第二十七話 リーシェのお節介
「ラウラと香乃さんが二人でお買い物している姿を、他の能力者たちに見せるんですぅ」
『?!』
僕とラウラさんが同時にオーエンさんへ顔を向けるけど、突っ込みを入れる前にカフカが「ほむ」と口を開いてしまう。
「ですが、それをして何の意味が?」
「二人が仲良くしている姿を見せれば、もしかしたら友好的なのではないか、と思わせられるかと」
いや、それだったら登下校時の姿を見てもらえれば問題ないんじゃ、と言おうと思ったらオーエンさんが目線だけを向けてきた。その鋭い眼光と威圧で、開きかけた口が閉じた。
「ふむ……何もしないよりいいかもしれませんが、実里さんたちにもしものことがないとも限りません」
「もちろんsupportはしっかりします。カフカ様、スタッカートさん、私で姿を消しながら二人を護衛、能力者との接触で問題があればすぐに介入するんですぅ」
「ちょっと待って」
オーエンさんが言い終わった瞬間、僕は会話に待ったをかけることができた。
エリスさんは口元に笑みを浮かべているし、ラウラさんは色々と言いたそうにしているけど黙って成り行きを見守っているので、ツッコめるのは僕しかいない。
オーエンさんが提示した方法は僕も考えていたことだけど、それなりのリスクがあるし、能力者側の受け取り方によってはますます能力が集まらなくなってしまう。
まず、ラウラさんと仲良くしている姿を見せて友好的だと思わせると言う点だけど、身内だけに甘い人はいくらでもいるので、これでひっかかるような人ならもうすでに僕たちの前に姿を見せていると思う。
次に、もし攻撃を仕掛けてこられて、それをオーエンさんたちで迎撃しようものなら、隠蔽能力にことがバレるし、隠れて接触または攻撃しようとしている他の能力者を余計に警戒させてしまう。
どう考えても没案だ。そんな単純な話しじゃない。
そんな心配をする僕に『No,problem』とオーエンさんは話を進める。
「大丈夫ですぅ。カフカ様の隠蔽能力を使っていただくので、二人からcontactを取らない限り、能力者以外の人は誰も近づいてきません。明確に二人に近づいてくるということはつまりは能力者ということになりますから、敵意がありそうな時は接近しきられる前に私たちで食い止めますぅ」
「いや、そうじゃなくてさ……」
食い下がる僕に、オーエンさんはふわりと笑みを浮かべた。目元は、あ、笑ってる。笑っているのに、どうしてだろう……寒気が……ッ?!
「香乃さん……いいですかぁ?」
「はい?」
小さく首を傾げてほほ笑んだままオーエンさんは無言になった。どうかしたのかと思って読心を展開した瞬間、
『男なら黙って頷け』
滅茶苦茶低い英語と共に、目の前にオドロオドロしい文体が出現したので、僕は慌てて頷く。
「というわけで、どうですかぁ?」
特に異議が出ることはなく、こうして、オーエンさん発の作戦は土曜日に決行されることになった。
実里たちと別れ、しばらく歩いたところでラウラが口を開いた。
『リーシェ、さっきの作戦って……』
『大丈夫よぉラウラ。うまくいくようにサポートするから』
『そういうことじゃなくて! この作戦、普段私たちがやってることとあまり変わらないじゃない! それに、実里君と二人きりって……』
『そうじゃないと、相手だって接触しづらいと思うんだけど』
『そもそも、ほとんど意味なんてないわ! これで釣れるような相手なら、もうすでに出てきてるわよ!』
そんなことくらいリーシェもわかっているが、これはラウラと実里の仲を進展させるいいチャンスなのだ。もちろん能力者へのアピールというのは半分本音だが、もう半分は親友へのお節介。そのためなら、ラウラの恋敵である、敬愛するカフカや気に食わない『傲慢』も巻き込んでサポートする所存である。
『いいラウラ? よく聞いて』
それでもリーシェは真剣な空気を醸し出しながら、ラウラを見つめる。
『私やカフカ様たちがいない状態の休日の活動って初めてでしょ。確かに、二人だけで共鳴反応を出しながら歩いているということは、それだけ自信があると捉えられるでしょうけど、仲よさそうにしていて、何気なく『他の能力者ともわかり合えれば』みたいな会話をしていれば、それなりに近づきやすい空気が作られ』
『るわけないでしょ! 六十メートルも離れてたら大声を出さなきゃ聞こえないじゃない!』
なおも正論で食い下がる親友に、リーシェは「えぇいままよ」とばかりに畳み掛ける。
『ラウラ、この作戦は貴女と香乃さんじゃないとダメなの。これによって相手へ好印象を与えられれば今後の展開はずっと楽になるし、逆に捉えられても私たちが監視している中でそれっぽい素振りをしている人を見つけられるかもしれないの』
『いやリーシェね』
『ラウラ!』
『?!』
『貴女と香乃さんに、世界の未来がかかってるの。理解していただけたかしら?』
『ぅ……わ、わかったわよわかった』
勢いに押されたラウラが、若干上半身を仰け反らせながらも頷く。それを見て内心ほっとしながらも、全く気取らせない自然さでリーシェはにこりと笑った。
『安心してラウラ。貴女と香乃さんは絶対に守るから』
能力者からも、恋敵からも。
そんなリーシェの企みを見抜いているだろうラウラは、しかし勢いで反論を封じられ、不承不承と言った体で頷いてきた。
これでよし。後は当日の二人次第である。
『土曜日が楽しみね、ラウラ』
『リーシェ、やっぱり貴女……』
『うん?』
『……なんでもない。うぅ……』
頭を抱える親友を見て、さっそくお腹いっぱいの気持ちになるリーシェだった。
リーシェ「これはチャンスですぅ! 絶対に逃せません!」
ラウラ「リーシェ……」




