第四十八話 最後の能力者
大変お待たせいたしました。
オレンジ色に照らされる公園で佇む女性が、僕たちを出迎えてくれた。
金色と茶色、黒のグラデーションを作っている黒髪を揺らし、振り返ったその人の顔を見て、息を呑んだ。
ラウラさんも動揺しているのが何となくわかった。無理もない。
どうして、どうしてここにいるんだ?
「よく来てくれた」
『聖域』で出会った、あの女性だった。
「何をどうしたら『嫉妬』と短時間で親しくなれたのかは聞かないが、無事で何よりだ。……さて、自己紹介がまだだったな」
混乱する僕たちを置いて、彼女は羽織っていたコートを脱いだ。
「私はタオ。『憤怒』の能力を宿している」
最後の能力『憤怒』のマーカーが、脳裏に出現した。
消去法で考えれば、おのずとわかることだったけれど、これで全ての能力者と出会えた。
ようやく、この騒動も終わりが見えてきた。
嬉しい、のだが、ひっかかることがあって、素直に喜べない。
公園で待っているのは、武宮先生に接触してきた女子生徒のはずだったじゃ……。
「ん、どうかしたのか?」
訝しむタオさんの声で我に返った。視線を隣へ向けると、ラウラさんも同じようにこっちを見ていた。
『どういうことなの?』
ラウラさんの思考に僕は首を振って、わからないと答え、待ってくれているタオさんへ声をかけた。
「僕は実里と言います。あのっ、ここに僕たちと同じ年代の女の子がいませんでしたか?」
「私が来た時には誰もいなかった。それ以前に、協力者が人払いをしている。我々以外は近づけない」
「えぇっ……?」
本当にどういう事なんだ?
いきなりの展開に思考がかき乱されてしまう。
「誰かと、先約でもあったのか?」
「えと、僕たちの知り合いから、ここで能力者……かもしれない女の子が待っていると聞いていたもので」
「何?」
タオさんは眉を潜めた。
「……少年、先ほど喫茶店でお前と話していた白衣の女性がいただろう。彼女から、何を聞いた?」
武宮先生のことか。と言うか、あれ、見てたのか、この人。
「公園で五時に面会を希望している子がいると」
「……。……子?」
公園に、微妙な空気が流れ始めた気がする。
誰もが沈黙する中、マリアちゃんがそっと顔を覗き込んできた。心配そうな様子に、僕は笑みを浮かべて見せたけれど、ぎこちないものになっているはずだ。
やがて、タオさんの方が口を開いた。
「……少年、その面会を希望していたのは、私だ」
「…………ぇ」
今日幾度目かわからない衝撃を受けながら、武宮先生の言葉と思考を思い出す――
「あぁ、その人は別に悪い子じゃないからね。ただ、そういうのを見たって教えてくれただけなんだ」
『あの子のプライバシーを守るためとはいえ、この子には嘘をついてしまったなぁ』
『丁度いいし、今度紹介しようかな。もう一人、友達の女の子が増えるけれど、香乃君はどんな反応をするかな?』
――『色欲』の力だろうか、先生のクリアな声と思考が脳裏に浮かんだ。記憶力が強化されているのか、能力による再生機能がついているのか、と脇道に逸れた思考は置いておくとして。
「あの……僕たちの事を観察していたと言っていましたが、学校に侵入したこととかって、あります?」
「あぁ」
「……変装していましたか?」
「したな」
「……女子生徒の格好とか、していましたか?」
「ん? ……いや、教師の格好だ。これでどうだ?」
そう言うと、タオさんはコートの内ポケットから取り出した眼鏡をかけた。
あれ、廊下でぶつかりそうになった、新しい先生っぽい、人……?
あれ、いやでも待った。あの時武宮先生、女の子って考えて――。
「……ぁぁっ」
「どうしたの実里君?!」
「ミノリちゃんっ?」
僕が勝手に女子生徒って思い込んでいただけだったぁぁぁぁッ!
「……誤解は、解けたか?」
「はい……」
「他に聞きたいことはあるか?」
たくさんあるけれど、今はこれだけ聞いておこう。
「その、武宮先生とはどういったお知り合いなんですか?」
「私の協力者から信頼できる人物と教えてもらって接触したら、気が合って友人になった」
「そうですか……」
青とオレンジのグラデーションに彩られた空を仰いでいた。
僕の勘違いで、話が色々とややこしくなっていたけれど、解決して何よりだ。
ラウラさんに事情を説明すると、色々複雑そうな表情を浮かべられた。最終的には仕方ないと言ってくれたけれど、本当にごめん。
カフカたちにも後で説明を……と思っていたら、ラウラさんの耳と襟元に通信機セットが装着されている事に気が付いた。うん、こっちも問題なさそうで何よりだ。後でカフカたちから色々言われそうだけれど、甘んじて受け入れよう。
後、武宮先生とは月曜に色々話さなくてはいけない。
色々と複雑な気持ちを抱えながらも、改めてタオさんと向き合った。
今度こそ、同盟の締結を実現させなくっちゃな。




