第三十話 何気ない登校の時間と幼馴染のお節介
作戦会議の次の日、登校時にラウラさんと顔を合わせたけれど、特に気まずい雰囲気にはならず、僕もこれといって緊張することなく会話することができた。
デート前にぎこちなくなるというシチュエーションは、やはり漫画や小説の中だけなんだろうか。それとも、一緒に何度も登下校しているから、慣れてきているだけか。
難しく考えても仕方ない。普通に接することができて、いつもどおり会話できて楽しめているんだからいいか、そう思うと、気負うような窮屈さが抜けた気がした。
「大体実里は考え過ぎなのよねぇ」
「真面目で優しい人ですよ」
エリスさんとカフカが僕の後ろで、呆れているのか面白がっているのか区別がつかない声音で会話している。声を小さくしていても聞こえているよ、二人とも。それともわざとなのか。
まぁ、作戦会議の後で僕が悩んでいたことはお見通しだったようで、つまり二人は僕のことを心配してくれているだけなのだ。ちょっとばかりくすぐったい気持ちになるけど、もう昨日みたいに悩んでないから、いじらないで欲しい。
「というか、どうしてカフカもエリスさんも一緒に登校してるのかな?」
「気分的にそーしたいからよ」
「右に同じです」
「さいですか」
二人揃ってステルス使用しているため、僕やラウラさんたち以外の人に姿を見られることはない。こうやって、僕たちのことをサポートしてくれているのだろうけれど、理由の半分くらいは暇つぶしかもしれない。まぁいいか。
「それに、こうやって皆で登下校するっていうのは楽しいし」
不意にエリスさんがそう言ってはにかむものだから、ちょっとだけ胸が高鳴ったけれど、表には一切出すことなく笑って見せた。
「まぁ、それはそっか」
でも、と考える。
もしエリスさんとカフカがうちの高校にやってきたら……こうやって、能力者の事件が終わっても、一緒に歩いていられるのかな、と。
「なんてな……」
愚にも着かないとはこのことか。そもそもエリスさんはもう高校を卒業しているらしいし、カフカも任務でこっちに来ているだけにしか過ぎない。
昨日から、こうやって一緒に居られる時間について考えてしまうけれど、感傷に浸るのは何か違うと思う。
なら、こうやって一緒に歩くくらいはどうってことないか。別に迷惑だとは思わないし、こうしていると楽しいのだから、くよくよした雰囲気より、こっちの方がずっと前向きで建設的だ。
苦笑していると、エリスさんが首を傾げていた。
「どうしたの、実里?」
「うぅん、なんでもないよ」
言葉にするのはちょっとだけ気恥ずかしいような気がして、そうやって誤魔化した。
「香乃さん、随分と『傲慢』と打ち解けていますねぇ」
前を歩きながらラウラさんと談話していたオーエンさんが振り返って、そんなことを言ってきた。何故かちょっと冷たいような視線も送ってきたけど、僕何かしたっけか。
うぅん、エリスさんと打ち解けてるって言っても、今更なような。
でも、言われてみればそうかもしれない。カフカとは二日くらいで打ち解けることができた気がするし。
昔から女の子には気をつけろと親しい女性陣から口酸っぱく言われているため、会話するくらいの女子友達はいても、ここまで親密な関係になった相手はいなかった。
それが今では三……四人か。
この半月で大きく人間関係が広がったなぁと頭の片隅で考えながら苦笑が漏れる。
「何がおかしいんですかぁ?」
「いや、言われてみたら確かにここまで親しい女の子の友達ができたのって久しぶりだなぁって思ってさ」
眠そうな半眼をさらに鋭くして睨んできたオーエンさんの刺線を受けながら、即座に返答する。
「そりゃぁ一緒に暮らしてるし、ねぇ?」
エリスさんが何言ってんのと言わんばかりな笑顔でそんなことを言うもんだから、オーエンさんはむすっと「貴女には聞いてません!」と肩を落とした。
それから僕にそろっと近づいてきて、
「まぁいいですけどぉ……香乃さん」
「あ、はい」
