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第二十九話 キミとアナタと土曜日に

大変長らくお待たせいたしました。

 初々しいな。

 四人の男女が談笑しているのを見ながら、そう思った。

 ここは昔から海外からの旅行者や移住者も多い場所だ。留学生がいてもおかしくはないし、こうして人種や性別に関係なく楽しい時間を過ごしている姿を見るのは、学生時代を思い出して、悪い気はしない。

 少なくとも、そのうちの二人がこの異変の中心に近い者……能力者でなければ、の話だが。

 向こう側は全く気が付いていないようだが、こちらは二人が入ってきた時からずっと思考領域に二つのマーカーが点滅しているのだ。邪魔にはならないが、能力者同士が近づくと勝手に出現して、地球の裏側にいても出現場所の地図まで表示するのだから、呆れるやら感心するやら。初めは妄想か催眠術の類にでもかかったかと思ったが、この半月ちょっとで慣れきった。

 それに、この『共鳴反応』は我々にとって、互いの存在を知るために必要不可欠な力だ。

 半年で世界が滅亡すると聞かされた時に、その言葉が真実だと直感した。力を試しに使い、知り合いの話を聞いて、完全に確信に至った。

 一日でも、いや一刻も早くすべての能力を集めなければならない。

 幸い、日本の同じ場所に二人の能力者がいたことで他の能力者たちも集まってきた。ならば早く接触をと思った矢先、『傲慢』と『怠惰』の反応が消えた。その時に必ず『色欲』が近くにいたため、何か知っているのではないかと思い、その人物を追ったところ、すぐに見つかった。

 この喫茶店によく通っている少年少女たちで、少女と見間違うような顔立ちの『色欲』と、ヤマトナデシコと言う言葉が似合う『強欲』の二人。

 数日観察していたが、人物的にも悪いようなところはなく、特に能力を悪用している節もなかった。

 彼らが『傲慢』と『怠惰』を倒して能力を奪ったのではないかとも考えたが、共鳴する能力は二つだけで、もしかしたら残りの二人は何かしらの方法で反応を押さえているのかもしれない。

 どちらにしても、あの二人にまず接触しなくてはならないのだが、


「―ふむ、やはりか」


 店を後にする少年少女たちの後を追うために立ち上がろうとして、透明な壁のようなものに阻まれる感覚に襲われる。席に座ればすぐに霧散するそれは、彼彼女らの姿が見えなくなるまで続いた。

 この彼らに近づけない不可思議な現象をどうにかしないと、話し合いすらできない。

 ならば、それを解決できる可能性のある人物に相談しよう。知人から紹介された人物だが、日本で行動する上で色々と協力してもらっている。

 電話をかけ、本格的に二人と接触しようと思っている旨を告げると、二人に危害を加えないのであればよいのではないか、と返ってきた。意外にもあっさりと認めてくれたので少し拍子抜けしたが、これで心置きなく行動できる。

 後は、懸念している現象について聞いてみる。

 と言っても、一般人に話したところで、そんなバカなことがあり得るのかと苦笑されるだけだろう。私だって、色々と経験を積んでいなければ失笑していたはずだ。

 その現象について特徴をあげるなら、いるのにいなかった、と言えばいいのだろうか。

 顔や容姿について漠然としたイメージしか記憶に残っていないこと、こっそり撮影しても“彼彼女らの”姿が映っていないこと。物理的に近づこうとすると見えない壁のようなものに阻まれたり、接触しようという気が失せてしまったり、そもそもが何をしようとしていたのかを一瞬忘れてしまったりすることだ。

 一度ならず二度、三度と必ず起きたこの奇奇怪怪な現象について、最初は能力者による妨害工作かと思っていたのだが、協力者によると半分正解で半分違うとのことだった。


『―君だけで接触することはとても困難だろうから、君たちが話し合う機会を設けてあげるよ』

「ありがとうございます」

『ただし、何度も言うけれど、二人に危害を加えないこと。君から攻撃したその時点で、君にかけている『隠れ蓑』を解くからね』

「わかりました。しかし、向こうから仕掛けてきた場合には対応させてもらいます」

『うん、それは当然だね』

「それと……少し試してみたいことがあるのですが……」


 私の要望に苦笑が返ってくる。


『何も試す方法はそれじゃなくてもいいんじゃないのかい?』

「自分でもそう思います」

『それでもやめないんだね』

「ええ」

『了解した。それで、今から行ってみるかい?』

「……いえ、今日はやめておきます」


 脳裏からはすでに『色欲』と『強欲』の反応は消えている。どうやら別れてしまったようだ。あの二人の家を探そうとしても、『プライバシーの侵害はちょっとね』と協力者が探せないように何かしらの妨害をしてくるのでできていない。

