いんや別に~? ただアンタが私のこと好きだったんだぁって思ったら顔がこんな風になっちゃっただけよぉ?」

「なっ、ちっ、ちがっ違いますぅ! 私は貴女を同盟の仲間として思っているだけです! 別に好きって訳じゃないですぅ!」

「そんな寂しい事言わないでさー。私、結構アンタの事、好きだったわよ、リーシェ」

「むぅぅぅ!」


 最後に太陽を思わせる笑顔を向けられ、オーエンさんは頬をより赤くして、エリスさんを睨んだ。

 エリスさんはオーエンさんからラウラさんへ視線を移していた。


「ラウラ、アンタの事も、なんだかんだ嫌いじゃなかったわ」

「私もよ、エリス」

「おっ、その名前で呼んでくれる?」

「嫌だったかしら?」

「全然。むしろ、もっと早くにその名前を呼んでほしかったわね」


 一昨日の帰り道で、エリスさんはラウラさんとオーエンさんに、自分の事を名前で呼んでいいと言っていた。

 けれど、色々あった後だから、とその時は了解の返事だけだったけれど、一日置いて、気持ちの整理が少しついた、ということだろうか。


 何はともあれ、エリスさんが嬉しそうで何よりだ。


「さて、それじゃ、私はこの辺りで。そうだ、実里」


 ラウラさんとオーエンさんを一瞥したエリスさんが僕へ振り返り、


「えいっ♪」

「ふぁぁっ?!」


 抱き着いてきた。

 一瞬のことで避けることもできず、彼女の力強い抱擁に、僕は為す術もなく硬直するしかできなかった。


「まったく……これでも君は、気付いてないんでしょう?」


 そう言うとエリスさんは僕から離れた。


「じゃあね、私の大好きな弟君、ラウラ、リーシェ!」


 荷物を持ち直して、エリスさんは足早に駅へ向かう道へ去って行った。

 びっくりしたけれど、嬉しいという気持ちが大きかった。

 言葉にしないと伝わらない。

 だから、僕は彼女に伝われと、近所迷惑にならないように、


「ありがとう、エリス姉。僕も大好きだよ!」


 すると、エリスさんは振り返らず、右手を挙げ、サムズアップし返してくれた。

それから、彼女の姿が見えなくなるまで、僕はずっと彼女を見送っていた。


 大好きな弟君、か。

 エリスさんも、僕の事を家族って、思ってくれていたんだな


「香乃さん……?」

「ん?」

「今のは、どういうことですかぁ?」


 振り返ると、冷めた目で僕を睨むオーエンさんと、苦笑しているラウラさんの姿があった。

 え、何、これ……。


「ちょっとお話しがありますぅ!」

「え、何何何?!」


 よくわからないけれど、オーエンさんから威圧を受けた。


「もう、いいから、リーシェ」

「でもぉ、この人本当に何なんですかぁ!」

「それが実里君だから」


 ラウラさんがフォローをしてくれているけれど、何故だか頬が少しひくついているように見えた。

 本当にどうしたんだろうか。

 謎だ。


 と、携帯電話で時間を確認すると、ラウラさんたちが朝の日課を終わらせるのに丁度いい頃合いになってきた。


「それじゃ、僕は少しぶらついてくるよ」

「うん。先に行くね」

「遅刻しないでくださいよぅ」


 カフカがいない今、僕たちの登下校の姿は誰かに当然、見られてしまう。

 そうなると、生徒会長を筆頭としたラウラさんファンに吊り仕上げられること間違いなしだし、ラウラさんにもいらない迷惑をかける可能性もある。

 だから、僕たちは以前のように、別々に登校することにした。


「気にしなくていいんだけれどなぁ」

「香乃さんはヘタレですぅ」


 ラウラさんが肩を竦める横で、オーエンさんが辛辣な言葉を吐いた。

 結構、心にクる。

 僕はどうにか笑顔で、二人と別れた。




 さて、後二十分くらい時間を過ごすかと、行きつけのカフェへ寄ると、


「やぁ、少年」


 タオさんが手を挙げて出迎えてくれた。


「タオさん、仲間の人の所へ行ったんじゃないんですか?」

「この国での協力者のところへ挨拶へ行っただけさ。他の仲間への報告は、この後だ」


 タオさんも、エリスさん同様に、日本を離れることになった。

 彼女がどこへ向かうかは聞いていないけれど、聞かない方がいいと言われたので、言う通りにした。


「今回は、君たちに色々と迷惑をかけてしまった。何か困ったことがあれば、すぐに駆けつけよう」

「そんな時が来ないことを祈りますよ」


 僕たちは笑い合い、どちらからでもなく手を伸ばし、取り合った。


「また会おう、少年」

「ええ、また」