「あんまり女の子に親しくし過ぎると、後が怖いですよぉ?」
脈茶低く小さい声でそう言うと、ラウラさんの下に戻って行った。
うん、滅茶苦茶怖いからやめてほしい。本当に僕が何をしたと言うのか。
『何話してたのリーシェ?』
『香乃さんへちょっとしたアドバイスをしただけよ』
ラウラさんが首を傾げるけれど、オーエンさんは笑顔で返答するだけ。何を話しているのか、読心を使わなくても何となくわかるようになってきた近頃。理不尽だ。
と、エリスさんが肩をぽんぽんと叩いてきた。
「でもそうねぇ、実里はもうちょっと女の子との接し方に気をつけた方がいいかもしれないわねぇ」
「え?」
「なーんでもないっ」
エリスさんは悪戯っぽくそう言うと、微笑みながら静かに見守っていたカフカの所へ戻って行った。
「僕、結構気をつけてるんだけど……」
思わず漏れた独り言に返答してくれる人は誰もいなかった。
「実里、ちょっと話があるんだけどよ」
朝礼まで五分と差し迫った頃、朝練から帰ってきた明守真がちょっとばかり真剣な声でそう言うものだから、何事かと身構えてしまった。
「場所を変えようか?」
「いや、別にそこまで深刻な……あ、いや、俺たちにとっては結構深刻か?」
明守真は苦笑を漏らし、やれやれと言わんばかりに肩を竦める。
「土曜日さ、澄香がお前ん家行くってよ」
「え」
青天の霹靂とはこのことか。いや、前に澄香姉が遊びに来るって話は聞いていたから近いうちに、とは思っていたけどさ。
でも、土曜日はまずい。多分、ほぼ一日留守にするだろうし、成果次第では日曜日も潰れるかもしれない。
何より、澄香姉に危険が及ばないとも限らない。
「土曜日か……」
「うん? どうした?」
「いや、その日はちょっとね……」
「何か用事があるのか?」
「まぁ、ね」
そう言うと、明守真は少し考えるような素振りを見せてから「ははぁん」と笑みを浮かべた。ニヤニヤしているのに、格好よさは崩れない。性根もさっぱりしている正真正銘のイケメンだからだろうか。正直羨ましい。
くだらない事を考えていると、明守真はこそっと小さい声で、
「もしかして、副会長絡みか?」
「ヴぉ?!」
思わず変な声が漏れてしまった。
でも、それは答えているのと同義で。
しまったと思った時には、明守真は体を起こし、腕を組んでうんうんと頷いていた。
「そうか、そうか……じゃあしゃーねーな」
「おまっ、明守真っ」
「いや、別に勘違いとかしてないぞ?」
ニヤニヤ笑ってるせいで全く信じきれないよ、そのセリフ!
でも、次の瞬間には柔らかい微笑を浮かべて、僕の頭に手を置いてきた。
「まぁ、理由は聞かねぇよ。ただ、お前に澄香たち以外で遊ぶ女の子ができたみたいで、俺は嬉しいぜ?」
「別に円迎寺さんとは……」
付き合ってないというか、フラれました。なんて言えず、言葉を詰まらせると、明守真はなお暖かい眼差しを向けて、肩をぽんぽんと叩いてくる。
「澄香には俺から上手く言っといてやるよ」
「明守真が思ってるようなことじゃないからな」
実の所半分以上正解だけれど、遊びに行くのではなく、能力者集めのためだ。正直に言えないけれど、悔しいからそういう風に言っておく。
「おう、そうかい」
最後まで微笑を崩さずに、明守真は自分の席へと戻って行った。
とはいえ、澄香姉来訪が中止になるみたいなので、明守真には感謝している。
本当は会いたいんだけど……今はまだ、やめておく。
この異変をいち早く終わらせて、それからまた皆で……。
「物思いに耽ってるわね、香乃」
「さっき頭に手を置かれたから、そのことを考えてるのかもしれないわよ?」
「やっぱり飛崎君、香乃君の事を……」
「飛×香乃、いいわね」
「いやいや、香乃×飛も捨てがたいわよ!」
『そ・れ・だ』
なお、実里がアンニュイな気分に浸っている最中、一部の女子たちがこっそりと談義をしていたのだが、実里本人はまったく気づいていなかった。
まさかのゲーム(アプリ)版サーバルちゃんの登場に歓喜した今日この頃です。




