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第五十四話 VS『憤怒』 激昂のタオ⑤




「ふう……」


 呼吸を整え、体から力の抜けた少年を見下ろす。

 エリス嬢の能力に手をかけようと考えた直後、実里は姿を見せて飛び出して来た。必至の形相だったことから、咄嗟の判断だったのだろうと伺えた。

 無謀だったが、悪い気はしない。実里を地面にゆっくりと寝そべらせてやった。


「能力が奪われれば、その者の大切なものが消える、か。お前は、この子の大切なものを守りたかったのか、それとも……能力が私に奪われるのを防ぎたかったのか」

「エリスさんの大切なものを守りたかったに決まっているじゃないですか」


 視線を上げると、三歩ほど離れた位置にカフカ嬢が立っていた。

 その表情は無感動で、のっぺりとした面を彷彿とさせた。放っている気配は、怒り。一般人であったならその場に硬直してしまうだろう威圧だったが、そう言ったものには慣れているため、簡単に受け流す。

 いや、これは『憤怒』によって耐性が極限まで向上しているのか。


「ほう? その大切なものが自分だから、だとか?」

「例えそうであろうとなかろうと、実里さんはエリスさんを助けます。実里さんは、そういう人なんです」


 嘘を言っていない。気配もそうだが、直感がそう告げている。

 職業柄、嘘を息をするようにつき、確かな目を持つ連中を欺くような輩を相手にしていたおかげで、相手の言葉の真偽を見分けることができるようになってしまった。

 暴走していても、この部分は冷静に機能してくれていた。


「ですから、もうこんなことはやめてください。今、実里さんを労わってくれみたいに、貴女は冷静な部分があります。それに、今日まで感情任せにならずにここまで来たんでしょう? だったら……!」


 カフカ嬢が非難するように目を細める。


「やめるつもりも、謝罪するつもりはない。例えこの少年たちの大切なものが何であろうと、私はどの道『力』を奪わせてもらう」

「実里さんたちと協力しないんですか? 折角同盟を結んだのに!」

「……確かに、実里たちには、悪い事をしたと思う」


 途中から、能力が暴走している状況でありながら、実里やエリス嬢に欺瞞や虚言がない事を、改めて感じ取られるようになった。恐らく、二人が私に殺意や悪意を抱いていなかったからだろう。

 もしくは、協力者が何かしてくれたのか。

 だが、少し冷静になった思考を、『憤怒』がまた熱くした。少年たちはもう敵ではない。ならば、本題へ移るとしよう。


 彼や彼女らも知らなかった真実を暴くために!


「それでも、『力』は貰い受ける」

「何故ですか?!」

「お前だッ!」


 私の一喝にカフカ嬢が目を細めた。


「……どういうことですか?」

「私はお前が信用ならない。お前からは白マントと同様の、実里たちを誘導するような、そんな不穏な気配を感じる」

「そんな、私は実里さんを、皆さんをただ支援しているだけです!」

「言葉では何とでもいえる。だが何より私がお前を信用できないのは、お前が何か重要な事を隠している気がするからだ」


 微かだが、カフカ嬢の目が見開かれた。


「やはり、カフカ、お前は……!」

「守秘義務が色々あるんですよ」

「我々の世界に迷惑なものをばら撒いた側が言うことではないな」


『強欲』とマリア嬢が当惑した様子で私たちを見比べている様子が目端に映った。私は予想が当たっていた事を確信し、沸き立つ怒りに任せてカフカを睨んだ。


「カフカ、お前は能力について何かを――――」


 言葉が途中で途切れた。

 なんだ、これは。

 声は出る。なのに、これから言おうとしていることが、声にならない!


「……私が、なんですか?」

「お前が――――」


 ついに、文句の頭すら出てこなくなった。

 カフカは能面のような無表情で……微かに顔を下に向けた。


「私がなんだって言うんですかッ?」


 カフカの強い語気を耳にしながら、あれ……?


 ――――私は何を言おうとしていたのだろうかと、ふと考えた。


 その時、倒れた実里とエリス嬢が視界に飛び込んできた。

 たったそれだけの事で、これまでにない怒りが爆発し、それに呼応して『憤怒』が全ての力を引き上げた。


 もはや口論は後だ!

 今は全ての能力をこの手に集め、世界を救う!


「悪く思うな、実里!」


 膝を着いて実里の体を半回転させる。左背部から能力を奪うために手を添えようとしたところで、強い怒気を感じて後ろへ飛び退いた。

 浮遊感の中で見たのは、実里の前にいつの間にか立っていた『強欲』とマリア嬢の姿だった。

 走って距離を瞬時に詰められるような位置にはいなかったはず。

 まさか、カフカが瞬間移動させたのか!


「許さない」


 たった一言で、彼女たちが完全に敵に回ってしまったことを悟った。

『強欲』の傍に寄り添うカフカも、彼女と同じように怒りの表情を浮かべている。しかし――――ッ!


 あぁ、私も許さない。

 真実を見抜けず、目の前の出来事で感情的に動いて断罪者を気取る、温室育ちの子どもである少女たちを。

 そして何より、そんな純粋な子どもたちを操る堕天使を、決して私は許さない!!




お読みいただき、ありがとうございます。

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