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第四十五話 あの子が来りて僕を抱く

 リアルがごたごたしていて、大変遅くなってしまいました。

 大変申し訳ありません。


 瞬間移動。

 それは、古来より人智を超えた存在達が見せる奇跡にして、超能力の代名詞の一つだ。

 長距離を移動し、ある時は星の裏側や他世界へ移動できたりする。漫画やアニメだと使用者にアドバンテージをもたらすが、稀に少なくないデメリットを要求される場合もある。

 しかし、現実で瞬間移動して見せた『暴食』に果たしてそんなバランス調整が効いているはわからず、少なくとも『聖域』のような、別世界らしき場所へ移動できるくらい、凄まじい力を持っていることだけはわかった。


「くっ、ステルスじゃないっていうの?!」

「……ダメですね、完全に消えました」


 エリスさんとカフカの落胆の声が聞こえてきた。どうやら白マントを追跡しようとしていたようだが、上手くいかなかったらしい。


「多分、瞬間移動したんだと思う」

「瞬間って……」


 口の中で言葉がつっかえているように口を動かすエリスさんだったが、すぐに持ち直した。


「っ実里、アイツと何か話してたみたいだけど、何か言ってた?」

「えっと、『聖域』での事を謝られたんだけど……」


 事情を説明し始めた時、先ほどから聞こえてきた排気音が一層大きくなり、振り向けば黒色のバイクが『暴食』の立っていた位置辺りに停止するところだった。


 その瞬間、脳裏に再び周辺地図が出現し、『色欲』と新しい能力を示すマーカーが点滅し始めたかと思うと、バイクの運転手がヘルメットを脱ぐなり、こちらへ向けて駆け出した。


「! 実里!」


 エリスさんが動こうとしたけれど、


「ぁ!?」


 相手を見てそれを咄嗟に留めさせることができた。


「待ってエリスさん! ストップストップ!」

「ちょ、何でよ?!」


 見えた瞬間に『読心』を展開していたけれど、範囲内に入ってすぐに解除した。

 もう十年近く会っていないけれど、年賀状や手紙でのやり取りはしていたから、誰だかわからないなんてことはなかった。

 あの時は、もう少し日が暮れていた頃合いだったかもしれない。

 夕焼けの中、公園の滑り台を可愛い女の子と一緒に滑っていく。ベンチで缶ジュースを飲んで笑い合う。

 ワンピース姿の幼い彼女が、僕に笑いかける。

 そんな記憶が瞬時に脳裏を掠めた。


「ミノリちゃん!」


 走った勢いを僕たちの数歩手前で一度止まって発散させ、そのまま僕に飛びついてきた。


「「なっ」」


 カフカとエリスさんの声が聞こえてくるけれど、今は構っていられない。

 ぎゅぅっと抱きしめてくる暖かさを感じながら、僕もちょっとだけ遠慮して抱きしめ返した。

 身体を離すと、僕よりもほんの少しだけ高い目線で笑いかけてきてくれた。


「ミノリちゃん、よかったっ!」

「えと、久しぶりだね、マリアちゃん」


 緑色の瞳に僕を映し、彼女―マリアちゃんはもう一度僕を抱きしめてくれた。

 多分、一分も経っていないと思うけど、長く感じられた抱擁を終えて、マリアちゃんは一歩離れた。


「ごめんね、ミノリちゃん……いきなり飛びついたりして」

「いや、まぁうん、いいんだけどね」


 いくら家族同然の仲とはいえ、抱きしめられるとなんだか照れて臭い。

 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、マリアちゃんはくすっと笑った。


「それにしても本当に久しぶりだね……だけど、どうして日本(こっち)に……あぁ、そうか」


 さっきからカフカとエリスさんが、突き刺すような目と凍えるような威圧を僕たちに向けてきているのをひしひしと感じる。

 そして、僕の脳裏で点滅し続ける二つのマーカー。


「もしかして、マリアちゃんも……」

「うん……そうだよ、私もミノリちゃんと同じ、超能力者なの」


 茜色になっていく日差しを受けて、僕の最初の親友マリアちゃんは、柔らかく微笑んだ。


ようやく、この子が、出せました……ッ

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