第七話 決着と約束と温もりと
お久しぶりです。
「円迎寺さんの力をもらうとしましょう!」
「はあ?」
「力は回収しなければなりません。それに、実里さんのことを騙して、挙句大切なものが消えると知ってもなお力を奪おうとした人ですから、容赦なんていりません」
笑顔のまま、恐ろしい事を言うカフカに、ラウラさんも表情を厳しくする。彼女にだって失いたくないものがある。だから、それが失われることを恐れるのは、当たり前だ。
「ほら、早くちゃちゃーっと」
それを知っていて力を奪おうとするカフカ。一見、任務に忠実のようでいて、さっき必死に力の譲渡を押しとどめようとして泣いたりしていたことから、怒っているように思えた。大切なものが失われることは悲しすぎると泣いていた天使が、力を奪えというくらいに。
あれ、結構大変なことじゃないのだろうか。けれどもまあ、気持ちが変わることはない。
「……それはできないな」
「ふぇ?」
「…………どうして?」
きょとんと眼を丸くするカフカ。ラウラさんも訝しげに眼を鋭くする。
「ラウラさんが失いたくないもの、僕も失いたくないよ」
「何を……」
言っているの、と口が動いている。
「……私、は……貴方の大切なものを、奪おうとしたのに」
「うん。でも、僕は奪わないよ」
「……貴方を騙したの。貴方の気持ち、踏みにじったんだよ!」
『どうしてそんな風に思えるの!? なんでもっと怒らないの?!』
ああ、やっぱり自分の判断は正しかった。ラウラさんは、本当は自分のやっていることが許せなくて、だから自分の行動を思い出させようとして。怒らせようとして。
「でも、奪いたくないよ」
こんなにも優しい人なんだから。
「だってさ、僕の失いたくないものって、ラウラさんだから」
「え?」
「だから、ラウラさんの大切なものも、失わせたくない。それが理由じゃ、だめかな」
自分で言っていて、クサいセリフだなと思う。でもこれが本心なのだから、仕方がない。
ラウラさんは苦しそうな表情のまま、けれど驚きを隠せないようで、目と口が開きっぱなしだ。そりゃそうだろう。好きでも嫌いでもない相手に、大切なものは貴方ですなんて言われているのだ。嫌悪感を抱かれたことだろう。胸が痛い。
カフカに至っては言葉も出せずに固まっている。こちらは無視しておこう。
「それでさ、ラウラさん。今後のことなんだけれど……。僕の力をもう奪おうとしないでくれるかな」
「……それは……」
「僕のことを好きじゃなくても、僕の大切なもの……それは円迎寺ラウラなんだ」
「……脅し?」
「違うよ。脅しならもっと上手いこと脅すよ」
「……私をまだ好きでいるっていうこと?」
「そうだよ……キモいかもしれないけれどさ……」
「けれど!」
なおも声を上げるラウラさんに、ちょっとだけイラッと来た。
能力を使用して、体温を四十度まで再び上昇させる。
「……あう……?!」
「奪おうとしないでね?」
一応苦笑を浮かべながら語気を強めてもう一度告げる。威圧なんて出したことはないけど、一応怒ったときのそれを思い出して気持ちに乗せてみるイメージはしてみた。
それが功を奏したかはわからないが、ラウラさんは少しの間黙ってこちらを見上げていたが、目を閉じて頷いた。
「……わかったわ」
「ありがとう」
もう大丈夫だろう、と能力を完全解除する前に、今まで黙っていたカフカが口を開いた。
「もし約束を破ったら、天使である私が許しません」
笑顔なのに目が笑っていなかった。
ラウラさんに目配せをした。
『ホントお願いだから絶対に僕を襲わないでね!』
『わかったわ』
アイコンタクト完了。ラウラさんは疲れとは違う意味で顔を蒼白にしていた。
身も心も震えあがる人間二人相手に、天使は今度こそ笑顔を浮かべた。
「……はあ、折角最初の能力が手に入ると思ったのですが」
しかしすぐに苦笑へと変わる。
「いずれは彼女から力を頂かなくちゃいけないんですよ?」
「そうだけどさ」
問題はそこだ。今ラウラさんから能力を取り出さなくても、いずれは全ての力を持ち主から取り出さなくてはならない。
「その時はそれで考えるよ」
「先延ばしですね」
半眼になるカフカを放置してラウラさんへと歩み寄り、手を伸ばす。ラウラさんは怪訝な表情を浮かべるものの掴んでくれた。柔らかいほっそりしてる温かいなんて言葉が脳裏に渦巻くが、無理やりそれを押しこめる。
「……本当にお人好しだね。そんなんじゃ、また騙されるよ?」
「気をつけるよ」
苦笑し、立ち上がらせる。少しふらっとしているようだが、支えていれば歩けなくはないようだった。
「……一人で歩けるわ」
「そうもいかないでしょ。ほら」
ラウラさんの前に移動して身を屈め、その体を背負った。腕は当然ひざ裏に回して手がどこにも触れないように組んでおく。
「! 何を考えているの?!」
当然の如く悲鳴があった。そして予想通りじたばた暴れられた。熱暴走で体力を失っているので力は弱かった。
「そんなに暴れないでよ。落ちるから」
あと、いろんなところが当たっているのでできれば大人しくしていてもらいたい。
「保健室までこっちの方が速いから」
「……背中を蹴りたいと思うのは、こう言うときなのかな」
物騒な言葉が聞こえてきた。羞恥が混じっているのがわかる。保健室についたら全力で謝ろう。土下座も辞さない。背中を蹴られるとしたらその時だろう。背骨が折れない程度に手加減願いたい。




