第四十一話 リーシェとラウラのインターミッション
今回は少し短めです。
ラウラに誘われ、リーシェは円迎寺家へお邪魔することになった。
部屋に荷物を置き、ラウラが普段着に着替えたところで、リーシェは長い髪をアップにする彼女へと声をかけた。
『ねぇラウラ、香乃さんに武宮先生の事を教えなくてよかったの?』
『……あそこで言っても、実里君が混乱するだけだよ』
『そうだけども……』
実里が消えた直後、武宮がリーシェ達に残した言葉が脳裏を過る。
「すべてを終わらせる手っ取り早い方法は、『暴食』の能力者が動くことだ。彼女なら、例え宇宙の果てにあるものだって『食らい寄せる』ことができる」
少し勘が鋭いだけのはずだった保健教諭が、『七大罪の力』を、しかもリーシェ達が知らない情報を口にした。
幻聴でも聞き間違いでもない。全員が同じセリフを聞いていた。
『……カフカ様は、先生が能力者でないと言ったけれど……』
リーシェや他のメンバーの『共鳴反応』にも引っかからず、カフカも能力は確認できなかったという。
実里が聖域と呼ぶ謎の空間で戦った能力者は、超接近していたにも関わらず『共鳴反応』を示さなかったことから、何かしらの力で反応を抑えているのだろう。普段は自分が似たようなことをしていても、実際にやられた側に立ってみると、これ以上にないほど性質が悪い。
本当は、今日一日、できれば平和に過ごしたかった。
ラウラと実里が仲良くなり、じれったい関係が少しでも進展すればと思っていたのだ。もちろん、新しい能力者を見つけられて、仲間にできれば一二〇点満点で、リーシェは楽しさ半分、嫉妬半分という具合で週末を明るく過ごせたはずだった。
だというのに、次から次へと問題がやってきて、正直疲れてしまった。
救いは、ラウラと実里の距離が近づいたことと、無事に実里が戻ってきたことだ。
やれやれと思いながら肩を竦めていると、ラウラは黙ったまま何かを考えていて、リーシェの言葉も耳に入っていない様であった。
『……武宮、夏奈多』
ぽつりと、ラウラが武宮のフルネームをつぶやいた。
『どうかした?』
『……うぅん、ちょっとね』
そう言ってはぐらかすラウラに、リーシェが小首を傾げていると、ドアがノックされた。
「ラウラ、リーシェ、ちょっといいかな?」
「あ、はーい」
ドアから顔を覗かせたのは、ラウラをもう少し大人びさせたような顔立ちの女性だった。
「あれ、また出かけるの?」
「うん。ちょっとね」
淀みなく、ごく自然に答えるラウラに、彼女は「ふぅん」と頷いた。
「晩ご飯までには帰ってきなさいよ?」
「わかった」
パタンと閉じたドアの向こうで気配が去っていくのを感じながら、リーシェは苦笑した。
『晩ご飯までに帰られるかしら?』
『その時は仕方ないから、叱られるしかないわね』
『ナズナおばさん、怒ったら怖いじゃない』
『世界が消えたら、叱って心配してくれる人もいなくなっちゃうじゃない』
どちらともなく笑いあい、部屋を出る。
その時、脳裏に突然現れた『共鳴反応』に、ラウラもリーシェも顔を強張らせた。
『急ごう!』
『えぇ!』
全く、本当に散々な一日だ。
脳裏の地図上に浮かぶ二つのマーカーを見ながら、リーシェは内心で毒づいた。
「―で、うちの娘も彼氏ができたみたいなの」
『へぇ、そうなんですか』
「近いうちに家に来るかもしれないわね」
『こっちも、親戚の子に彼女の影あり、ということになっていますよ』
「へぇ? もしかして、うちの子の彼氏だったりして」
そう言って笑う声に、電話越しの相手は意味ありげに小さく笑った。
その時、廊下の向こうから声が聞こえてきた。
「お母さん、行ってくるからぁ!」
「あ、はーい。行ってらっしゃぁい」
急いでいるのか、いつもよりも強い鍵閉めの音を耳にしながら、電話へと戻る。
『娘さん、元気そうですね』
「ええ。とってもね」
『よかった。……ところで、最近、そちらで何か変わったことはありましたか?』
「特にないわね。強いて言うなら、この前下着泥が捕まったくらいかなぁ? それ以外はこれ以上ないくらい平和よ」
『それは重畳』
「本当、あんまりにも当たり前すぎて、ちょっと不思議だけれど」
『平和が一番ってことです。あ、それじゃあ俺はこれで』
「えぇ。奥様とお姉様によろしくね」
電話を切り、彼女は夕飯の準備へと取り掛かった。
超能力による世界滅亡の影は、どこにも見受けられない。
どこにでもありふれた日常が、そこにあった。




