第四十六話 幼馴染と思い出と修羅場の入り口
子どもの頃に、僕はよく女の子の格好をさせられていた。
主に、母さんと澄香姉によって。
澄香姉のお古だったり、母さんの小さい頃の服だったりをとっかえひっかえ着せられて、父さんが達観した目でシャッターを切って……いや、切らされていたのを覚えている。
あの時は別にそこまでおかしなこと、というか嫌という感情がなかった。多分、常識とか男女の違いみたいなものがあまりわかっていなかったというか、なんというか。
それを見た明守真が顔を赤くしていたのは最初くらいで、途中からは父さんと同じような目をしていた。
明守真は僕のことを笑いもせず、からかったりもしなかった。おかげで、何の疑問ももたずに母さんたちの着せ替え人形になっていたわけで。
その頃を思い出すと恥ずかしさのあまりに悶えたくなるのだけど。
なんというか、そのおかげで一人、友達になった子がいた。
一番最初の親友で、澄香姉以外で一緒に遊んだ女の子。
「みのりちゃんは、わたしがまもるから」
そんな風に言ってくれた、僕の大切な友達。
栗色のツインテールをなびかせて、隣を走っていく。
お転婆とよく言われていたあの頃の澄香姉と、その少し後ろを走る明守真の背中を見失わないように、手を繋いで。
緑色の瞳が僕を見つめる。
「みのりちゃん」
「こほんっ」
エリスさんの咳払いに、僕たちの視線が彼女へと向く。
どうやらステルス解除したらしい、顔は笑っているのに目元が全然まったくこれっぽちも笑っていないエリスさんがいた。
あれ、なんか怒ってる?
「ミノリちゃん、この人は……?」
マリアちゃんが僕の後ろに隠れるように移動した。まぁ、急にそこに人が現れたらびっくりもするだろうな。僕は慣れだけど。
そう言えば、昔はよくこうやっていたなぁ。あの頃は恥ずかしがり屋だったけれど、なんか懐かしいなこういうの。
なんて思い出に一瞬浸っていただけなのに、エリスさんのこめかみに血管が浮かんだ気がした。え、何今の!? 多分『読心』によるイメージなんだけど、めっちゃ怖い!
「えと、それも含めて、少し話をしないと……」
その時、携帯電話が震えていることにようやく気が付いた。
ラウラさんからだった。
『実里君っ、今どんな状況なの?!』
落ち着いていた声音なのに切迫した勢いで問いかけられ、一瞬どう返答しようか迷った。走っているのか、風を切る音がしている。
「えと、大丈夫。再会を喜んでいるだけだから」
『……へ?』
立ち止まったらしい。スピーカーの向こうからオーエンさんの『どうしたの』と英語が聞こえてきた。
『……とりあえず、すぐにそっちに向かうね』
「あ、うん」
通話終了。
「どうかしたの、ミノリちゃん?」
隣でこてんと首を傾げているマリアちゃんに事の次第を説明しなくては。
実里「マリアちゃん、背、高くなったね」
マリア「ミノリちゃんも背、伸びたね」
マリアの方が実里よりもほんの少しだけ背が高いです。




