第五十二話 VS『憤怒』 激昂のタオ③
本日 三投稿目です。
とはいうものの一番厄介な相手だ、というのが正直な感想だ。『憤怒』の能力は、事前にカフカから簡単にだが聞かされている。
『憤怒』―感情の爆発―主に怒り―で自己をパワーアップさせていく力。
身体能力が限界を超えて上昇するが、使用後の反動がない。しかし、感情に飲み込まれやすく、能力者の精神コントロールが重要となる。
これまでの『力』とは違い、相手に超能力による影響は及ぼさず、使用者の力をガンガン底上げするパワーアシスト系の能力だ。
また、『傲慢』同様に威圧が使用できるほか、憤怒のプレッシャーを放つことができるほか、精神干渉攻撃への抵抗が強く、『色欲』の使う魅了や催眠への抵抗が他の能力の中で一番高い。
よくある、「力を増幅する」という、直球な内容。シンプルだが、だからこそ厄介なのだと、ラウラさんとオーエンさんが危惧していた。それがどういうことを意味しているのか、今は肌で実感できる。
はっきり言って、恐ろしい能力だ。
物理攻撃にはめっきり弱い能力者に対して無敵としかいいようがない。しかも、僕の能力とは特に相性が悪い。生理現象操作で何とか介入できるかどうか、と言った具合だ。
暴走している今は抵抗感が増しているせいで、無力感を覚えそうになっているくらいだ。
『実里さん、体温急激上昇です!』
「暴走が悪化するんじゃないのか?!」
『今はそれしかありません!』
脳裏に響いてくる指示に従い、タオさんに向けて能力を放つと、今まではイメージとして浮かんでいた温度感覚が、思考文章化と同じように、目の前にローマ数字で表示された。
困惑は一瞬にも満たない、ごく僅かな時間。
すぐさま、可視化された体温の数値を四十一度まで急速上昇させる。人間が耐えられる発熱は四十二度ほどだと言われているので、これ以上は止めておく。
「む」
直後、体の異変に気がついたタオさんの歩みが止まる。そのまま膝が崩れ落ちる、と予想していた……が、
「すぅー…………………………ふぅー………………………」
しんっ……とした佇まいが崩れることはなかった。まるで、何事もなかったように、けろっとしている。
「嘘……だろ」
「そんな……」
『まったく効いてないです!』
能力をかけて一秒とたたないうちに、彼女の体温は平常値に戻ってしまっていた。
「まだだ!」
能力をかけ続けるが、体温は思うように上がらず、平常値の範囲から出てくれない。
こちらの全ての力が、見えないバリアで防がれている気分だ。
「何で…効かないんだ……!」
『身体能力を向上させて無効化しているんだと思います』
「そんな無茶苦茶な!」
身体能力向上と聞けば戦闘能力に直結した考えしか持っていなかったが、なるほど、詳しいことは全く分からないが、生命維持や免疫などの防衛反応みたいなものにも作用するということか!
「わかっただろう。無駄だ、少年」
不意に、タオさんの顔がアップで視界に飛び込んできて、茶色い瞳と目が合った。敵意があるはずなのに、綺麗だな、と場違いにも考えてしまった。
『『色欲』の力など手放し、日常へ戻れ』
ようやく読めた、彼女の心の声を聞きながら。
彼の胸に手が触れる直前。
僅かな一瞬で、実里の姿が消えた。
「?!」
手を目の前に伸ばすが、空を切るだけだ。
周囲にも注意を配るが、気配は全く感じられない。もし何かしらの体術を使って横をすり抜けたとしてもすぐにわかる。様々な可能性を考慮するが、どれも違うと勘が囁いている。
ならば、と脳裏を過るのは超常の力による可能性だ。
「……ふむ」
以前、『声』の語っていた内容を素早く思い出す。
『『色欲』には、姿を消す力はなかったはず……だとすれば、あのオペレーターか? いや……まさか……』
「危機一髪だったわねっ!」
タオさんから少し離れた場所で、エリスさんが僕の隣で得意気に笑う。
「助かったよ、エリスさん」
タオさんの攻撃が届く直前、姿を消していたエリスさんが力を使い、僕の姿も見えなくしてくれたのだ。
運のいいことに、タオさんはこちらの姿が見えなくなると手を止めたので、怪我をすることもなく、腰が抜けかけた状態でエリスさんに手を引かれ、窮地を脱出することができた。
「自分以外の姿を消すって初めて! 咄嗟にやってみたけど、案外できるものね」
『私もこういう使い方は考えていませんでした……エリスさん、お見事です! ナイスです!』
「……でも、これからどうしよう」
「ラウラたちが来ても、今の状態じゃあねぇ」
確かに、身体能力が向上した状態のタオさんの動きに、ラウラさんやマリアちゃんが着いて行けるとも思えない。
「でも、それなら今の僕たちでも……」
「いい、実里?」
エリスさんはタオさんの様子を窺いながら指を立てる。
タオさんは警戒しながら『能力の波動』を探している。しかも、こちらが『傲慢』の力で姿を消していることを察していた。
「持久戦に持ち込まれたら、私たちの方が負ける。カフカがラウラにいつ指示を出すのかは知らないけれど、それまでどうにか私たちだけで乗り切るの。できる、できないじゃなくて、やるしかないってね」
「……わかったよ、エリスさん」
ここはエリスさんに従おう。彼女以上にいい案は思い浮かばない。
「それじゃあ、私があいつを止めるから、説得が失敗した時は、またサポートを頼むわ」
「二人で行った方がいいよ」
「私はいざとなったら姿が消せるけど、実里は能力が破られっぱなしだし、あいつの動きが止まるまで出てきちゃだめよ」
「でも女の子一人で……」
「はあ……男って国が違ってもそういうプライドは持ってるのねぇ……ま、嫌いじゃないけれどね」
『ですねぇ』
エリスさんは離れた場所にいるカフカと目を合わせ、どちらともなく笑った。あれ、なんか変なこと言ったかな。
「いい実里? 君の思っていることは、この状況下ではただの意固地でしかない。私の能力が通じて君の能力が通じないなら、私が出た方がいい。でしょ、カフカ?」
「そうですね。体温操作を封殺されていますし、触覚操作も効かなかったら正直お手上げです。魅了や催眠は、今の状態だとほぼ無効化されますから」
「というわけ。囮役もだめよ? 実里が人質に取られちゃうかもしれないし、そうでなくても、私の能力にかかったとフリをして、次の瞬間に何をしでかすかわからない。そうなったら嫌でしょ?」
そう言われてしまったら、強く出ることはできない。
「……わかった。タオさん、『傲慢』の能力で僕が消えたことを察しているみたいだから、気をつけて」
「大丈夫……と言いたいところだけど、油断大敵、ね」
「覚えてたんだ」
「当たり前でしょ。忘れられないわよ」
少し頬を染めて意地悪く笑うエリスさんに、当時の状況を思い出したこっちの方が赤面してしまう。
いや、今はそれは置いておこう。でもおかげで大分緊張はほぐれた。
「じゃ、行くわよ!」
マリア「ミノリちゃん!」
カフカ「安心してください、ステルス効果が入っただけです」
マリア「そうなんだ」
ラウラ「(この人、あっさり受け入れてる……!」
お読みいただき、ありがとうございます。




