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第六十二話 VS『嫉妬』 終幕

 リーシェの叫びに、マリアは呆けたような表情になり、しかしすぐにその顔は怒りに染まった。


「貴女も、私の邪魔をする!」

「香乃さんの事を本当に好きなら、彼に恋心を持ってもらえるくらい素敵なアプローチをかけて、振り向かせなさい!」


 マリアの感情の揺らぎに、リーシェは手ごたえを感じた。

 だが、まだ足りないと能力が訴えている気がする。

 もう一押し、何か要素が加わらないと。

 そう考えていた時。


「それには同意だな」


 リーシェの横を声が通り過ぎた。

 ラウラのように長く伸ばされた黒髪が揺れ、マリアへ中段蹴りを放ったその人物に、リーシェは目を見張った。


「貴女は……!」

「寝坊してしまった、すまない」


 受け止められた足をひっこめ、タオがカフカと並んで構えた。


「まだ寝ていても良かったんですよ?」

「マリア嬢の怒りの激しさに叩き起こされたのさ」


 前を向いたままのカフカの嫌味に、タオは苦笑いを含みながら答えた。


「どうやら、能力を奪わずにいてくれたようだな」

「後で実里さんとラウラさんに滅茶苦茶お礼を言っておいてくださいね」

「わかった。ところで、少年たちがラブコメのワンシーンのようになっているのは?」

「全部マリアさんのせいです」

「なるほど、把握した」


 言い終わるのと同時に、様子を見ていたマリアへ、タオが高速接近する。


「相手になろう!」

「貴女も邪魔するの!?」


 二人の間でアクション映画顔負けの攻防が始まった。

 思わず見惚れそうになるが、そんな場合ではないと能力行使へ意識を集中させる。


「どうして? ミノリちゃんが離れれば、ラウラさんは貴女だけを見るのに!」

「それは随分と身勝手な考えだな」

「貴女には聞いていない!」


 目にも留まらぬマリアの猛攻に、タオは受け止めいなすが、カフカのような余裕は感じられなかった。

 どうやら、彼女よりも、マリアの方が上手らしかった。


「マリア嬢、リーシェ嬢の言う通りだ。君が少年の心を射止めたいなら、このようなことはやめるんだ」

「ミノリちゃんたちに嫉妬して暴走していた貴女が言っても納得できない!」

「耳が痛いな……っ!」


 徐々に押されていくタオだったが、彼女の言葉に、マリアの精神が大分揺れているのがわかる。

 そして、ついにその時が来た。


「オーエンさん、今ですっ!」

「わかりましたぁ!!」


 マリアへ向けて、全力の『怠惰』をぶつける。


 しかし、マリアが寸前でリーシェの攻撃に気付いたようで、防御しようとする。

 失敗か、と焦ったリーシェの目の前で、


「諦めるな!!」


 タオの『憤怒』の力が、自分にかかったのがわかった。

 熱くなっていた心が冷めていくが、マリアへぶつけた『怠惰』の力が強化されたのがわかった。


「なっ、んで……っ」

「落ち着いたら、すぐにわかるわ」


 リーシェはそう言って、能力をマリアへ押し込むように、右手を伸ばした。


「あ……」


 そう言って、マリアの動きが止まる。

 暴走していた力が徐々に落ち着いてき、すぐに平常状態となった。


「わ、たしは……」


 能力の暴走から解放されたマリアが、ぽつりと漏らした。


「ミノリちゃんが、好き……」

「だったら、その気持ちを真正面から、香乃さんへぶつけなさいよ」


 終わった、と言う気持ちに崩れ落ちそうになるが、カフカが支えてくれた。

 リーシェは何となく、マリアへ言いたくなって、思わず言葉を投げかけていた。


 受け取ったマリアは、少し驚いたように見てきた。


「貴女は……ラウラさんの友達なのに、そんな事を言っていいの?」

「ええ、今のところ、ラウラが負ける未来が見えないもの」


 カフカの前でこんなことを言うのは少し気が引けたが、ラウラの親友として、そこは譲れなかった。

 カフカも、特に何も言ってこなかった。


「だから、全力でぶつかっていきなさいよ。こんなことしても、香乃さんは嬉しくないだろうし」

「嫌な人……そんなこと、今言われたら……」


 マリアは肩を落とした。

 そして、深呼吸をして顔を上げると、すっきりとした表情になっていた。


「でも、最後に彼を射止めるのは、私だから」

「それでいいわよ。ラウラが負ける可能性、低いし」


 嘘だ。

 ラウラの一番の強敵は、マリアとカフカだと考えている。


 恋のライバルが多いが、それでもリーシェはラウラを応援し続ける。

 それが、ラウラの幸せになるのであれば、それが自分の幸せにもなるから。


「変わった人」

「貴女に言われたくないわね」


 言いながら、リーシェとマリアは、笑い合った。


「でも、香乃さんを巡る恋の駆け引きをしようにも、今の状態では難しいの。だから、同盟に加わってくれるかしら?」

「うん、加わるよ」


 最後の戦いが、幕を下ろした。




 オーエンさんが何かを叫んだ直後、ラウラさんとエリスさんが動きを止めた。

 かと思うと、ラウラさんが僕から離れて、


「ご、ごめん実里君っ!!」


 いきなり頭を下げてきた。

 どうやら、正気に戻ってくれたようだ。

 エリスさんも、頬を掻いて「あー、なるほどね、これは怖いわ」と苦笑いしていた。


 オーエンさんたちの方を見れば、いつの間にか起きていたタオさんも加わって、穏やかに話していた。


「大丈夫だよ、ラウラさん。エリスさんも、正気に戻ってよかった」

「でも、私……」

「いいから、ね」


 蒸し返されると僕も恥ずかしいから、この話は終わりにしたかった。

 ラウラさんなんかダメージが凄いだろう。

 いくら友愛とはいえ、暴走した感情で恋愛感情のない相手に抱き着いたとなると、ラウラさんの性格なら気まずいだろう。


「オーエンさんがラウラさんたちを助けてくれたんだ。お礼、言いに行こう?」


 話の出しに使って悪いが、効果覿面だったようで、ラウラさんは小さく頷いてくれた。

 それでも、顔を僕へ向けようとしてくれない。心が痛い。


 と、エリスさんの手を縛っていた鎖が、蜃気楼が揺らめく、そんな表現が似合う消え方をした。


「この鎖、結構凄いわね。強化したのに全然引きちぎれないし。これも『強欲』の力なのかしらね?」

「わからない。自分でも、気が付いたらって感じで……」


 うぅん、これはカフカに聞かないといけないな。

 もしかしたら、『強欲』の隠された能力なのかもしれない。


「それにしても、アンタ凄いわね。実里を引き寄せるなんて」

「うん、人を引き寄せたのは、初めてだった」


 あれは凄かった。

 引き寄せられたというよりも、瞬間移動した、というイメージだったけれど。


 とりあえず、全部終わった後で話し合おう。

 今は、カフカたちと合流して、これからの事を話し合う方が先だから。


「おーい」


 声をかけながら、ラウラさんたちと一緒に、皆のいる方へ歩いていく。

 すると、オーエンさんが僕たちに気が付いて、


「もう、大変だったんですからぁ」


 と怒ったように言って、ふと、笑顔を浮かべ――――。






 そして、目を見開いて、顔が驚きへ染まり変わった。





次回からラストバトルへ入っていきます。

よろしければ、最後まで実里たちの非日常をご覧になっていってください。

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