第五十五話 決着と怒れる天使
少し短いです。
「私は貴女を許さない!」
『強欲』は、自らの足元に倒れている実里とエリス嬢の姿を見て、再度、怒りの声を上げた。
その怒りが、自分に向けられるのは不条理だと思った。
何も知らないくせに、仲良しごっこで能力を集めてきたくせに。
カフカに利用されていることを知らずに、世界を守るなどと口にして。
「許してもらおうなどとは考えていない」
この子を殴っても仕方がない。真に倒すべきはカフカだ。
手早く気絶させようと駆け出そうとして、体から力が抜けていくのを感じた。視界が半ばぼやけ、真っ直ぐに立っていることも危うくなった。
「ぐぅっ……?」
苦悶の声を上げてしまう。
眩暈に襲われ、並行感覚を失っている!
何とか転倒することは防いだが、膝から崩れ落ちて両手を床についてしまった。喉が渇き、目の前が霞む。
「そのつもりもないよ」
『強欲』の温かみも抑揚もない声音。
一瞬の出来事が、目の前の少女の能力によって引き起こされたことだと瞬時に理解した。
「ぐ…………」
荒い呼吸を意識しながら、先ほど少女に感じた怒りを糧に『憤怒』を発動させようとした。
だが、その意志が急激に萎え、意識を保つのがやっとなくらいまで感覚が停滞していく。
何が起きたのか、理解できない。そもそも、何か起きてこうなっているのか、起きた?
何が?
そもそも、私は何を……。
ぐるりと回る視界の中に、金髪の少女が私に掌を向けている姿が見えた。あれだけ熱かった意識が冷え、そして薄れていく。
狭まった意識が最後に捉えたのは、実里に寄り添い、安堵した顔を浮かべたカフカだった。
「カ、フカ……お前は……」
ラウラたちのすぐ傍に駆け寄ったリーシェは、タオを見下ろしながら肩を竦めた。
「ふう、ギリギリセーフってところでしたねぇ」
「すみません。咄嗟の事で置き去りにしてしまい」
「いいんですよぅ」
申し訳なさそうなカフカに、リーシェは「ノープロブレンッ」と笑顔を返した。
「それより、香乃さんたちは無事ですかぁ?」
「はい。二人とも気を失っているだけです」
カフカの報告に、ラウラとマリアは肩の力を抜いた。リーシェもよかったと胸を撫で下ろした。
「さて、後は実里さんたちを起こすだけですが……」
ゆっくりとカフカがタオに顔を向けた。その目は、見るだけで背筋が凍りつきそうな殺意と敵意に満ちており、リーシェは思わず身を竦めた。
「その前に、この方から能力を抜き取ってしまいましょう」
「えと、その、カフカ様? それは香乃さんの意思に反しませんか?」
カフカの醸し出す気配に、リーシェは恐る恐る口を開くが、向けられた能面のような笑顔に小さく悲鳴をあげてしまう。見ていたラウラとマリアも目を見開いた。
「この人は……実里さんを愚弄しました。実里さんの力を奪おうとしました。力が奪われればどうなるかを知りながら。そんな輩を……許せ、と?」
虚ろな笑顔というものは、果たしてこういう、口の中が乾いて心が圧迫され、殺されるのかと思わず危惧してしまうような、絶望感を見る者の心に叩きつけるような表情を言うのだろうか。
リーシェは震えが止まらなかった。
だが、ラウラはタオを庇うように立ってカフカを見据えた。
「確かに私もこの人を許せない。でもカフカさん。香乃君はきっと」
「ええ、実里さんなら、許してしまうんでしょうね」
抱き抱えた少年の額を愛おしそうに撫でている間も、カフカは壮絶な笑顔を絶やさない。
「でも、それじゃあ私が……私の気が晴れません。実里さんを、愚弄して……『力』を奪おうとして。そうすれば、円迎寺さんも消えていたかもしれないんですよ?」
「……それは……」
「だから、ですね。円迎寺さん」
カフカの表情が、今度こそなくなった。
「その人の能力、奪っちゃってください」
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