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第三十四話 写真と悪戯と歓談のプロムナード

 野菜が多めなサンドイッチ屋でのお昼ご飯を食べて、予定のコースをぶらぶらして、さてショッピングモールから出ようかとなった時のこと。


「実里君、ちょっといいかな?」


 ラウラさんの視線の先にはゲームコーナーがあった。

 ゲーム? 時間には余裕があるし、少しくらいならいいか。


「うん」

「じゃあ、こっち」


 少し速足のラウラさんについていく。いくつかのゲームの前を通りすぎたけれど、ラウラさんはそのまま奥の方へと進む。

 何のゲームをするのかなと考えていたら、


「これは……」


 ラウラさんが足を止めたのはプリクラのコーナーで、周りでは女の子たちが撮った写真を見てきゃっきゃっとはしゃいでいる。


「ダメ……かな」

「いいよ」


 ラウラさんってこういうの苦手なイメージがあったから、ちょっと驚いた。

 でも、一緒に写真を撮るっていうのはすごく嬉しい。

 で、


「やっぱり、ちょっと狭いね」

「そうだね……」


 当然の話しだけど、機械の中は狭くて、密着するほどでもないけれど、断然距離が近くなる。隣で歩いている時はまた違って、ラウラさんの息遣いやシャンプーの香りが……ッ。

 まずい……心臓が滅茶苦茶鼓動を速めているんだけどっ!


「実里君、顔赤いよ?」


 そう言いながら、自分も顔が赤くなってるよ。

 硬貨を投入したラウラさんはささっと操作していく。すぐにアナウンスが入り、撮影までのカウントダウンが始まったところで、


「私は、嫌じゃないよ」


 不意に、そんなことを言われた。


「私も楽しいよ、実里君」

「え?」


 驚いている間に、ラウラさんがぐっと肩を寄せてきた。


「ほら、実里君、あんまり離れて撮影するとそれっぽくないよ」

「う? うん……え?!」

「いいから!」


 言われるがまま、僕もラウラさんに肩を寄せたところでシャッターが切られた。

 しばらくそのままの姿勢で固まっていたけれど、どちらともなく離れ、ラウラさんが出てきた写真を手に取った。僕も見ようとして、ラウラさんの声がそれを遮った。


「……もう一枚」

「え?」

「もう一枚」

「はい」


 顔を赤くしながらも有無を言わさない迫力に、僕は頷くことしかできなかった。

 また肩をくっ付けて、少しだけ気持ちに余裕ができたのか、ラウラさんは小さく笑っていた。


 そして、出来上がった二枚目の写真なんだけど……。


「?!」


 僕とラウラさんは肩を震わせて驚いた。

 いや、だって僕とラウラさんの後ろにカフカとエリスさんが顔を覗かせていて、オーエンさんもこそっとラウラさんの近くで手を振るような仕草で写っているんだからさ。なお、カフカに至っては僕の頭の後ろから人差し指を出しているという、古典的な悪戯まで仕掛けていた。

 振り返ると、カフカとエリスさんが笑顔で僕とラウラさんを迎えてくれた。


「いい記念写真になりましたね!」

「おっ、いいわね。一枚ちょーだいっ♪」


 本当いつの間に入ってきたんだよ……写真見るまでカフカたちがいることすら気が付いてなかったよ?

 ラウラさんは少しだけ不満そうにしながら、それでも全員が映った写真をカフカたちにおすそ分けしていた。


「じゃあ、私たちはサポートに戻りますので、また楽し……いきなり予定外の行動をとられたら駆けつけるので、一言報告お願いしますね」

「あ、うん」


 オーエンさんの言葉に引っかかるところがあったけれど、急に予定外の動きをしたのは僕たちだし、次からは注意しよう。

 それから、また少しだけぶらりとお店を見て回って、ショッピングモールを後にした。




 移動中も周囲への警戒を怠らないようにしているけれど、やっぱりそれっぽい人はいないし、ラウラさんたちも無反応なので今のところは安全なのかもしれない。

 昼下がりの散歩の間は、ラウラさんと何気ない話しで盛り上がった。


「だからサンドイッチはラップで包むとかして、少し寝かせてから切るといいみたいなんだ」

「そうなんだ。マ、お母さんが作ってるけれど、そんなコツがあったんだ」

『お昼食べ終わって少し経つけど、よく食べ物の話しで盛り上がれるわね』

『というか、香乃さんがlectureする方なんですかぁ?』

『まぁ実里は料理できるからね』

『あぁ、お弁当は手製という話しでしたねぇ』

『香乃家では実里さんがご飯を作ってくれるんですよ。後、この前は実里さんがプリンで、エリスさんがメレンゲをデザートに作ってくれたんです!』

『そうなんですかぁ、美味しそうですねぇ』

『たまにはあんたもゆで卵以外を作りなさいよ』


 何故か通信機のスイッチが入って、外野の会話が聞こえてくる。


「スタッカートさんも料理できるんだ」

「いや……まぁ……」

『メレンゲは得意なのよねぇ』


 エリスさんが通信機の向こうでそっぽを向いたのがわかる。きっと目が泳いでいるはずだ。ここは同じ釜の飯を食っているよしみで話題を逸らしてあげよう。それが情けというものだろう。重曹を加えるところにクエン酸を間違えて入れたことや、味見を忘れたことで薄味になったスープは忘れよう。


「家事は当番を決めてやるようにしてるよ」

「そっか……なんだか合宿みたいだね」


 そんな風に談笑しながらの散歩は、カフカやエリスさんたちと一緒にするのとはまた違った楽しさがあった。

 何もせずに歩いて話しているだけだというのに。

 あぁ、本当。

 実の所は世界の危機だっていうのに、ものすごく幸せだ。


クエン酸のくだりは実話です。

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