 色々あったけれど、この人とも心を通わせることができた。

 この人との出会いも、大切なものになった。


 タオさんはコーヒーが入っていたカップを空にして、カウンターへ返すと、店の外に駐車していたバイクからヘルメットを出して被った。


「さらばだ」


 そう言って、タオさんは控えめなエンジン音と共に、朝の街へ消えて行った。

 あ、聞き忘れていたことがあった。


「ま、いいか」


 この後、本人に直接確かめればいいことだ。

 とりあえずは、贅沢に、朝のコーヒータイムを楽しむとしようか。




 タオさんがいなくなったカフェで少し時間を潰してから、学校へ向かった。

 登校中の生徒の数が多くなる中で、僕は一人、いつもの道を歩いている。


 ついこの前まで隣にいてくれた天使の姿はなく、ラウラさんたちもいない。

 半月前に戻ったな、と思わず笑いそうになる。


 教室に着くと、朝練から戻ったばかりらしい明守真が、僕を見つけて手を挙げた。


「よぅ実里」

「おはよう、明守真」


 いつものやり取りをして、そうだ、言わなくちゃいけない文句があった、と思い出した。


「明守真、お前、マリアちゃんの事を黙ってただろ……」

「仕方ねぇだろ。澄香とマリアから口止めされてたんだから」


 確かに、それはしゃべられないな……。


「それで納得するお前も、大概だぞ……」

「ん?」

「まぁいいか。それより、このみさんが、時間がある時にお前に話しがあるんだと」


 このみさんは、マリアちゃんのお母さんだ。

 僕の両親や親戚とも仲が良く、今でも母さんとメールでのやり取りをよくしている人だ。

 マリアちゃんたちは、まだしばらく日本で暮らすらしい。

 急ぐ訳じゃないけれど、直接挨拶できないのは僕としても寂しいし。

 今日、明日にでも行こうか。

 澄香姉にも会いたいし。


「わかった。ありがとう」

「おう。ところで、今日はオーエンさんたちと一緒に来なかったんだな」

「え? あ、うん」


 ちらと見れば、オーエンさんは倉敷さんたちと談笑している。

 すっかりクラスにも溶け込めたようで、何よりだ。


「誰かに見られたら、二人に迷惑がかかっちゃうから、しばらくまた別々にって」

「なるほどな」


 オーエンさんを一瞥し、明守真は整った顔に、やるせなさそうな笑みを浮かべた。


「けど、俺はお前と副会長が付き合おうと、この学校でお前らに迷惑をかけていいやつはいないと思っているぜ」

「あはは、ありがとう」

「本当だぜ? いいか実里、よく聞け。誰が誰と付き合おうと、基本的にそれは本人たちの問題で、責任だ。そりゃあんまりな相手や状況なら、そりゃ親しい奴や見かねた奴が文句をいう事はあるだろうがな?

 事お前らに関しちゃ、それこそ親御さんたちやオーエンさんくらいしか文句を言っちゃいけないんだよ」

「そんなものなのかなぁ」

「そんなもんだ」


 明守真はニカッと笑って、僕の肩を叩いた。


「何かまた困った事があれば、俺に相談してくれ。俺に出来ることがあれば、何だってやるよ」

「その時には、お願いするよ」


 頼もしい幼馴染兼親友の暖かな言葉は、僕の胸にじーんと染み渡った。




 そのまま、特に何がある訳でもなく、お昼休みになった。

 今までだったら、ラウラさんやカフカたちと一緒に食べていたのに、また一人だなぁ、とまた不思議な気持ちになった。


 けれど、今日は一人じゃない。

 僕は弁当包みを手に、教室を出た。

 その際、ラウラさんがやってくるのが見えたけれど、


「……」

「……」


 僕たちは互いに一瞥するだけで、すれ違った。

 やっぱり、変な感じだなぁ。なんて。

 寂しく思いながら、僕は教室を後にした。


エリス「結局、日本人どころか、世界レベルで鈍感な奴だったわねぇ。次会ったら、直接言ってやろうかしら? ……あ、お母さん? 私帰るんだけど、うん、お土産買ったから。それじゃ、また戻ったらたくさん話してあげるからね。……よしっ、行くか!」


タオ「あぁ、終わった。いつも通り、と言えばいいのか……私も、まだまだ未熟だと痛感させられたよ。ははっ、私だって人間だからな。中身は秘密だ。知らない方がいい時もあるさ、私たちでも。それより、新しい情報を得た。私が戻るまでに情報をまとめておいてほしい。……さて、私は私で、世界を守るとしようか」

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