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第五十話 VS『憤怒』 激昂のタオ①

こちらも大変お待たせいたしました。

前回までのあらすじ――――最後の能力者『憤怒』のタオと同盟を結んだ実里たちだが、突然タオが頭を押さえてうめき声をあげたのだった。

 だだっ広い、砂と岩、そして転々と草が生えているだけの、荒野のど真ん中。

 雲一つない夜の空には星の海が広がり、そよ風が頬と髪を撫でて通り過ぎていく。

 幻想的な光景だと言う人もいるだろう。かくいう私もその一人だ。

 長いこと都会で暮らしていると、昔見ていたこの当たり前の景色でさえ、美しいなと思ってしまう。心が洗い流されていく気がする。

 私の好きな写真家が撮った写真と違うのは、星々の位置くらいだろう。あの写真もよかったが、この空も私は好きだ。見る場所で星の位置は違うが、夜空が美しいことに変わらない。


 地球は、宇宙はとても美しい、そう思える。


 心が少し落ち着いた。

 そして、改めて周囲を見渡す。

 すり鉢状に広がる、深さ約五メートル、半径約百メートル以上のクレーター。

 その中心に、私は立っていた。

 数時間前に聞こえてきた謎の声の言うとおり、私には得体の知れない力が宿ってしまったようだ。それも、『七大罪の力』なんていう、どう考えても碌でもない中身を想起させるもので、自分の力では取り出しようもなく、集めなければ世界に何かしらの危機が訪れるらしい。そして極めつけはこの惨状だ。

 ようやく現実を受け入れ、クレーターを作り出した自分の手を見下ろす。


「何なのだ……この力は……」


 私一人しかいない荒野で、返答を期待せずに発した言葉。

 夜空に吸い上げられるような、それともクレーターを通して地面に吸い込まれていくような、不安と恐怖に苛まれながら……。


 私は、この力と向かい合うことを決めた。




「が……ッ!」


 頭を押さえ、タオさんが苦悶の声を漏らした。

 発動中の『読心』が、彼女が察知している状況を拾い上げる。


『頭が割れる……能力が……爆発……暴走する!? 静まれ、静まれっ、どうしてこんな時にっ!! 今まで抑えられただろう!!』


 切羽詰まったタオさんの思考を高速で読み取り、状況を大まかに把握。精神状態と能力安定が最優先だ、と咄嗟に判断して、能力を発動した。

 それが幸いしたのか、タオさんは肩で息をしながらも、少し落ち着いた様子だった。


『この子たちが仲良しごっこ……違うっ、彼らなりに真剣にやっていた! 私は何を考えているッ!』

「タオさん……」


 溢れてくるもやもやとした感情と怒りに、タオさんは必死に抗っていた。

 驚いていたラウラさんたちを目端に捉えながら、オーエンさんに怠惰の力を要請しようと思ったが、カフカがすでに連絡済だと思念を送ってくれた。

 けれど、タオさんがそれ以上落ち着く様子はなく、むしろ、また頭痛が起きて、状況が悪化しているようだった。


「どうしたの?!」

「能力が暴走しかけているみたいなんだ!」


 ラウラさんに手短に答えながら、タオさんの傍へ寄り、生理現象操作を強めにしてかけてみる。

 後は……このもやもやとした感情を抑えればマシになるかもしれない。だったら!


「マリアちゃん、君の力でタオさんの感情を抑えて欲しいんだ!」

「う、うんっ!」


 マリアちゃんの『嫉妬』であれば、タオさんのもやもや――嫉妬の感情を抑えられるはずだ。

 案の定、マリアちゃんが能力を行使してすぐに、タオさんの中から嫉妬の感情が消えたけれど、彼女の怒りの感情は強くなる一方だ。


「オーエンさん、もっと能力強めに送って!」

『無理ぃ! 力がその人の力にレジストされてるの!』


 脳裏にオーエンさんの切迫した思考が返ってきた。


「ダメですよ円迎寺さんっ!」


 と、カフカがラウラさんを止める声が耳に入ってきた。


「何をするの?!」

「今、彼女のエネルギーを抜き取れば、次に暴走するのは円迎寺さんです!」

『だったら、私が何とかするわ!』


 隠れているエリスさんが『傲慢』の力で、無理やりタオさんの力を抑えようとした時。


「そうか……」


 タオさんが顔を上げた。

 彼女の視線を追うと、マリアちゃんがタオさんの視線に身をすくませていた。


『そう言う事なのか……予測しておくべきだった!』

「え?」

『こんな時にまったく……っもう、限界ッ!』

「離れろ、お前たち……!」


 タオさんがそう言うのと、視界がぐるんと回ったのは同時だった。


「っ!」


 次の瞬間、小さな衝撃を感じるのと同時に、自分でも驚くほど自然に体勢を立て直せた。

 どうやら、何かしらの作用で吹き飛ばされたようだ。

 視界に映り込んだ状況を脳が処理し、流れてくる情報を流し読みするように受け取っていく。


『セーフっ!』


 ラウラさんも同じように吹き飛んだようだけれど、腰を落として一点を見ている。その傍らに、姿を消したままのエリスさんが寄り添っていた。彼女がラウラさんを受け止めたようだ。

 カフカだけは、同じ場所で変わらず佇んでいて、顔からは表情が抜け落ちていた。


「ミノリちゃん」


 声に横を見れば、マリアちゃんが寄り添ってくれていた。脳裏に浮かぶマリアちゃんの思考によると、感じた衝撃は彼女が咄嗟に僕を助けてくれた時のものらしかった。


「ごめん、ありがとう」

「うぅん……それよりも、あの人……」


 言われてタオさんを見れば、彼女は先ほどと同じ場所に立っていて、上半身を少し後ろに仰け反らせていた。長い髪が微かに揺れ、半開きになった口がわなわなと震えている。

 まさか……。

 思考が全く読み取れない。最悪の展開を想像した。


「タオさん!」

「ミノリちゃん、ダメ!」


 マリアちゃんが僕を抱えてその場から飛び退いた直後、僕たちがついさっきまで立っていた場所にタオさんが立っていた。髪と服の裾がふわりと舞い上がり、広げた掌が胸の高さで構えられている。


「……逃したか」


 低い声に、全身を悪寒が走った。

 顔を上げたタオさんの目からは、先ほどまでの友好的な雰囲気は消え失せ、これでもかと言うくらいの敵意に満ちている。聖域と化した屋上で見た無表情よりも苛烈な攻撃性を帯びた視線に、息が詰まりそうになった。


「何を……!」

『ラウラ!』


 声を上げたラウラさんの肩を、エリスさんが掴んで引き留めていた。


『ダメよ、アイツはもう……』

「まさか……」

「そのまさかです。『憤怒』が暴走を始めました」



リーシェ「い、今、何が起きたのぉっ?!」


お読みいただきありがとうございます。


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