 世界の危機だというのに、何をのんびりしたものだとも思うが、先方はあの二人も含めてこの街を守護しているとのことなので、腑に落ちなくても強く反論できない。

 しかし、これはチャンスだ。

 こちらだって穏便に進められるのであればそうしたいところであるし、相手がもし観察通りの温和な人物であれば、少なくとも三つの能力者が集まり、『傲慢』と『怠惰』の居場所が分かれば異変解決へのゴールが一気に近づく。

 もし私一人ならば、二人への接触は難しかっただろう。

 本当に、この協力者を紹介してくれた知人には感謝する。


「今週の土曜日に接触しようと思います」

『土曜日?』

「何やら出掛けると聞こえたので」


 顔も大雑把な印象でしか覚えていないのに、そのくだりだけはしっかりと記憶に残っていたのだ。


『……ふぅん……そうか。私が何かしなくてもいい気がしてきたけど……』


 どこか思案するような、それでいて何かに感心しているような声音が聞こえてきた。


『わかった。土曜日にできるよう整えておくよ』

「よろしくお願いします」

『そうそう、君以外の能力者も彼らに接触しようとしているみたいだから、もし鉢合わせても喧嘩はやめてくれよ?』

「善処します」


 通話を切ると、肩がすぅっと軽くなった気がした。どうやら、知らず知らずのうちに緊張していたようだ。

 思わずため息が漏れてしまうが、すぐに苦笑も浮かんでくる。

 今回の出来事で、普通に生きていたらお目にかかれないような超常の存在と関わり合っていることに、今更ながら可笑しさを覚えた。

 思考を切り替えよう。今は、これからの事を考えないといけない。


「さて、どうやって切り出したものかな」


 これではまるで恋文や告白内容を考える乙女、と浮かんできて微笑してしまう。

 人類世界の命運がかかっている、一世一代の告白なんだろう。

 ならば、同性の『強欲』よりも、異性である『色欲』への告白になるのだろうか。

 キミと土曜日に。

 ずっと会えるのを楽しみにしていました。


「……うむ、我ながらふざけているな」


 ぬるくなったコーヒーを口につけ、誰にでもなくつぶやいた。




 風呂上りのお茶を楽しみながらふと考える。

 帰り道ではあれだけ気恥ずかしかったのに、帰宅後はあまり気にならなかった。というよりも、まぁあまり深く考えても……と思ったから。

 この半月、非日常と隣り合わせで生活してきたせいか、こういう普通……現実的なイベントが起きると、ちょっとだけ新鮮さを感じている気がする。

 中身は真剣、相手ありきなだけに結果がどう出るかはわからないけれど、好きな人と二人きり(正確には違う)で遊び歩くという状況。

 きっと、楽しい。

 想像したら、顔が少しにやけてきてしまいそうになる。

 そう言えば物の本に、緊張して失敗してしまうのは、成功させようとしていつもよりも力が入りすぎているせいだ、とあったような気がする。

 なるほど、まぁつまり。

 相手にいいところを見せようとか、気に入られようとか考えずに、普段通り過ごせばいい。言うのは簡単でも、実際はできるのかどうかわからない。

 でも、普段通りでいいのであれば緊張せずに過ごせるかもしれない。

 ただ二人で過ごす時間を楽しめればそれが最高だし、それを見ているかもしれない残りの能力者にも、好意的に受け取ってもらえるかもしれない。

 ちょっと楽観的だけれど、多分大丈夫だと思えてくる。


「アナタと土曜日に」


 ふ、と口元が緩んで、胸の中から暖かい感情が浮かんできた。

 温くなってしまったお茶を飲み終えて、部屋に戻って布団に入る。

 明日、顔を合わせたら、ちょっとぎこちない感じになるかもしれないけれど、すぐにいつも通りになる。

 そうしたら、また他愛ない話をしよう。

 ―……アナタと……一緒………に…………すぅ……すぅ……。


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